断腸亭料理日記2013

歌舞伎座十月大歌舞伎

通し狂言義経千本桜 その4

「義経千本桜」通しのつづき。

『道行初音旅』の幕であった。

いわゆる“道行”もの。

昨日書いたように、歌舞伎で決まりものの幕。
「忠臣蔵」にもあって、こちらは「お軽、勘平」。

道行というくらいで、恋中の男女、が多いようだが、
「義経千本桜」では静御前と佐藤忠信(実は)源九郎狐。

静と佐藤忠信は主従関係ということになり、その道行。
さらに、実は狐。
この取り合わせ、作者の意図であろうか、
ちょっと“妙”な感じ、では、ある。

舞台は吉野山。

あたりは満開の桜花。

またまた、江戸の頃の浮世絵。

静御前。


文化2年 (1805年)江戸、中村座 画豊国。静御前、四代目瀬川路考。

忠信。


文化3年(1806年)江戸、市村座 画豊国。忠信、萩野伊三郎。

今日は、静が藤十郎で、忠信が菊五郎。

藤十郎は歌舞伎界の重鎮坂田藤十郎、人間国宝。
私はこの人の舞台は初めて。

これは、まさしく、トウシロウの感想であろう。
こういう所作事(踊り)の幕では、テクニック的にも、
大御所のような人の方がむしろよいのかもしれぬが、
今公演の静御前では最も年長である。やはり、正直のところ、
違和感のようなものは感じてしまう。

これで昼の部終了。

夜の部は席がまた違うし、外へ出なくてもよいようだが、
一度ロビーへ出る。

タバコやら、文字通り休憩。

またまたビールとお茶、ロビーで売っていた鯖の押し寿司を買っておく。

夜の部開場。

夜の席は昼よりも少し前方。

四幕目、夜の一幕目は『木の実』『小金吾討死』の二場。
浄瑠璃では次の『すし屋』と合わせて、三段目。

昨日、義経が主人公でないのは『渡海屋・大物浦』だけ、
と、書いてしまったが、それは間違い。

ここと、この次の『すし屋』もそうであった。
(なんてことはない、最初の『稲荷前』『道行』と大詰の『川連法眼館』
だけで、半分は平氏の話である。「義経千本桜」といいながら、
これがすんなり受け入れられているというのも、不思議な話ではある。)

主人公は、平清盛の嫡孫、平維盛(これもり)。

頼朝追討の、かの富士川の戦いで、水鳥の羽音に驚いて
逃げ帰ってきた、ときの総大将。平家都落ちの後、高野山で出家し、
那智で入水、ということになっているが、実際のところ晩年は
よくわかっていないという。
先の知盛もそうだが、こういうところから、平家の落人伝説と
特に関西の人々の平家人気があって、この話も生れているのであろう。

『木の実』『小金吾討死』と次の『すし屋』は合わせて一つの
お話になっている。

筋は随分と複雑。
これもやはり、説明をするとよけいわかりにくくなりそうである。

維盛は中村時蔵で、維盛と並んでもう一人の主人公は、いがみの権太、が
片岡仁左衛門。

時蔵も仁左衛門も、私は初めてかもしれない。

時蔵は現歌舞伎界の立女形(たておやま。女形のNo.1)だそうな。
(勉強が足りてないなぁ。)
維盛は女性ではなく、役とすれば、若い二枚目。女形だが、こういう
役もするそうな。(ちなみに五十八歳。)

仁左衛門も名前と顔は知っていた。
やはりこの人も、藤十郎同様、上方歌舞伎が出身。

仁左衛門は齢(よわい)六十九歳。
この歳だが、男が見てもまったく、苦み走ったい〜い男。

菊五郎も若い頃はさぞや、と思うが、顎の線が気になる。
(菊五郎は七十一歳。まあ、しかたがないか。)

仁左衛門の権太は、ちょっとした与太者キャラなので、
尻を端折って、足を出しているが、このまた、足がきれいである。

お話しの舞台が上方なのであろう、仁左衛門の上方弁の
ガラのわるい言葉がまた、よい。

もう一人のキーマンが“討死”する小金吾。
これは、序幕で静を演じた、若手、梅枝。

次の『すし屋』と合わせて、浮世絵を三枚。


いがみの権太。
文化6年(1809年)江戸、森田座 画豊国。
三代目坂東三津五郎


すし屋弥助(実は)平維盛。
文化8年(1825年) 江戸、 市村座 画二代目豊国。
これも同じ、三代目坂東三津五郎。


主馬小金吾。
文政8年(1825)江戸、市村座 画国貞。
岩井紫若(7代目岩井半四郎。

この話、観ていて同じ作者で同じ浄瑠璃もの(丸本物)の
「菅原伝授手習鑑」の『寺子屋』を思い出した。

なにかというと、テーマが同じ、なのである。

<恩を受けた主君に報い、自らの子供の命を捧げる。>

これである。




今日はここまで。

また明日。





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