断腸亭料理日記2012

並木藪蕎麦 その2

引き続き、新築なった、浅草雷門前の並木藪。

酒がきて、そば味噌と板わさでやっていると、
天ぬき、鴨ぬきも、きた。




天ぬきは、熱いつゆに、芝海老のかき揚げが浮かんでいる。

浮かんでいるといっても、すぐにつゆに
溶け出してくる。
この溶け出した衣をつゆとともに、すくって、
食べる。

腹にしみ渡る。

東京下町の特徴であろうか。
舌が火傷するくらい熱くする。

味噌汁でもお茶でも、私の親父などは、そうとうに
うるさかった。少しでもぬるいと、よく母親に熱くし直させていた。
(風呂もそうであったが。)

内儀(かみ)さんなど、本当に火傷をした、
と、いっていたが、そのくらい熱い。

他地方の方からすれば、まったく理解ができなかろう。
だが、ここへきて、文句を言わないでほしい。
こういうもの、これがよい、のである。

菊正宗の樽酒に合うこと、夥(おびただ)しい。

そう。酒は必ずしも、東京下町でも熱燗ではない。
むろん、好みだが、熱くもなく、ぬるくもなく、
適温、上燗(じょうかん)が私は、よい。

鴨ぬき、には、レアに火を通した鴨肉と、
つくね、そして長く切って煮込んだ、ねぎ。
鴨の脂がつゆに染み出し、これも、うまい。

お酒をもう一本。

よくよく店の中を見回してみると、
もともとのことだったのだが、装飾の類、飾り気は
まったくといってよいほどなにもない。
白木の真新しい造作になると、それがより意識させられる。

真新しい中、座敷にただ一枚、古びた額がかかっている。
これは、だれだかの書なのだろう、藪、と
店名が書いてあるものなのだが、これだけは、
以前かかっていたものが、そのままにかけてある。

老舗が古い建物を改装、改築する例は
いくらもある。
同じ蕎麦やだが、虎ノ門の某老舗。
おそらく戦災で焼けなかった建物で
趣があり好きだった。

少し前に改築、改装をしたのだが、
行ってみると、人がかわり、店の中身、味まで
変わってしまっていたように感じた。

往々にして老舗にはこういうことが付きまとう。

おそらく、並木藪のご主人はこのあたりのことを
よくよくお考えになってのことなのであろう。

そして、できるだけ、そのまま。

店の作りも、掛けてある額も、そして、顔を見覚えているが、
運んでいるお姐さんも、変わっていない。

これがうちの店なんです、というメッセージが
聞こえてくるようである。
私達客も、それがよくていくのである。

呑み終わり、ざるを頼む。


ざるや蕎麦猪口も、お盆も、変わっていない。

日本一、濃い蕎麦つゆ。

これも他地方の方、怒らないでほしい。
この店は、こう、なのだから。

蕎麦をつゆにつける時に、箸から離してはいけない。

つゆの中をそばを泳がせるなんて、もっての外。

そんなことをしたら、とても食べられたものではない。
先の方だけつけて、そのまま、口に運び、すする。
申し訳ないが、これが、昔からの、東京下町の蕎麦の食い方、
なのである。
(ついでだが、一枚の量の少ないのも、怒らないでほしい。
こんなもの、なのである。)

うまかった。

頑なまでに変えない姿勢に、安心をした。

お勘定。

池の端の藪、などもそうだが、
ここも、座って席で勘定をする。

やっぱり、そばやもそうだが、長居するところでは
なかろう。さっと、帰る。

有難うございま〜す、の声に送られて、店を出る。


よかった、よかった。

浅草、並木藪蕎麦、不滅、であろう。





TEL:03-3841-1340
住所:〒111-0034 東京都台東区雷門2丁目11−9









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