断腸亭料理日記2014

初芝居 寿初春大歌舞伎 その2

1月3日(金)

前置で昨日は終わってしまったが、歌舞伎座初芝居を
続ける。

行ったのは夜の部。

目当ては最初の演目「仮名手本忠臣蔵」『九段目 山科閑居』。
(九段目はキュウダンメではなく、クダンメ、で、ある。)

私は11月に観に行ったが、

歌舞伎座では旧臘(きゅうろう)二か月続けて、
昼夜通しで「仮名手本忠臣蔵」をやっていた。

興行的にはこの、続編といったらよいのか。
だがまあ、お話とすれば『討ち入り』で終わっているので
物語上はそれ以前の話しで、外伝といった位置付けになる。

この幕は人気があるのであろう。“通し”の中に入れられる場合も
あるようだし、今回のように独立して掛かる場合もあるよう
である。

例によって、というよりも正月でもあり、着物。

3時半すぎに出て、銀座線で銀座まで向かう。

劇場に入る前にいつもの通り木挽町[辨松]で弁当を
買おうと思うが、あれま、[辨松]は今日まで休み。
仕方なく、中で買うことにする。


赤い「寿 初春大歌舞伎」の垂れ幕。

いかにも正月。

劇場前は昼の部のお客と夜の部のお客が交錯して、
ごった返している。

急いで交差点を渡って、劇場に入る。

今回の席は比較的前の方だが、上手(かみて、舞台に向かって右)側。
歌舞伎の場合、やはり花道のある下手側の方が人気なのであろう、
売り出しから早めに買ったのだがそれでも正月であるからか、
二席の続きは、上手側になってしまった。
(その上、眼鏡を忘れてしまい、ちょっと細かい所作や表情までは
見えない状態であった。)

弁当とビール、温かいお茶も買って席に着く。

と、すぐに、幕が開く。

「仮名手本忠臣蔵」『九段目 山科閑居』。

通称、九段目の切(くだんめのきり)。

切は、おしまい、という意味。

幕が開くと、由良之助(大石内蔵助)の京都山科の閑居。

雪景色。

ドン、ドン、という低い太鼓の音が鳴っており、
ちらちらと雪が舞っている。

花道から紺の上着を着、足駄(あしだ)を履いて雪道なので
足元を気にしているという思い入れで、しずしずと
身分のありそうな女性を先頭に、武家用の駕籠、
共(とも)の者を含め、数人の行列が入ってくる。

全員無言。

こんな静かな、ちょっと重々しい幕開き。
(むろん、義太夫は静かに入っているのだが。)

一時間半、一幕一場。

さて、最初に結論から書いてしまおう。

これ、かなり完成度が高い作品なのではなかろうか。

前に、散々に書いたが、同じ忠臣蔵のサブストーリーといえる、
勘平が切腹に至る『六段目』と比べると雲泥の差、ではなかろうか。

『九段目の切』、素晴らしい。

そもそも、脚本がよくできている。

武士の価値観と家族愛、夫婦の愛、それらの葛藤、などなどが
破綻なくきれいに描かれている。

また、演出にあたる、脚本に加えられている様々な
歌舞伎らしい“工夫”、美学といってよいものが、
この脚本を磨き上げていると思われる。

ただこれ、やっぱり、人物関係など背景がシロウトには
とても複雑で、なんの予備知識もなく、またイヤホンガイドなどの
アシストがなくて、いきなりこの幕を観ても、
ほぼ理解できないであろう。

私の場合は、11月に通しを観ていたのと、
DVDでこの幕そのものも複数回観てから今回
生を観たのでやっとこさ、理解できたといえる。

素晴らしいのだが、ハードルはとても高い作品であろう。

さて。

素晴らしいので今回は、あらすじも含めて書いてしまおう。

まず、京都山科の由良之助の閑居に、息子力弥の許嫁(いいなずけ)に
なっていた小浪(こなみ)とその母、戸無瀬(となせ)が
嫁にしてくれと訪ねてくる。これが幕開きの行列である。

これに対して、由良之助の妻、お石が応対に出る。
許嫁の約束をしたのは、以前の話しで、今は浪人の身分。
状況が変わっているので話はなかったことにしてほしい
と断り、引っ込んでしまう。とりつくしまがないというやつ。

母娘二人は、それは困る、武家の女として恥辱である。
これで、はい左様ですかと、帰るわけにはいかない。

こういう時の選択肢は一つ。死、である。

ここで、戸無瀬は娘小浪を殺し、戸無瀬もすぐに後を追おうとする。

すると、どこから表れたか、表に虚無僧が訪れ尺八を奏でる。
(以下、ずっと奏でている。)

戸無瀬はためらいながらも、娘小浪に刀を突き付け、
今まさに手にかけようとする時、奥からお石の声で
「ご無用」と。

これは、門付(かどづ)けにきた、虚無僧に対しての言葉か、
と、戸無瀬は考え、気を取り直し、再度刀を振り上げると、
また「ご無用」の声。

お石は、虚無僧に対して言ったのではない、倅(せがれ)力弥と
祝言させよう、という。

戸無瀬、小浪は、安堵と歓び。

お石は三方を持って現れ、ここに引き出物を、と要求する。

その引き出物とは、加古川本蔵の首であると。

加古川本蔵とは、小浪の父、戸無瀬の夫(おっと)である。

すると、外にいた虚無僧は笠を取って入ってくる。
なんとこれが、加古川本蔵、その人。
これには戸無瀬も小浪もびっくり。

と、ここまでが、前半であろうか。

区切りもよいので、明日につづく。


「仮名手本忠臣蔵」『九段目 山科閑居』文化5年 江戸中村座
画豊国 本蔵女房となせ、三代目中村歌右衛門 由良之介女房おいし、
四代目瀬川路考






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