断腸亭料理日記2013

蛤の湯豆腐

1月14日(月)夜

一日戻る格好になるのだが、
成人の日、雪の夜。

これは内儀(かみ)さんが用意したものだが、
蛤の湯豆腐

もともとは、池波レシピ。

池波先生はこれで日本酒を呑むのが好きであった。

やってみると、なるほどうまい。

いや、そもそも、汁(つゆ)で酒を呑むというのは、
今はあまりしないことだが、蛤でなくとも、冬の燗酒の肴には
熱い潮汁(うしおじる)というのはよい組み合わせ、
で、ある。

蛤という貝は、ご存知であろうか、
今、東京などで出回っているものは、
3種類あるという。

昔から、蛤と呼ばれていたハマグリ。
これに、在来の国産種だが、外洋性のチョウセンハマグリ、
というもの。これは国産としては最も流通量が多く、主として、
茨城県の鹿島灘で獲れるもの。チョウセンと名前に入っているが、
チョウセンは汀線と表記され、文字通りミギワ(みずぎわ)の線
という意味。
そして、最も安いのが中国などからの輸入物のシナハマグリ。
この3種。

もともと蛤と呼ばれていたハマグリは、内湾性のもの。
江戸前の握り鮨でも、蛤というのは、ご存知の通り、
たれに漬けこんだ、煮蛤として定番のもの。

戦後しばらくは、東京湾でも獲れていたのであろう。
しかし、現在では、ほぼ絶滅。

全国でももう数か所しか獲れていないらしい。

そして、昨年8月に環境省のレッドリストで
「絶滅の危険が増大している」とう絶滅危惧2類
というものに指定されてたという。

どこで獲れているのかというと、伊勢湾。
三重県桑名市。
かの「その手は桑名の焼き蛤」の桑名。

この他には、大分県杵築市の瀬戸内海沿岸、
福岡県糸島市加布里湾沿岸、熊本県玉名市有明海沿岸、
このくらいであるという。

桑名市では地元の漁協が稚貝を養殖、放流して漁獲高の
維持拡大を目指しているらしい。(日経新聞)

浅蜊や蜆などと同じようにとても馴染みの深かった貝のはずが
今やこんな体たらく。

ハマグリは、住処である干潟の環境変化に
より敏感な貝であったからなのか。

毎度思うのだが、私達、日本人というのは、
こうした長年食べてきたものの育つ環境に対して
無頓着すぎるのではなかろうか。

東京湾を例に考えてみると、
戦後、高度経済成長、工業化とともに、
工場用地化するために湾岸はどんどんと埋め立てられていった。
あるいは、あるところから先は、都民のゴミの
行き場として、埋め立てられてもいったのであろう。

他地方においても、長良川の河口堰や、有明海の可動堰やら、
干潟を壊す方向の動きばかりが聞こえてくる。

一方で、東京湾では船橋などの沖の三番瀬が、渡り鳥の保護を
主な目的としたラムサール条約に登録され、保護の対象になっている。

しかし、これも鳥が対象で蛤など魚類や貝類への配慮が主ではないし、
また、国内から自発的に起こった運動でもない。

近くで獲れなくなったら、
世界中から買い集めればよいというのであろうか。

否。

誰がどう考えてもそうではない。
いつまでも、そんなことが続くわけでない。

いや、続けてはいけないはずである。

放射線の問題はあるにはあるが、
いつの日にか、東京湾産の蛤が食べられる日を
私は夢見たいと思う、のである。

そんな、蛤。

豆腐と一緒に、水を張った小鍋に入れて、
火鉢で。


他にはなにも入れない。

塩のみ。

蛤の湯豆腐。

日本酒に合うこと、受け合い。

うまいもんである。








  


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