断腸亭料理日記2013

吉例顔見世大歌舞伎・
通し狂言 仮名手本忠臣蔵 その8

8回目になってしまった。

「忠臣蔵」通し。

まだ、二幕あるぞ。

次は『七段目』。

これは実は、今年の初芝居で、この幕だけを観ていた。

配役はこの時は、由良之助が幸四郎で、もう一方の主役ともいえる
寺坂平右衛門が吉右衛門。兄弟共演であった。

「忠臣蔵」自体を観たのがこれが初めてで『七段目』自体のお話しを
理解するのも厳しかった。

それで、帰ってから、DVDが出ていたので『大序』から『十一段目』まで
全部を揃えて観てみたのであった。

今回の配役は、由良之助が吉右衛門、寺坂平右衛門が中村梅玉(ばいぎょく)。

梅玉は仁左衛門の代役。

梅玉という役者は私は知らなかったのだが、
十二分に寺坂を演じており、よかった。

吉右衛門は、この『七段目』の寺坂同様、由良之助もなん度も演じており、
危なげないというところであろう。

この幕は、この前の『五・六段目』と違って、筋も問題ない、
というのもヘンだが、よくできている。

ただ、やはり、複雑。

『五・六段目』は思わず筋を書いてしまったが、
『七段目』はやめておこう。書き始めると、今月一杯、
忠臣蔵を書きそうである。

今回、特に感じたのは、寺坂平右衛門のこと。

寺坂はとても魅力のあるキャラクターである、ということ。

(ただ、やっぱりヘンなのは、寺坂は、おかるの兄なのである。
この『七段目』の筋だけでは、おかるの兄でもなんら、破綻はないのだが、
『五・六段目』ではおかるに兄がいる、ということは、なにも出てこない。
これはヘンである。通しで観ると、違和感たっぷりである。)

ともあれ。

寺坂も塩谷の元家臣なのだが、足軽という身分で、
いわゆる士分、武士ではない。このため仇討には参加できないことに
なっている。

それで由良之助に熱心に同志に加えてほしいと、
頼むというのが、この幕の筋全体に絡んでもいる。

少し前の役所広司主演の映画「最後の忠臣蔵」はこの
寺坂平(吉)右衛門を扱っている。

足軽というと、戦国時代の槍を持って戦場を走っている姿を
連想しがちだが、風体は、いわゆる奴(やっこ)さんの姿。

お分かりになろうか。

文久2年 江戸 中村座 『七段目』 画 三代目 豊国
平右衛門 五代目坂東彦三郎 おかる 三代目沢村田之助

こんな感じ。
(ただ、これは凛々しすぎるか。もう少し今の平右衛門は
奴凧の、奴さんという風体で、少しユーモラスな感じもある。)

史実の寺坂吉右衛門は、討ち入りには参加するが、
泉岳寺には行かずに、逃亡、ということになっており、
83歳まで長生きをしている。

本当に逃亡なのか、大石内蔵助の密命があったとか、
様々なことがいわれ、前記の映画にもなっているくらいである。

全体を通してこの『七段目』は舞台が京都祇園の[一力茶屋]という
お茶やで『五・六段目』と打って変わって、明るく華やか。

その中で話の中心はなんといっても、由良之助。

ここは皆さんご存知の由良之助(大石内蔵助)が仇討の企てを隠すために
遊び呆けて見せる、という場面。

遊び呆けながらも、ところどころ、見え隠れする、大望を持つ
由良之助の存在感。
こういう役をやらせたら、吉右衛門はやはり、ぐーともいわせない。
盤石であろう。
(返す返すも、四段目の由良之助である。
七段目が演じられる吉右衛門先生。四段目が演じられぬはずがない。
次回に期待である。)

もう一人、大事な役が、おかる。
ここでは、六段目を踏まえて、遊女になっている。
役者は福助。

あぶなげがない。
この人は、ほんとに偉いものである。これぞという芝居のこれぞ、
という女形の役は、ほとんどこの人ではなかろうか。
たいしたものである。

このおかるは、遊女であり、年も若いはず。
歌舞伎の観始めの頃は、若い女性の役が、五十を超えた、
男性が演じているということに、正直のところ違和感を感じていた。
今でも、基本この違和感は同じようにあるのだが、段々に慣れてきてもいる。

ただ、やはり、若い女性の役であれば、
若い美形の女形に演じてもらうのが最も好ましいのではなかろうか
と、今でも思っている

福助はうまい。
ただ、福助だけに集中させないで、より若く、美形の女形を
育ててほしいのである。

江戸の頃の女形は、若くて美形というので売っていた人は多かった
のも聞いている。(上の浮世絵のおかる・三代目沢村田之助は、
伝説の、そして悲劇の美形女形であったが、33歳で亡くなっている。)

七之助などはお姫様などやらせるとびっくりするほど美しいが、
まだまだ、大きな女形の役は演じていないのではなかろうか。

また菊之助も(年齢は36歳のようだが)美形なので女形を演じれば、
唸るほど、ではある。ただ、この人は、菊五郎になる人で、
女形方向ではないのであろう。

今、なかなかふさわしい人材がいないのか。

ひょっとすると、男のファンもつくかもしれぬ。
関係者の皆様、本気で考えてみてはどうだろうか。

 


週をまたぐが、残り『十一段目』討ち入りの幕、
次回へつづく。


 






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