断腸亭料理日記2009

京都祇園・割烹・阪川

11月16日(月)夜

月、火と、京都、大阪出張。

月曜は、京都泊まり。

日帰りばかりで泊まりの出張は久しぶり。

と、なると、やっぱり、うまいもの。

昨年、なん回かきた、先斗町のいふき

真っ先にここにTELを入れてみたが、
生憎一杯。人気のよう。

はて、どうしようか。
鮨や?
最近、近所にできた京都で修行をされた若い主人が
やっている、鮨や、468(ヨーロッパ)

その修行をしたすし岩か?。
いやいや、ここは、そうとうに高そう。(2〜30000円)
また、近所で食べられるのに、本家とはいえ、
同系統へいくこともなかろう。
同じ京都の鮨やなら、池波先生が通ったという店、
という選択肢も、ありそうだが、ここも、やはり同程度で、
お高い。

新規に探してみようか。

今回は、先斗町ではなく、祇園はどうか。
ということで、出てきたのが、阪川(さかがわ)という
割烹。コースで13000円から。
カウンターもある。

前にも泊まった、八坂神社門前のホテルも取れ、
ここのすぐそば。

ちょうどよい。
ここにしてみよう。

土曜日に予約を入れておく。
どこの店でもある程度そうなのだが、
こういう京都の客商売は、電話の応対からして、
なかなかなもの、で、ある。
男性でも柔らかい言葉、ということもあろうが、
一見(いちげん)でかけてくる相手にも高飛車な
印象を与えない。

月曜、18時半の予約。

当日、ホテルに荷物を置いて、出かける。

今日の京都は晴れていたが、夜になって
だいぶ寒くなった。

祇園町南側でも、北西の方。
路地をなん回か、くねくねと入ったところ。


この、矢印が書かれた看板が一つ表の路地に
出ているのだが、この矢印の意味がよくわからない。

京都ではわりによくあるようだが、この横棒と矢印は、
なにをどう指し示しているのか。
まるで暗号のようである。

しかし、地図を一応頭に入れてきたので、なんなく、到着。

間口一軒ほど。
麻の暖簾が下がる。

格子を開けて、入る。
いらっしゃいませ、と、声が飛んでくる。

入るとすぐ右手にカウンターが奥へ続き、そのカウンターの
右側が板場(調理場)。

出迎えた着物姿の女性に、名乗る。

と、調理場のご主人らしき方が、
あ、○○(私の名前)さん、お待ちしておりました、どぉ〜ぞ、
どぉ〜ぞ。そちらへ。

と、カウンターの奥の席へ。

カウンターは、男女のペア二組ほど。
着物姿の芸妓さん、らしき人、もいる。

さらに、この店は、細長いのだが、奥にも座敷、
あるいは、二階にも座敷があるようで、これらも既に
お客が入っている様子。

板場は、私の名前を声に出した、五十がらみ、ごま塩で、
梅宮辰夫によく似た、苦味走ったご主人と、若い衆は4〜3人。
板場もやはり細長く、広くはないのだが、活況を呈している。

電話で、13000円のコースを頼んであったが、
一応その確認をされ、飲み物は、寒いので燗酒を。

雰囲気から、今回は写真は遠慮。

と、いうことなので、先に、料理を書き出してみよう。

白和え。
桜海老のような海老が入ったもの。
香ばしく煎られているようで、うまかった。

お造り。
鮪中トロ、鯛、いか、うに。
焼き海苔が添えられ、いか、うにを巻いて食べる。

かぶら蒸し。
濃い赤色の海草を細かく刻んで混ぜ込まれ、
魚(グチ?)、百合根、など。
出汁の餡と、添えられた山葵が混ざり、風味絶佳。

こっぺがに。
初めて食べた、と思われるが、松葉がに、の、めす、
だ、そうな。
足から身もすべて取ってあり、甲羅に収められている。
内子、外子、ミソもたっぷり。

松茸土瓶蒸し。
これは、京都でこの季節、
十中八九出るだろうと期待していた。
むろん、京都産、で、あろう。
格別。

もろこ、と、ねぎの炭火焼。
琵琶湖で獲れる10cm程度の淡水魚らしい。
これも京都の名物のよう。
ご主人が丹念に炭火のコンロで網焼き。

(他に煮物、揚げ物?、もう一、二品あったような気もするが
忘れた。なにしろ、ゆっくり出てくるので、三合も呑んでしまった。)

