断腸亭料理日記2007

蔵前・幸寿司

3月10日(土)夜

第一食は、昼前、千束ねぎどん。
ざるそば玉子かけ、おろしと、桜海老天

最近の定番、である。

さて夜。

この日記で書いていなかった。
蔵前の鮨屋、幸寿司、で、ある。

文春の「東京いい店」にも載っていたり、雑誌などにもよく出るので
知っている方も多いかもしれない。

蔵前といえば、先日も書いた。

江戸の地図

この店は、浅草御蔵の「上ノ門」のちょうど前。

元旅籠町一丁目と二丁目の間の路地(と、いうには少し広いが。)の角。

現代の町名は蔵前3丁目4番地。蔵前通り(江戸通り)を挟んで、デニーズの斜向かい。
このあたり、通りの東側の路地の配置は、江戸の頃と変わっていないのがわかる。現代は、おもちゃやら、雑貨やら、やはり問屋さんの町である。

以前には何回か、きていたのであるが、ちょうど
この日記を書くようになってからであろうか、特段の理由があるわけではないが、きていなかった。

ちょっと、違うところにいってみようか、ということで、
TELをし、夜7時に予約した。

夜、徒歩で内儀(かみ)さんとともに出かける。
このところ、また少し寒かったが、今日は日も出て、平年並みであろうか。

元浅草の拙亭から、路地を抜け、テクテクと歩く。15分もかからない。

入るとカウンター。
ご主人と女将さんお二人でやっている。

ご主人は比較的お若く見えるが、五十はすこし過ぎていよう。
この方は二代目。先代の頃は浅草観音裏にあったという。

人形町の喜寿司(喜は七を三つ書く、ぐずした喜の字。)
で修行され、店をここに移した、と、聞いている。

いわゆる、古い江戸前の仕事をきちんと受け継いでいる、方、と、いうことになろう。

上に宴会もできる座敷があるようだが、ご主人のキャラクターであろう、一階は静かな店である。

人形町喜寿司というのは、筆者なども20代の頃であろうか、
怖いもの知らず、若気の至り、身の程知らずにも、
内儀さんとともに出かけたことがあった。

当時は、バブルも終わった頃。
いわゆる接待の客も減っている時期であったが、
値段は1人2〜3万を超えていただろう。
味や技、ねたの揃え方も、むろん、未知の世界であったが、
なにより驚いたのは、老舗有名店にありがちな、

一見客に対する横柄な態度は一切なく、筆者ら若造に対してまでみせる
客あしらいの良さには、驚いたものであった。
人形町という街の歴史。ほう、これが、東京の由緒正しい接待寿司屋、
か、と記憶に留めた。

そんな客あしらいを、このご主人は受け継いでいるのだろう。
威勢のいい、へい、いらっしゃい、の鮨屋では、ない。

座ると、ビール。
ここは、ハートランド。

春の味、穴子の子供、透き通った、のれそれ、のポン酢。
ほたるいか、湯葉。それぞれ別の小鉢で出される。
ほたるいかは、今年は、富山湾がだめらしい。

うちの内儀さんが、腹が減っている、というので、
まず、出してくれたのが、鉄火(中落叩き)巻と、いか、づけ。
いかは、すみいか。
酒を呑むことを、前提しているからだろうか、
ここの握りは、小ぶりである。

そして、白魚、を出してくれた。
これは古い江戸前式、と、ご主人はいう。
生ではなく、さっと煮たものを、軍艦ではなく、にぎって出された。
むろん、今、白魚なんぞは、は江戸前では獲れない。

白魚は、ご存知の通り、大川(隅田川)河口、佃の漁師が獲っていた、
江戸前筆頭の、名物でもあった。生の白魚の頭が、上から見ると透き通り、
葵の紋所に見えたから、などともいい、
権現様、徳川家康公の好物であったともいう。

やはりこの時期のものであろう。

あの、歌舞伎、河竹黙阿弥作
『三人吉三郭初買(さんにんきちさくるわのはつかい)』、お嬢吉三の、
名台詞も思い出される。
当時、白魚は篝火を焚いて漁をしたのであろう。

「月も朧(おぼろ)に白魚の、篝(かがり)も霞む春の空、

つめてえ風もほろ酔いに、心持ちよくうかうかと、浮かれ烏のただ一羽、

塒(ねぐら)へ帰(けえ)る川端で、棹(さお)の雫(しずく)か濡手で泡、

思いがけなく、手に入る百両。、、、こいつは春から縁起がいいわえ。」

声に出していいたくなる。

先日の、南畝先生ではないが、掛詞も多用した、七五調の名調子、で、ある。
ちなみに、これは、初演1860年、安政7年、
南畝先生が亡くなったおよそ40年後の、幕末で、ある。

舞台は大川、季節は節分。

月は出ていないが、今晩なども
《つめてぇ風がほろ酔いに》、気持ちがよい。


ともあれ。

腹も落ち着き、刺身。

みる貝と、かれいを、少し切ってくれた。

みる貝は、むろん本みる。
もう平目の季節ではなく、かれい。

光物、ということで、さよりを、つまみで。
この時期のものであろう。甘く、ねっとりしており、うまい。

また、皮も串に巻き付けて、焼いて出してくれた。
さよりは、皮に脂が残るので、こうしたことをよくする。
これも、香ばしく、うまい。

鰹節の糸削りが、ほわっと、かけられた、山葵の茎のおひたし。
ピリッと、うまい。

さて、にぎり。

小肌。
比較的大きめの切り身。〆方は浅め。

内儀さんの希望で、うに。

穴子。
焼いてある。

玉子。
厚焼きではなく、昔風の
柔らかい薄焼きに、海老のおぼろをはさんだもの。

うまかった。

お勘定、一人¥12000程度。


ブラブラ歩いて、帰宅。



幸寿司
住所:東京都台東区蔵前3-4-8
電話:03-3863-1622



参考:「知らざあ言って聞かせやしょう」赤坂治績 新潮新書



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