断腸亭料理日記2009

神保町・中国料理・揚子江菜館

12月26日(土)第二食

さて。

今年も残すところあとわずか。

仕事は、28日まで。

この前書いた、オフィスの納会での落語は、
部内でインフルエンザ患者が出たことで、納会自体が、
中止になり、私もやらなくてよくなった。
残念のような、ホッとしたような、、。

土曜、第一食は、乾麺の讃岐うどん。


つゆは、鰹削り節で濃く取り、薄口しょうゆの
関西風。
(ご想像の通り、また、二日酔い。)

こう、もやもやしていると、第二食は、また、
カツカレーか?、と考えたのだが、
そうそうカツカレーばかりでは、芸がない。

それで、例によって、行っていない、
池波レシピシリーズ。

どこかというと、神保町の揚子江菜館。


「神田に散髪に行き、Yで上海焼きそばを食べる。
みやげにシューマイ一箱を買って帰る。」

(「池波正太郎の銀座日記」新潮文庫)

と、銀座日記では、頭文字だけの表記。

他のエッセイで、実名で書かれていたこともあるような気もするが、
お弟子さんの佐藤隆介氏の池波正太郎への手紙
アンチョコにさせていただくと、Yは、揚子江菜館、
であることがわかる。

池波先生は中華も大好きであった。

今、東京で、中華といえば、ヌーベルシノワだの、新しい
中華料理の流れや、また、広東にして四川にしても、
どこでも、屋台に近かったり、中国の家庭の味だったり、
よりネイティブな味を食べさせるところがたくさんあり、
話題になるのは、そちらの方であろう。

池波先生の好きだった中華料理はむろん、
そうしたものではない。

東京に、戦前、あるいは大正、それ以前からある、
日本人にも食べやすい味の中華料理、で、ある。

私も、現代の東京の街にある、新しい中華の店にも
むろん、いく。

例えば、浅草橋の馥香、だったり、新橋の鴻運、だったり。

それは、それ、なのだが、やっぱり、
私なども、子供の頃から、食べてきた、
中華料理の味、というのが、安心できるし、
また、格別にうまいもの、で、ある。

また、東京には、こういう味の中華料理の老舗、
と、いうのが、随分とある。
私は、これも東京の味、と、いってよいものであろうと
思っている。

なぜならば、本国中国にも、あるいは、
日本国内でも東京以外では、この種の味を出す店は、
意外にそう多くはないのである。

いわば、東京流の、中華料理。

池波先生の行きつけの東京中華の店には、
書かれているものだけでも、
この揚子江菜館以外にもなん軒かある。

銀座アスター、そして、
私もよく行く日比谷の広東料理、慶楽

あるいは、やはり、銀座日記では頭文字のみの
表記だが、R、こと、銀座の、楼蘭、など。

揚子江菜館にいったことがなかったのは、
さほどの意味はない。

実際のところ、池波先生の神田の中華の
行きつけのところが、ここであったというのを
よく知らなかった、ということ。
(もう一軒、この界隈では、新世界菜館も、似たような
ポジションかもしれぬが、こちらかとも思っていた。)

昼すぎ、落語はなくなったので、稽古はなしだが
今日も歩いて、神保町まで行くことにする。

御徒町から、中央通り、秋葉原の路地を抜けて、
昌平橋を渡り、小川町、駿河台下。
大体30分くらいで着いた。

神保町というところ、むろん、子供の頃から、
古本を見に、買いに、よくきていたところ、ではある。

高校の頃には、駿河台のS予備校。
(頭文字にしなくともよい。駿台である。

余談だが、池波先生の、銀座日記の頭文字は、おもしろい。
「日本橋の百貨店T」、などと書かれている。
Tはだれがどう見ても、高島屋以外に、はない。
バレバレ、だろ、と突っ込みたくなる。

だが推測するに、銀座日記は最初、銀座のPR誌
に書かれたものであった。それで、様々、憚(はばか)る
ところがあったのであろう。)

