断腸亭料理日記2008

南千住・うなぎ・尾花

6月20日(金)夜

さて、金曜日になった。

今週も、タフな一週間であった。

今日は、もういい。
とっとと、帰ろう。

実は、昼間から、今夜はうなぎが食いたい。
それも、尾花にいこうと、たくらんでいた。

ウイークデーにいくのは初めてかもしれない。
いつも、土日である。
最近は、いや、最近、も、人気で、土日は長蛇の列。
先日も門の前まできて、あきらめたことがあった。

6時半頃、終了。

牛込神楽坂の駅まで足早に歩く。
念のため、店にTELを入れてみる。

なん時まで大丈夫ですか?と、きくと、
女将さんであろうか、
そうですね〜、7時前までにきていただければ、
ということ。

これは急がねば。

ホームまで走り、来た電車に乗り、新御徒町到着。
TXに乗り換え。
大江戸線から、TXは、さらに下に降りる。
ホームに降りると、次の電車は、新御徒町発、48分。
間に合うだろうか。

浅草、南千住、二駅。

着いた。
6時53分。

7時前には、ということは、7時ではだめ?
ここまできて、食べられないのは、かなりのショックである。

急ぐ。

改札を出て、走る。

交差点を回向院側に渡って、常磐線の土手下の路地に曲がる。
走る。

夜風に乗って、いいにおいがしてきた。

到着。

おお。

まだ、数組、外の縁台に座って待っている人達がいる。
これは大丈夫であろう。

念のため、暖簾から頭を入れ、下足のおばさんに
まだだいじょうぶですか?、と確認。
OK。

よかった、よかった。

縁台の一番はじっこに座る。
走ってきたので、汗が噴き出る。

今日も蒸し暑い。

上着を脱ぎ、ネクタイも外し、扇子でパタパタ。


白い麻の大きな暖簾があって、お稲荷さん。
薄暮の尾花。

随分と必死で走ってきたので、
間に合ったとなると、既にこの時点でかなりの満足。

この店先の庭の風景も、数倍のものに見える。

もうこの時間である。
私より先に待っている人々も次々と呼ばれ、
私の番になったのは、10分後。

いそいそと、玄関に入る。

靴を脱ぎ、入れ込みの座敷に上がる。

座敷は、なるほど、まだまだ一杯のお客である。

正面、大きな神棚の下のお膳に案内される。

神棚を見上げ、一人で、『宮下(みやした)かぁ〜〜』などと、
妙に機嫌よく考える。

他愛ないことなのだが、
落語、居酒屋に、こういうせりふが、ある。
居酒屋にお客が入ってくると、店の小僧が、
「宮下へ、おかけな、ぁ〜〜い」、と奇妙な声で席を勧める。
客は「なんだい宮下、ってな?」
小僧は「大神宮様(神棚のこと)の下があいていますので」、
という。
むろん、案内をしてくれた、尾花のお姐さんが
こんなことを言ったわけではない。

注文は。

ビールに、鯉の洗い、うな重、肝吸いをつけて。

ビールはキリン。

鯉の洗いは、最初っからきまっていた。
前にも書いているが、どうも、ここへくると、つまみは
鯉の洗い、以外に、私には、ない、ように思うように
なっていたのである。

季節、というのもある。
しかし、冬でも、頼みそうである。

鯉の洗いが、好き、というのもある。

東京で、鯉の洗い、をいつも置いているところ、
というのも、さほど、多くもない。
(もともとは、川魚料理屋にあるものであろう。
そういえば、先日の、駒形どぜう、にも、あった。)

尾花のうなぎを、ゆっくり待つ間、鯉の洗いをつまんで、
待つ。
なにか、これが私には、よい、のである。

ビールがきた。

大瓶である。

洗い、も、きた。


氷が添えられている。

赤味噌の、酢味噌をつけて、食う。
うまい。

つまみながら、ゆっくりビール。

新聞なぞを読みながら、寛いで、待つ。

・・・

どのくらい待っただろうか。

いや、なん分待ったかは、どうでもいい。

やはり、この尾花の入れ込みの座敷に胡坐をかいて、
鯉の洗いをつまみに、ビールを呑みながら、
うな重を待っている時間も、尾花のうなぎ、なのである。

肝吸いと、お新香が先にきて、
うな重が、きた。

お重のふたを開ける。
この瞬間が、どうにもたまらない。

待ちに待った、尾花の、うな重。


あらためて、思うが、うつくしい。

山椒をふりかけ、箸を入れる。

蒲焼が、柔らかい。
味の濃さは、普通で、あろうか。

うまい、うまい。

幸せ、で、ある。

食い終わる。
お茶を飲み、荷物をまとめ、帳場へ向かう。

勘定を払い、女将さんの声に送られて、
下足のおばさんに、出してもらった靴を履き、
暖簾をくぐって出る。

暖簾の外に置かれている、灰皿前で、一服。
(尾花も座敷は禁煙になっていた。)
この一服まで、むろんのこと、うまい。

ここまで含めて、久しぶりの、尾花。

満足、で、ある。

PS:尾花の時間



尾花
03-3801-4670
116-0003 東京都荒川区南千住5丁目33−1



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