断腸亭料理日記2014

初芝居 寿初春大歌舞伎 その4

引き続き、歌舞伎座夜の部「忠臣蔵」「九段目の切」、
前半部分。

まだまだ、見どころというのはある。

この前半部分の登場人物は女性(女形だが)のみ。

まあ、行列の供の者と、取り次ぐ女性もあるが、
まあ、戸無瀬の娘小浪とお石の三人。

この三人だけの舞台といってよい。

三人の年齢は一番上がお石。
戸無瀬というのは後妻で年齢は若く、お石よりは下で
小浪とも年はそう離れてはおらず、若いという設定。

役者の実年齢とはむろん関係なく、演技、歌舞伎では
所作、型、などというのか、で演じ分けられているわけである。

戸無瀬が女形の最上位、立女形が演じているということは、
お石にしても、小浪にしても、いい加減な芝居はできない、
と、いうことになると思われる。

そういう意味で、女形それぞれの最高の芝居が観られる
場面といってよいのではなかろうか。

ストーリーも緊迫している上にこういう背景を
考えて観ると自ずから違ってみえる。

むろん、藤十郎の演じる戸無瀬の芝居、所作は素晴らしい、、
はず、なのであるが、、、。

ちょっと、これ、細かい所作は見えなかったのである。
眼鏡を忘れ、かつ、最初に書いたように上手側端の席で
思った以上に遠かった、のである。

その上、立役(男)の芝居、所作よりも、
女形のそれは、かなり小さく、細かい。
これはやはり、わかりにくい、のである。

あらかじめ家で観ていたDVDはアップもあり、細かい
手の動き、目線の位置などもきちんととらえられており、
なるほど、と思って観てきたのであった。

(また、このDVDは大分古いもので、戸無瀬:六代目中村歌右衛門
お石:七代目中村芝翫 小浪:四代目中村雀右衛門 
皆、今は故人で、かつ、人間国宝であった。そりゃあ、すごいわ。)

と、いうことで、藤十郎先生の戸無瀬の所作も、細かいところは
残念ながら、見えなかったので、コメントはできないのであるが、よいはず、と、
いうことであった。

さて。

そんな前半部分の後は、どういうことになるのか。

戸無瀬、小浪で死のうとしようとしてたところへ
首がほしいとお石にいわれていた、虚無僧に化けた
加古川本蔵本人が笠を取り、「加古川本蔵の首、差し上げよう」
と、いって入ってくる、のである。

これは、ビックリ。

なぜか。

むろん、首をくれ、と、いわれた本人が現れてしまったのだから
そりゃぁ驚くのだが、実はもっと深いわけがあったのである。

その深いわけは、背景がわからないと、まったく理解不能。

まったくもって、不親切というのか、まあ、そういうものといえば、
それっきりだが、歌舞伎というのは難しい。

つまり、長編推理小説などは文庫本などで読んでも、
分かりやすいように、とびらのページなどに、登場人物を
書き出してあったりするが、あれがないと、やっぱり、
この人なんだっけ、状態になるのである。

話しは「忠臣蔵」の冒頭『大序』という幕があって、その次、二段目。

昨年の上演ではこの二段目というのは演っていない。
そして、その次が三段目で、ここが松の廊下の『刃傷の場』になる。
また、二段目に加古川本蔵と戸無瀬、小浪の母娘も出てくるのである。

なぜ三段目で刃傷になったのか、というのが二段目、三段目で
描かれるわけだが、吉良上野介(高師直)は浅野内匠頭(塩冶判官)が
付け届けを寄越さないので意地悪をして、これを恨んで内匠頭は刃傷に及ぶ、
というのが皆さんご存知のざっくりした理由。

歌舞伎の「忠臣蔵」では、浅野内匠頭(塩冶判官)の同僚の大名として
もう一人、桃井若狭之助というのが出てくる。

実は、この桃井の方がもともとは高師直に対して、大きな遺恨を持っており
殺してやる、とまで思っていたのは桃井の方であったのである。

加古川本蔵というのは、この桃井家の家老。
つまり、塩冶家の家老大星由良助と同じ立場。

加古川本蔵は自分の主人である桃井若狭之介が高師直に対して
間違いを起こさないようにと、主人には内緒で、こっそり
付け届けをして師直の態度が変わり、桃井家の方はことなきを得る。

師直は憎まれ口をいう相手がなくなり、矛先が判官の方に向き、
結局、判官が師直に刃傷におよぶ。

そして、その刃傷の場に桃井家の家老である加古川本蔵も居合わせ、
刀を振り回す判官を止めた。

塩冶の方はむしろ桃井のとばっちりで、判官は切腹で
お家断絶になったというお話しになっているのである。

その上、加古川本蔵自身が刃傷を止めず、いっそのこと判官は
師直にとどめを刺していれば、仇討といった残った者達への
負担を残すこともなかった。

以上のような状況があって、お石は、力弥、小浪の祝言の引き出物に
加古川本蔵の首を出せ、という発言をしている。
そして、加古川本蔵は虚無僧姿に化けて由良助の山科閑居に現れ、
「加古川本蔵の首進上申す」と笠を取りながら、屋敷に入ってきた
のであった。

加古川本蔵とすれば他家のことであり、お家断絶になろうが、
浪士達が討ち入りの準備をしようが、むろん関係ない、のであるが、
本蔵自身はそうは思っていない。むしろ責任を感じているのである。

高師直とトラブルを起こしていたのは桃井家の方で
まかり間違うと、由良助の立場は自分の立場であった。

また、直接判官の刃傷をとめたのが自分であることも
本蔵自身、申し訳なかったと悔いている。

本蔵が由良助の屋敷に入ってくると、とはいうものの、聞くところによれば
由良助は遊興に耽っていると聞いているぞ、そんな日本一のあほうに
大事な娘はやれないといって、お石が持ってきた三方を踏み潰す。

お石もさすがに大名家の家老の妻、浪人だと思って侮るなといって
長押掛かった槍を取って、本蔵に向かう。

しかし、さすがに女の力ではどうにもならぬ。
簡単にお石は本蔵に組み伏せられる。

と、そこへ、息子力弥が登場。
お石から槍を取り、本蔵に立ち向かう。

一合、二合目、、槍は本蔵の腹へ。
この時、本蔵は力弥の槍に手を添えて自らの腹へ
導いている。

倒れる本蔵に嘆く戸無瀬、小浪を振り切り、力弥は
とどめを刺そうとする。

と、そこへ。
「力弥、早まるな」と由良助が奥から出てくる。


おしまいまでたどり着かなかった。
来週もつづく。


11代目片岡仁左衛門、加古川本蔵 画:名取春仙(ウィキペディアより)
いつものものとは異なって、明治以降のもの。
絵もよい。名取春仙という人は明治末から戦後まで活躍した
版画家、浮世絵師。11代目の仁左衛門はこの九段目の
加古川本蔵を当たり役としていたという。




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