断腸亭料理日記2009

天ぷら・三筋・みやこし

3月7日(土)第三食

さて。

穴子を煮たが、夜は、内儀(かみ)さんの希望で、天ぷら。
少し前から、食べたかったらしい。
天ぷらといえば、三筋のみやこし

我々にとっては、まあ、よほどのことがない限り、
ご近所のこの店、で、ある。

浅草、といえば、誰もが知ってる地名だと思うが、
三筋といっても誰も今は知らないかもしれない。

前にも書いているが、江戸時代からある地名で
(以前は通称、で、あったが。)いわば、
由緒正しい地名、で、ある。

志ん生師の、落語のまくら、などを聞いていると、

「え〜〜。洒落、というのは、おもしろい、もんで
ございますが、落語というものは、洒落が、かたまって、
できたようなものでぇ、洒落というものは、
こう、なんかぁ、ものが、つながっているものでして、
えー、三味線掘、というところには、
近くに、三筋、が、あったり、いたしまして〜、、。」

まあ与太話、で、なにをいっているのかよくわからないが、
そんなことを喋っていた。(そこがおかしいのだが。)
(三味線掘というのは、今の佐竹商店街、
清洲橋通りのそばにあった、堀の名前である。
ちなみに、三筋は、ここでは、三味線の別名、にかけている。
三本の糸があるので、こういう呼び名もあった。)

今日は、三筋について、もう一つ。

私も、昔から知っていたわけではないが、
あの、明治大正の大歌人、齋藤茂吉が医学生の頃、
住んでいたところ。

茂吉は中学を卒業すると、田舎では食えないので、
山形、上山(かみのやま)から上京し、
親戚で病院を開いている家に養子に入った。
これが、浅草医院という病院であるが、
東三筋五十四番地、にあったという。
(齋藤茂吉随筆:三筋界隈)

明治、大正の頃のこの界隈は、基本的には、
(江戸の頃の錺物から発達した)金属の加工を中心にした、
職人の町、で、あったといえようが、
小島町の交差点、うなぎや、やしまの場所には
楽山堂という大きな病院があったり、

下町らしい下町なのだが、
名の知れた病院もちらほらとある町。
(距離的に、本郷の東大病院も近いということも
あったのかも知れぬ。ちなみに、今でも、その伝統なのか、
この界隈、開業されているお医者さんも意外に多く、
また、質も高いように思われる。)

ともあれ。

そんな三筋町の裏路地といってもよいところに、みやこしはある。
ご主人は、上野広小路の老舗、天庄で、修行をされた方。
(個人的には、天庄よりもいろんな意味で、いく価値はある、
と、思っている。)

6時半に、一応予約し、内儀さんと出かける。
と、いっても、徒歩5分、で、ある。

きれいな白木の格子を開けると、明るい店内。
『く』の字の白木のカウンター。
中の調理場、揚げ鍋の前で比較的長身細身、
眼鏡をかけ柔和な物腰、白髪混じりの髪を、
きれいにオールバックぎみにしている。

名前をいって、カウンターの奥に座る。
手前側は、満席。
見たところ、町内の寄り合いでもあったのか、
ご近所風の年配の旦那衆が、陣取っている。

頼むのは、いつも決まっている。
天ぷらコースの梅、4725円也。

ビールをもらう。


お通しは、いかの塩辛。

まずは、海老から。


天庄もそうだったような気がするが、
ここの揚げ上がりは、胡麻油たっぷりの江戸前、
というのではなく、胡麻油は使っていようが、
比較的軽め、だろう。

一本は塩で食い、もう一本は天つゆで。
どちらも、うまい。

続いて、海老の頭。


これは塩。
パリパリと、うまい。

いか。


すみいか、かと思ったら、あおりいかとのこと。
肉厚、で、さっくり、かつ、柔らかい。

きす。


きす、というのは、旬はいつなのだろうか。
年中あって、いつでもかわらずうまい。

まあ、あたりまえであるが、自分で揚げると、
きす、というのは、簡単なようでむずかしい。
なにかというと、例えばいか。
カリッとした表面、中は半生、など、
うるさいことをいわれるので、油の温度、時間など、
なんとなく気合いを入れて揚げるからか、
うまくいく(こともある)。

これに対して、きす、は、まあ、どう揚げても
火が通っていれば、食べられないことはないので、
あまり気合いは入らない。
それで、なんとなく火は通っているが、カラっと
揚がらず、フニャ、が多かったりするのである。

カリッと、うまい、きす、で、ある。

次は、っと。
白魚。


これは、春の味覚、で、あろう。

月も朧(おぼろ)に白魚の 篝(かがり)も霞む春の空

昨年の、みやこし、の日記を見ると、
歌舞伎「三人吉三」(さんにんきちさ)の
お嬢吉三の名台詞を引用している。

また、こんなのもある。

明ぼのや しら魚 しろきこと一寸 芭蕉

これを、三代目三木助師は芝浜のまくらで
ふっていた。
芝浜は大晦日と、新年というところが舞台、で、ある。
(むろん旧暦の、で、ある。旧暦では年始は、初春というくらいで、
もう春がくる、という季節感、で、ある。)
寒さと、澄み切った空気感の中に、
春が近い明るさ、そういうもののイメージとして、
芝浜という噺と、芭蕉の白魚の句を、重ねている。

ともあれ。
一匹一匹、熱々で、カラっと、揚がった白魚。
うまいもの、である。

穴子。


さっき、自作の煮穴子を食べたばかりだが、
やはり、ホクホクで、うまい。

野菜。


蓮根、椎茸、小玉ねぎ、アスパラ。
どれも、いうことなく、うまい。

最後のかき揚げは、
いつもどおり、小天丼にしてもらう。


赤だしも、うまい。


ビールから、お酒お燗で一本。
腹も一杯。

いや、ほんとうに、こんなご近所で、
これだけレベルの高い天ぷらを、それも
そうとうに、リーズナブル。

幸せ、で、ある。



みやこし



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