ともあれ。

神保町は、昔から、明大をはじめとした学生と
界隈の出版社関係の人々の街、と、いってよいのだろう。

それゆえ、私もサラリーマン、社会人になってからは、
あまりこなくなった街かもしれない。

そして、日本一の古本の街。

最近は、落語会をやったり、古本屋街、あるいは、
神保町という街としても、いろんな新しい試みも
しているようである。

神保町の古本屋街は、それなりに今でも繁盛をしている
ようには見える。

どうなのであろうか。
少し話は逸れるが、古本業界というのは、
売り上げは伸びているのであろうか。

ブックオフなども登場し、また、私個人とすれば、
アマゾンのマーケットプレイスなどで、文庫本一冊でも
物によっては新刊を書店で買うよりも送料を入れても安いので
よく利用しており、明確な数字は把握していないが、
古本の流通は、それなりに伸びているのではなかろうか。

それに比べて惨憺(さんたん)たる有り様なのは、
雑誌、マンガを含めた新刊の出版業界。

これには、やっぱり、思うところ、感じるところが
少なからず、ある。

なんとなれば、私は、大手の印刷会社に勤務している。
むろんのこと、出版業界は、長年のお得意先でもあり、
出版印刷は弊社の創業の事業でもある。
直接、私自身は出版の印刷に関わる
仕事をしていないが、書籍、雑誌が売れないことは、
取りも直さず、弊社の売上げの減少であり、
他人事ではない、深刻な問題である。

また、個人としても、日本の出版文化自身が、
本が売れないことによって、地盤沈下していくのは
文化の継承という意味で大きな問題であると思う。

現状の出版業界は、様々な問題を抱えている。

どこに問題があるのか、どうするべきなのか、
私なりに考えるところもあるのだが、丁寧に考察する必要が
ある。これは、またの機会にしたい。
(しかしまあ、この文章は、私(わたくし)の
文章ではあるとはいえ、お得意先にもの申す、
ことにもなるので、書けないか、な、、。)

ともあれ。

東京神田神保町。

ネット全盛の時代だが、やっぱり日本の出版文化の中心。

隣のアキバ、と比べて、どうなのだろうか。

やっぱり、本は売れてもらわなければ、困るし、
歴史ある本の街、神保町は栄えていてほしい。
正直なところ、そう願ってやまない。

揚子江菜館は、靖国通り駿河台下の交差点、三省堂と
書泉ブックマートの間の、すずらん通りをずーっと
入っていって、白山通りに出るちょい前、右側にある。

間口はさほど大きくない、細長いビル。
1時半頃、自動ドアを開けて、入る。

昼からは、ちょっとずれた時間だが、なかなか
繁盛している。二階もあるようだが、
一つだけ、一階の入り口すぐのテーブルが開いていた。

人の出入りで少し寒いかも知れぬが、他も一杯、
案内された、そのテーブルに座る。

なににするかというと、えーと。
池波先生の、焼きそば、やきそば、、、、。

えっと、五目焼きそば!。
シューマイか、水餃子二つが付いてくる。

シューマイ、も、ですね、と中国語訛りで、お姐さん。

はいはい。
あ、それから、ビールも。
(やっぱり、呑んでしまう、、。)

ビールがきた。
元浅草から30分、歩いてきたので、
ビールがうまい。

シューマイ二つもきた。


見てわかる通り、ちょっと縦長。
珍しい形であるが、味は、オーソドックスな
うまいシューマイ。

先生は、これを一箱みやげに持って帰り、
夜中、仕事の合間に“パックラーメン”に入れて
食べていた。(前出)
“パックラーメン”とは、インスタントラーメン、
のことである。
(なんだか、池波先生が、インスタントの
袋麺を食べていたのを知ると、安心するではないか。)

五目焼きそば。


具だくさん、麺に焦げ目がついているが、
あんかけではない、塩味の文字通り焼きそば。
これは珍しいのでは。

酢をかけまわして、食べる。

懐かしい素朴ともいってよい、
さっぱりした、焼きそば。
いろいろのっているが、チャーシューが、また懐かしい。
ちょっと甘めの味がしっかりついている。

ボリュームも、ある。

うまい、うまい。

食べ終わり、勘定をして、ご馳走様でした、と、出る。

白山通りを渡り、岩波アネックスの、
古地図を中心に扱っている泰明書店をのぞき、
手元にない、江戸切絵図など買い、秋葉原に移動、
ヨドバシで買い換えようと思っている、
エアコンを見て、帰宅。


P.S.

大間違いをしてしまった。
池波先生の好きだったのは、五目焼きそば、ではなく、
店のメニュー名は、上海式肉焼きそば、で、あった。

まあ、しかし、どちらにしてもうまかったことには
かわりはないが、、。



揚子江菜館



住所:千代田区神田神保町1−11−3
TEL:03−3291−0218





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