断腸亭料理日記2007

冷汁

8月12日(日)第二食

さて、暑い、暑いといいながら、第二食。

思い付いたのが、冷汁。

冷やし汁、と、いういい方もある。

昨年、「池波レシピ」と、してやってみた。

作品は、「仕掛人・藤枝梅安」。
「梅安最合傘」から、「さみだれ梅安」。

場所は、日本橋富沢町の蕎麦屋〔駒笹〕の二階。
仕掛けが終わった梅安先生は、

鰹の生鰹節を煮崩して、なすや、きゅうりも入れた、
冷やし汁、それから瓜もみ、

というメニューを食す。

日本橋富沢町は、人形町の北側。
当時は、浅草猿若町に移転する前で、近くに江戸三座、
歌舞伎芝居小屋があり、江戸でも名高い、
繁華街、まあ、乙な場所であったといえよう。

そんなところの蕎麦屋の二階で、
“生鰹節を煮崩した”冷やし汁、が、出たのか?、という問題がある。
つまり、この頃の江戸で、冷やし汁、なるものが、
食われていたのかどうか、ということ。

むろん、池波先生のフィクションの世界である。
それを追求することに、さほどの意味はなかろう。

昨年のこの時、少し、冷やし汁、冷汁、を調べ、
なん回か作ってもみた。

ある程度、冷汁、冷やし汁なるものが、わかった。
地域的には、秩父、などにもあるようだが、九州、それも宮崎地方で、
名物といってよいほど、今でもよく食べられているものであること。
作り方は、魚を焼いたものをほぐし、ダシにし、煮、
焼き味噌で味を付け、豆腐、きゅうりなどを入れて、冷やす。
こういうもののようである。

昨日の、刺身となめろうにした、鯵がまだ五匹、残っている。
冷汁は干物などを焼くのが普通のようだが、生の魚でも
よいようである。
材料は、他に、きゅうり、豆腐、大葉。
豆腐はちょうど昨日の酸辣湯に使ったものが残っていた。

きゅうりと、大葉を買いに出る。

帰宅。

まず、昆布でダシを取る。
鯵を入れるので、昆布だけでよかろう。

鯵、二匹ほど、腹を出し、きれいに洗い、塩をせず、素焼きにする。

身を骨からはずし、小骨はともかく、大きな骨を取る。

味噌を焼く。
アルミホイルに味噌(普通の信州味噌)を広げ、
表面に焦げ目が付く程度に、焼く。

味噌を焼く意味は、味噌くさい匂いを飛ばすためだという。
(本場宮崎の方によれば、『冷汁は、味噌汁を冷したものではない。
この焼く、という行為で、味噌の匂いがなくなり、冷汁になる』、
と、いうことなのである。)

昆布で取っただし汁に、ほぐした鯵、
豆腐を手で崩しながら入れ、一度、沸騰させる。

火を止め、ここで冷やす、と、いう。

味噌を入れるのは、冷えてから、ということである。

洗面所のシンクに、蓄冷剤を大量に入れ冷水を作り、
ここに鍋ごと入れ、冷やす。

この間に、きゅうりを薄く切る。

ある程度冷えたところで、キッチンに戻り、
先の焼いた味噌を入れる。
それから、あたり胡麻。思いっきり、入れるといい、らしい。

味加減は、濃い目。
冷して食うものは、熱い状態で食べる場合よりも
強くするのが、料理のセオリー、で、ある。

味見。
ちょっと、薄いので、追加で焼き、入れる。

薄切りのきゅうり、それから、大葉。
これも、思い切り入れるとよい、らしい。
一束全部、きざんで入れる。

あとは、少なくとも、一時間以上馴染ませる(冷やす)と、いう。

先ほどの冷水に再度、蓄冷剤を入れ、そのまま冷やす。

この一時間、と、いうのは、きゅうりが馴染む時間のようである。
(で、あれば、事前に、塩もみにでもしておけば早そうだが、
レシピ通りに、する。)

一時間。

飯にぶっ掛けて食べるのが、普通のようだが、
一先ず、このままで、ビールを呑むことにする。


なるほど。
これは、確かに、冷えた味噌汁ではない。
鯵のダシ、豆腐、あたり胡麻、焼き味噌が、渾然一体となって、
得もいわれる、味に仕上がっている。
きゅうりも、もう少し、馴染んだ方がよいようだが、
かなり、うまい。

さて、翌朝。
冷蔵庫に鍋ごと入れておいた冷汁に、
前夜、炊いておいた、冷や飯、にかける。
これも、温かい飯ではなく、冷汁には、
冷や飯でなくては、だめ、だという。

まあ、あたり前といえば、あたり前で、ある。
きりりと冷えたところが、冷汁の身上。
温かい飯にかけて、生温かいものになってしまっては、
だいなし、で、あろう。


きゅうりも馴染み、飯にかけても、かなり、うまい。

冷汁。

こう毎日暑いと、最高で、ある。




参考にさせていただいた、
宮崎の方のページ(くま屋、と、いう海産物やさん)。




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