ご飯と赤だし。

ご飯は、これも京都では定番、ちりめん(じゃこ)山椒を
まぶしたもの。
一膳。

ご主人がまた、○○さん、お代わり、いってくださいね、
と、またまた、名前で呼ぶ。
心憎い。

食べ終わり、さっと、勘定をして、格子を開けて、出る。

と、ご主人が、カン、カン、カンと、下駄を鳴らして、
追いかけるように、外まで出て、おおきに、ありがとうございます、
と、深々と頭を下げる。

これはある程度予測はしていた。
前の、いふき、でもそうであった。
ここのご主人は私のような一見も含めて、すべての客に、
している。
やはり、京都の料理屋では、ある程度あたりまえのこと、
なのであろう。

しかし、今日は、さらに驚かされた。

私が路地を歩いて、角を曲がるとき、さらに、もう一度、
「おおきに、ありがとうございます」
と、後ろから声が追いかけてきた。

この路地には、店は、この阪川一軒きりなのだが、
振り返るとご主人が10数m向こう、暗い路地の中の、
店の前だけ明るくなっているところで頭を下げている。

驚くと同時に、まったくもって、私などは恐縮してしまう。
こちらこそ、おいしかったです、と、私も頭を下げる。

お客が見えなくなるまで、見送り、さらに、
声をもう一度かける。
流石なもの、で、ある。

東京ではまったく、考えられない。
一見の客にもここまでする。
これぞ、京のサービスというものか、
と、思わされた。
むろん、いい気分にさせてもらえるし、
人にも話したいと思わせる。

東京にも昔はある程度、あったサービスなのかもしれぬが、
おそらく、ここまでのものではなかったのではなかろうか。
京都ならでは、千年の都の客商売に流れている血、なのか。

そして、他でもない祇園、と、いうところ。
これも大きいのきいのかもしれぬ。

むろん、私は祇園のことはまった知らない。

昨年、まつもと、という鮨やへきたのが最初である。
(ここは例の新橋しみづ、の流れ、で、あった。)

実際のところ、今日の阪川、料理よりも印象に残ったのは、
先の度重なる、ご主人の気遣いで、あった。

そして、もう一つ、なるほど祇園か、と思ったことがある。
それは、他のお客のこと。

“ご飯食べ”、という言葉を聞いたことがある方は、
おられようか。

私も、昨年知ったのだが、大人になった例の双子姉妹、
三倉茉奈、佳奈の二人が出ていたNHKの朝の連ドラで。
祇園が舞台で佳奈さんが、舞妓役。

“ご飯食べ”は、芸舞妓をお座敷ではなく、
食事に外へ連れ出すこと。

昨年の、鮨やまつもと、でも、なん組もそういうお客がいた。
今日も、カウンターに、都合三組。
いかにも、“ご飯食べ”、で、あろうという
お客とオネエサンの組み合わせ。

東京でも、クラブやらでは、いわゆる“同伴”というのがある。
これについてくどくは書かぬが、“ご飯食べ”はそんなものではない。

そもそも、一見さんお断りというお茶屋遊びである。そうそう簡単にお座敷にも
いけるものではないのであろう。
その上で、祇園などではきちんと制度として、食事へ連れていく
“ご飯食べ”と、いうのがあり、ある程度、馴染みにでも
ならなければダメなのであろうと、想像される。(しかし、芸舞妓の
花代だけで(むろん飲食費はお客持ち)外で、食事、
デートができる。)

いわば、どれだけお金を使っているのか、
使わせているのか、を表現する場、のようなもの
と、いえるような気がする。

ちなみに、彼ら、どんな男か?。

いわゆる、脂ぎった五十を越えた禿頭のオジサン
のような感じではなく、私と同じくらいか、
あるいは、ひょっとすると、若いか、と、
思われるような、ちょっとすかした感じ、
新興ベンチャーの社長?、どこかの会社のいかにも二代目、
お坊ちゃん?
よくわからぬが、そんな風に見えた。

昔からいわれてきたが、色と欲、見栄と金?。
そんなものが先の、京都祇園のサービス世界に
くるまれて存在している。
そんな感じ、なのか。

(で、あるので、こういうところへは、堅気(カタギ)の彼女、
あるいは、内儀(かみ)さんなどを連れていっては、
いけなかろう。間違いなく、居心地はよくないはず。
男一人、あるいは、男のグループ(これは接待か)。)

いずれにしても、男を愉しませるように長年かかって
作られた仕組み、あるいは、装置、ともいえるのかも知れぬ。

やはり、ちょっと不思議な世界で、ある。



TEL:075-532-2801
住所:京都市東山区祇園町南側570−199





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