断腸亭料理日記2007

並木藪蕎麦

9月30日(日)第一食

雨、で、ある。

二、三日前までの、30℃を超える残暑から
涼しくなった、というよりも、いきなり、寒くなってしまった。

それと、関係あるような、ないような、、、。
蕎麦が食いたい。

このところ、神田猿楽町の松翁、池の端藪蕎麦などいっているが、
やはり、週に一度は、ちゃんとした蕎麦やで、蕎麦を食いたい。

池の端とくれば、並木。
並木藪蕎麦、で、あろう。

午前の営業は、なん時からであったか、調べてみると、
11時からのよう。

雨がざあざあ降っているが、出かけようか。
下駄を履いて、傘を差し、歩く。

素足に下駄であるが、はねる水で、足が濡れるほど。

新堀通りを渡り、寿町。
国際通りも渡り、路地を北上。

浅草通りを渡り、雷門。
路地を右に、雷門の正面の通り、並木の通り、に到着。

さて、並木、のこと、で、ある。
むろん今は、ここは並木、ではなく、町名は雷門(二丁目)。
雷門という町名になったのは昭和九年。
それ以前は、浅草並木町。

この並木という町名は古く、江戸初期までさかのぼるようである。
由来は、浅草寺雷門門前のこの通りに、想像の通り、
並木があったからのようである。なんの木であったかは、
諸説あり、松とも、桜、ともいうようである。

ちなみに、雷門のこと。
浅草といえば、雷門。東京を代表する観光名所でもあり
風神と雷神が鎮座する朱塗りの門は、あまりにも有名である。
しかし、これが、昔からずっとあったのか、というと
そうでもないというのは、今はもう知らない人も
多いのではなかろうか。
実のところ、筆者も知らなかったのである。
この有名な、雷門は幕末の慶応元年に焼失して以来、
明治、大正、昭和と、焼失したまま、再建されなかった
ということなのである。
やっと再建されたのが戦後も、昭和三十五年。
それも、松下電器の寄進であったという。
(今もあの提灯の下の方に、「松下電器」の文字が入っている。
以前は、もっと大きく入っていた記憶もあるような、気もする。
それにしても東京のシンボルともいえるものを、再建をしてくれたのが、
関西の企業であったというのは、意外な気もする。)

閑話休題。
並木藪蕎麦であった。

並木藪蕎麦の創業は、大正二年。
今のこの、木造の一軒家のたたずまいからは、
意外に、新しい、というべきであろうか。

強い雨の中、11時過ぎ、だどりつき、戸を開ける。
開店から、さほど時間はたっていないと思われるが、
もう既に、なん組かお客は入っている。

座敷でも、テーブルでもどうぞ、と、お姐さん。
テーブル席に座る。

と、ここは、一人のお客の場合、
スポーツ新聞を出してくれる。

第一食目、ではあるが、、、
お酒!

お燗しますか?

そうですね。(寒いから。)

と、お燗でお酒をもらうことにする。
それから、今日は最初っから決めてきたのであるが、
つまみは、天ぬき。

ご存知の通り、天ぷらそばの、蕎麦抜きが、天ぬき。
鴨南蛮の蕎麦抜きが、鴨ぬき。

最初にお酒が来る。

塗りの四角いお盆に白木の一合枡を袴(はかま)にし、
白い一合の銚子、同じく真っ白な、猪口。
小皿にちょこなんと盛られた蕎麦味噌。

酒は、菊正宗の樽酒。

スポーツ新聞を読みながら、
一口、二口呑むうちに、天ぬきも、くる。


れんげもついてくる。

実のところ、天ぬきを頼んだのは初めて、で、ある。
ついでに、ここでは天ぷらそばも、ない。
天ぷらは芝海老のかき揚げ。

これは、池の端藪と同じ。
池の端は、厚みがあり、鳥の巣のように、細かい
凸凹を表面につけた、芸術的な仕上がりであるが、
ここのものは、そこまででは、ない。
やはり、店のカラー、で、あろう。
下町でも上品な池の端と、浅草並木の違い、と、
いうことでもあろうか。

つゆを飲んでみる。

並木藪蕎麦は、日本一つゆが濃い、ので有名である。
これは、温かいつゆ蕎麦でも同じだと思われる。
温かい蕎麦でも、蕎麦湯が出るくらいである。
(むろん、もり蕎麦のつゆよりは、薄い。
他の店との比較して、と、いう意味である。)

この天ぬきのつゆは、それよりさらに、薄いのではなかろうか。
普通に、飲める。

蕎麦がなく、つゆに直にひたっているので、すぐに
かき揚げは、くずれてくる。

以前に、路麺(立ち食いそば屋)は、天ぷらを抜きには
考えられず、こうしてくずれてくる、天ぷらを食う、
というのが、路麺のポイントである、と書いたことがある。

むろんこれがうまい、のであるが、
なんのことはない、天ぬきとは、そういうもの、で、ある。

くずれた衣やら、海老などを、れんげですくって、
つゆとともに食い、酒を呑む。

いい頃合いで、もり、を、もらう。
食べ過ぎてもいけない、一枚。

天ぬきは、つゆも全部飲み干す。

酒と天ぬきで温まった身体に、冷たいそばの
のど越しが、気持ちよい。

うまかった。

席で勘定をして、出、
再び、雨の降る浅草の街へ。



並木藪蕎麦
TEL 03-3841-1340
〒111-0034 東京都台東区雷門2丁目11−9 



地図




参考:下谷浅草町名由来考(台東区)






断腸亭料理日記トップ | 2004リスト1 | 2004リスト2 | 2004リスト3 | 2004リスト4 |2004 リスト5 |

2004 リスト6 |2004 リスト7 | 2004 リスト8 | 2004 リスト9 |2004 リスト10 |

2004 リスト11 | 2004 リスト12 |2005 リスト13 |2005 リスト14 | 2005 リスト15

2005 リスト16 | 2005 リスト17 |2005 リスト18 | 2005 リスト19 | 2005 リスト20 |

2005 リスト21 | 2006 1月 | 2006 2月| 2006 3月 | 2006 4月| 2006 5月| 2006 6月

2006 7月 | 2006 8月 | 2006 9月 | 2006 10月 | 2006 11月 | 2006 12月

2007 1月 | 2007 2月 | 2007 3月 | 2007 4月 | 2007 5月 | 2007 6月 | 2007 7月

2007 8月 | 2007 9月




BACK | NEXT |

(C)DANCHOUTEI 2007