断腸亭料理日記2009

おでん・日本橋・お多幸本店

2月3日(火)夜

夕方、調べものがあり、
大手町のMDB(マーケティングデータバンク)へ。

6時に終わり、ビルを出る。

さっきから、なにを食べようかと、考えていた。
オフィスは市谷牛込あたり、住まいは浅草、という行動範囲だと、
そうそう、このあたりにはくることもない。

どこがよかろう。
神田須田町まで歩いて、まつや

はたまた、日本橋、、
寒いので、おでん。
久しぶりに、日本橋お多幸、などは、どうだろうか。

大手町から、日本橋、というのは、意外のようだが、
永代通りを真っ直ぐに、目と鼻の先、で、はある。

永代通り、JRのガードをくぐる。
このあたり再開発も済み、新しい大きなビルが林立し、
きれいになっている。

呉服橋の交差点。
むろん、今は橋などはないが、外濠に架かっていた橋の
名前である。

渡って、一本目の路地。
もう着いてしまった。

右に曲がって、左側が、蕎麦や、藪久

ここもうまい。

次の路地を左。

日本橋お多幸は、右側にある。

お多幸でよく行くのは、銀座八丁目

この日本橋のお多幸は、なんでも昔は、銀座五丁目にあり、
平成14年にここに移転してきたという。

この銀座五丁目というのは、ソニービルの裏にあった、
店であろうか。
木造の古く、狭い店で客がぎゅうぎゅう。
しかし、そこがまた味があり、よくいったものであった。

あのソニービルの裏は、再開発できれいになり、
お多幸もなくなり、さびしかったのだが、
ここが、その移転先であったのか、、。

ともあれ。

戸を開け、店に入る。

まだ早い時間で、1階のカウンターがあいていた。
一番奥に座る。

なにか、スタスタと歩いてきたら、
体が温まってしまった。

ビール?

とも、思ったが、やっぱり、おでんには、
燗酒、で、あろう。

それから、、、。
むろん、おでん。

ちくわぶ、すじ、つみれ、玉子。

つみれは、品書きには、つみいれ、と、書いてある。
すじは、魚の練りものの、すじ。

お多幸の酒は菊正。


ここの味は、銀座八丁目のお多幸よりも濃い。
久しぶりにきたら、こんなに濃かったか、と思うほど、で、ある。

濃い上に、甘いようにも思う。

しかし、この濃さが、東京のおでんの味。

おでんは、煮もの、なのである。

東京の煮ものは、魚でも芋でも、
しょうゆで濃く煮るものが、基本であった。

どれもうまい。

お酒をもう一本。

それから、と、、。

がんも、白滝、なんというのもおもしろいか。
それから、やっぱりここは、豆腐。

ここでは、これを茶飯にのせたものを、とうめし、などといって、
名物にしている。飯に、濃い味に煮込んだ豆腐をのせ、
ぐちゃぐちゃにして、食べる、という、かなりB級。
それでも、そうとうに、うまい。

だが、食いすぎはよくない。
飯はやめて、豆腐だけにしよう。

なにか、この3品はみな、豆腐やのもの、に、なってしまった。

それから、と。
そうだ、いいだこ。

この前、子持ちのいいだこを桜煮にして、うまかった。

おでん用には、子持ちではないだろうが、
いいだこは、おでんの種としても定番であった。

先に、豆腐、がんも、白滝、が、きた。


いいだこは、注文が入ってから、つゆに入れて、
煮る、からであろう。

ここで、白滝を頼んだのは、初めてかもしれない。
この細さは、例のご近所、大原本店のものでは?

ご近所の読者の方に浅草、雷門の牛肉や、松喜でべらぼうにうまい
白滝を売っているのを、教えていただいてからのつき合いである。
(最近、近所、菊屋橋の豆腐やにも置いているのも発見した。)

細くて、腰がある白滝。

ここのしょうゆの濃い味には白滝がよく合う。

がんも。
これはとてもしっかりしている。

普通、スーパーなどに売っているがんもどき、と、
いえば、ふにゃふにゃ、すかすか、のものである。

密度がぎっしりとし、重みがあり、食べ応えのある
がんも、で、ある。
(そういえば、先のご近所、菊屋橋の豆腐やのがんも、も
しっかりしていた。)

時間差で、いいだこ、も、きた。


串に刺した、かわいい、いいだこ。
やはり、子どものないもの、で、ある。
山椒がふってあり、乙に仕立てられている。

食い終わり、酒二合も呑み終り、勘定をして出る。

やはりどうも、私はこの種の店には弱い。

主たる理由は、紛れもなく、今は、数少なくなった、
しょうゆの濃い、東京の味、で、あること。

このしょうゆの濃い味、というのは、
むろん、上品ではない。
前にも書いているが、赤土で質のよくない土壌の、
江戸近郊ではうまい野菜が育たない。
京都を代表とする、西日本の出汁をメインにした味付けでは
江戸近郊の野菜は、だめだった。
そして、今の濃口しょうゆが生まれ、江戸東京の
味になった。
上品でなかろうが、この味で育ったものだから、
やっぱり、私にとっては、濃口しょうゆで
味濃く煮〆た煮物が、今の東京では、既に少数派になっているが、
紛れもなく懐かしい故郷の味、なのである。

また、お多幸は、おでんだけ食べれば、
たいした値段にはならない。
さほど愛想もよくないおじさんの手渡しで
朱の皿で、ひょい、と出される、気取りのない、
すじやら、ちくわぶ、といった、東京発祥の種の数々。

(これに、昔の木造の狭いが居心地のいい、
ソニービルの裏の店の風情が加われば、いうことがない、のであるが。
そうである。もう一つ、昔のあの店では、
注文を「ガン(がんも)、チク(ちくわ)
ツミ(つみれ)」、、、などと、符丁のような、
短縮系で、威勢よく通していた。これも、よかった。)

こんなもの一つ一つが、なくなってしまった、
自分の故郷、東京の断片のような気がするのである。






ぐるなび






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