断腸亭料理日記2009

芋茎と油揚げの煮たの

6月9日(火)夜

さて。

断腸亭、ダイエットシリーズというのか、
ローカロリーメニュー。
昨日の、ひじきの煮たの

さすがに、呑んで食べて、そのまま寝て、を繰り返しては
いけなかった。

ひじきには、油揚げと糸こんにゃく。
油と甘辛の味付けを濃いめにすれば、十二分に
つまみとしても満足ができる。

で、今日は、なにを食べようか、で、ある。

ひじきに続いて、乾物、で、あるが、芋茎(ずいき)。
芋がら、で、ある。

よくよく考えると、これも油揚げを入れて、味付けは
甘辛。
ほとんど同じようなもの、になりそうな気もするが、
まあ、よいであろう。

芋茎と油揚げの煮たの、と、いうと、そう、
池波レシピ。

これは、剣客商売「狂乱」に登場する。

秋のある日、秋山小兵衛が浅草・元鳥越の
牛堀久万之助道場を柄樽を持って、訪れる。
老僕の権兵衛が、軽い中食(ちゅうじき)を出す。

引用***

にぎりめしへ味噌をまぶしたのを、さっと焙(あぶ)ったものと、

芋茎と油揚げを煮た一鉢。塩漬けの秋茄子などの簡素な中食であったが、

(中略)

「うまいぞ、権ちゃん」

「あれ、また、権ちゃんといいなさると」

「お前のような人に食べるものの世話をしてもらって、

 ここの旦那はしあわせじゃな」

剣客商売〈8〉狂乱 (新潮文庫)

*****

一度、作っているのだが、この時には、いま一つ、ピンとこなかった。

今から考えると、結局、味が薄かった、と、いうこと。

その後、須田町のあんこう鍋や、いせ源だったり、駒形のうなぎや前川
でお通しに出てきたものを食べ、なるほど、
味付けは、江戸前の甘辛の濃い味にすればよかったのか、
というところに、行き着いたのであった。

おそらく、元鳥越の牛堀道場の老僕、権ちゃんが
作ったものも、この味ではなかったか。

さて。

ちょっと余談になるのだが、元鳥越、というところのこと。

これはどのあたりのことか、ご存知であろうか。
上の作品は『剣客』、で、牛堀道場もなん回も登場する。
あるいは、鬼平などの他の池波先生の作品でも、元鳥越
という地名は出てきていたと思われる。

元鳥越、と、いうのは、今の鳥越のことである。

先日、鳥越祭があったが、その鳥越神社の鳥越、
現代の町名で、鳥越一丁目、二丁目で、ある。

江戸の地図を出しておこう。


このあたり、ご近所の方はともかく、特段、
有名なところでもないので、ピンとこない向きも
多いかもしれない。

今はもうどちらもないが、鳥越川と新堀川がある。
新堀川と鳥越川の合流する少し手前に、
頌暦所御用屋敷の記載がある。ここが、伊能忠敬もいた、
幕府の暦を扱う天文方、であったところ。
この二つの堀は、鳥越橋(今の、蔵前通り(江戸通り)須賀橋交番
の場所)で蔵前通りをくぐり、幕府の
御米蔵の掘割りにつながっていた。

ちなみに、鳥越川はここから西に向かい、
今の清洲橋通りの手前で、北へ曲がり、北上、三味線堀になっていた。

鳥越神社のある場所はほぼ現代と変わっていない。
神社の前の道が今は幅の広い蔵前橋通りになっている。
この通りは、新堀川にいきあたる。
つまり、今の新堀通り。
北へいくと菊屋橋の交差点で、合羽橋の道具街になる。

上の地図で、赤い星を付けたが、元鳥越という町は、
なんか所かあるが、江戸の頃は鳥越神社のまわりは
元鳥越という町名であった。
現代では鳥越といわれているのに、なぜ、昔は、元鳥越であったのか。
ちょっと、妙、で、ある。

鳥越という地名はむろんのこと、鳥越神社に由来している。

このあたりは、江戸以前、鳥越村と呼ばれ、地名としては、
やはり古いようである。
(鳥越神社自体も、祭神は日本武尊で、
由来は、そうとうに古いようである。)

江戸に入り、鳥越町となり、正保の頃というから、
1645〜1648年で、将軍は家光、元禄よりも前の、江戸の初期
といってもよい頃、で、ある。
その頃に、ここから、蔵前通りをずーっと北へいき、
花川戸をすぎて、山の宿、今の言問通りも超えて、
左斜めに直進、山谷堀を渡った北側、今の東浅草一丁目付近に
新鳥越というところができて、こちらは元鳥越となった。

明治以降も、現鳥越の町名は元鳥越で、鳥越、という町名に戻ったのは、
昭和9年。元に戻るのに、300年近い歳月が経っていた、
ということになる。

ちなみに、江戸の頃、その新鳥越と呼ばれていたところは、
明治になり、吉野町となっている。

(ではなぜ、新鳥越という場所が作られたのか、というのが
疑問になるかもしれないが、少し長くなるので、
この件は、またの機会にしよう。)

そんなこんな。

芋茎と油揚げの煮たの、で、あった。

会社帰り、牛込神楽坂の駅そばのスーパーに寄り、
乾物の芋茎と、油揚げを買う。

帰宅。

芋茎はまずは、水で戻す。

長いままなので、ボールに入らないので、切ってから、
水に漬ける。

時間は20分ほど。

戻ったら、一口に切る。
油揚げも短冊に切って、一緒に鍋に。

酒、しょうゆ、砂糖、水を少し入れて、かき混ぜながら煮込む。
いや、煮込む、というよりは、含め煮、と、いった方がよいだろう。

煮詰めながら、味をよくからめる。
10分もかからないかもしれない。


やはり、濃いめであれば、芋茎もうまい。
芋茎らしい味、というのも、わかってきた。

芋茎にはサクッとした、独特の食感と香りがあり、
これもうまい。

ローカロリーメニューとして食べたが、池波レシピ。

品はないかもしれぬが、やはり江戸庶民の味、と
いってよいであろう。




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