断腸亭料理日記2010

日本橋・吉野鮨

11月11日(木)夜

新橋鶴八を書いていたら、
鮨が食いたくなった。

日本橋吉野へ、いってみようかと思い付いた。

鮨が好物、という人は世の中に少なくはないだろう。
私も、そうである。

好物だからといって、毎日食べたいか、
と聞かれれば、さすがに毎日ではあきる。
魚ばかりではなく、肉も食べたい。

じゃあ、どのくらいの頻度で鮨を食べるか。

これを考えるとすると、まずは、なにを以(も)って鮨とするか、
で、ある。

つまり、例えば、東京で鮨を食べようと思えば、
ピンからキリまで、様々な鮨、が、ある。

ちゃんとした鮨や以外に、回転すし、持ち帰りの鮨、
スーパーや百貨店のパック入りの鮨、その他、
にぎり鮨がだけでもいろいろある。

むろん、この日記には書かないが、私も、こうした鮨を
食べることもある。あるいは、ちゃんとした鮨やでも、
出前、あるいは、ランチなどの一人前、というのもある。

その中で、そこそこの店で、カウンターに座り、いわゆるお好みで、
食べる、というのはどうであろうか、月2回、あるいは、
1回、で、あろうか。

“そこそこの店で、カウンターで、お好みで”というのは、
まあ、ある種別格。値段も張るが、これを以って、鮨を食った
という位置付けにしているようにも思う。

それが、月1回か2回、というのは、
意外に、自分でも少ないようには思われる。

これはもちろん、値が張る、ということもあるが、
それ以外に、“そこそこの店で、カウンターで、お好みで”というのは、
イベント性が高い、というのか、やはり、特別な存在、なので、そうそう、
高頻度では行かないようにしている、といった方がよいかもしれない。

先週、新橋鶴八へいって、一週間後だが、日本橋吉野に行こう、
というのは、そういう意味で、私の普段の思考パターンと比べると、
例外、なのではある。

だが、それで、逆に気が付いたのだが、
週一回でもまったく問題なく、鮨やへいけてしまう、ということ。
(懐都合だけを考えれば、この年齢(とし)で子供もなく、
内儀(かみ)さんも働いており、べら棒に無理をしなくとも、
まあ、いけないことはない。)

だがまあ、そんなことを続けていると、
先に述べた、“イベント性”というのか、“特別感”は
薄れ、“日常”になってしまう。それもわかっている。
だから、おそらく、そうはしないだろうと思うのである。

やはり、“そこそこの店で、カウンターで、お好みで”の鮨は
特別な存在として、置いておきたい。
根っからの貧乏性なのか、まあ、そんなことなのであろう。

ともあれ、日本橋吉野。

新橋鶴八の回にも書いたが、今、自分には
一番、“しっくりくる鮨や”、で、ある。

今日は、予約もなし、一人。
7時すぎに、オフィスを出て、日本橋に向かう。

市谷から日本橋へまわる、といいうのは、
帰りがけにちょいと寄る、という範囲は越えているが、
それでも、銀座線一本で帰れるのは私には便利である。

7時半をまわった頃。
このくらいなら、カウンターも回転しており、
座れるだろう、と踏んできた。

戸を開けて入ると、ちょうど、出る人がおり、
カウンターの向かって右端から二組目の席に
座れた。

前に書いているが、この店は、くの字のカウンターで
表側角が、若親方(?)、その右隣が眼光の鋭い親方、
その右が、そこそこ年季の入った職人さん、
そのまた右が、若親方の弟さん(?)。
にぎるのは、この四人で、私の座った前は、
右から二人目の、そこそこ年季の入った職人さんの前。

この店は、テーブル席も多く、座敷もあり、カウンターの
客だけを相手に、にぎっているだけではないので、
なかなか、たいへんそうである。
8時を前にして、注文もピークの時間のよう。

座って、瓶ビールをもらう。

ややあって、「お待たせしました、なんにします?」
と、聞いてきた。

このへんのタイミング、むずかしい。

見ていて、忙しそうなのはわかるのだが、
それでも、我慢のできる範囲はある。

で、その範囲の限界が、10、とすると、5を越えて、6〜7、くらい
であろうか。よかった、聞いてくれた、と、思える範囲。
(8になれば、自分からいう。そんな感じのスケールである。)

そういう意味では、そのあたりの配慮、気の使い方は、
この店は、むろん、ちゃんとしている。
最初にきた時に、親方の前に座ったが、
こちらの湯のみの茶の量を見ており、頼まずとも差し替えて
くれていた。

ともあれ。

つまみで、鯖と鯵を切ってもらう。
これで、一息。

やはり、鯖がうまい。
ここの鯖の〆具合は、浅くもなく、強くもなく、
中ぐらい。

腹も減っているので、ビールを呑み、
ばくばく食う。

ビールを呑み終り、なんとなく、調子がついて、
酒を一合だけ、冷(ひや)で、もらう。

つまみを食べ終わり、にぎりに。

いかと、白身。

白身は、鱸(すずき)とカンパチをもらう。
(1個ずつ。)

ここのいかは、すみいかではないだろう。
あおり、か。

前の日記を読み返してみると、以前も、いかは
すみいか、ではなかった。もっとも、行き始めたのが5月で、
すみいかの季節は終わっていたはず。
今は、すみいかの季節ではあるのだが、使わない、
ということか。

鱸もカンパチも普通にうまい。

酒も呑み終り、お茶に。

次は光物。

小肌と、鰯。
やはり、ここの小肌はきちんと〆ているもの。
私は好み、で、ある。

鰯。
鯵よりも、うまい、か。

赤身、中トロ。

そして、海老。

ここで海老は、はずせなかろう。

茹で立て、か、どうかは、わからぬが、
みずみずしく、うまい。

穴子も炙って、柔らか。

最後は、かんぴょう巻。

わさび、入れますか?
と、聞いてきた。

はい。お願いします。

聞いてくれる程度には、余裕も出てきた。
やっぱり、このくらいのことを聞いてくれると、
お客とすれば、うれしいもの、ではある。

鉄砲などともいったようだが、酒呑みの海苔巻は
わさびを入れるのが昔から定番である。

うまかった。

お勘定。

7000円ちょい。

べら棒に高いねたがあるわけではない。
「たかがすし屋、されど鮨屋。」

なんとなく、今の私の気分、で、ある。




ぐるなび


東京都中央区日本橋3-8-11
03-3274-3001






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