断腸亭料理日記2014

うなぎ・かぐら坂・志満金

9月30日(火)夜

今日は市谷のオフィス。

帰り道に、神楽坂の[志満金]で久しぶりに
うなぎでも食べようかと思い立つ。

昨今の日本うなぎのレッドリスト入りで
どうしてもうなぎを食べる機会が減っている。

こんな状態で食べるのは、どうしても後ろめたい思い
がするのである。

シラスウナギの漁獲制限も近隣国と2割減というのが
決まったようである。
また、完全養殖の取り組みも始められているのだろう。
しかし、どちらにしても安心して食べられるようになるのは、
まだまだ時間はかかろう。

江戸名物うなぎの蒲焼を思うさま食べられる日がくるのを
待ち焦がれている。

神楽坂の[志満金]というのはオフィスからも
近いので、特にこの季節になると、寄ってみたくなる。

なにかというと、うなぎもさることながら、松茸の土瓶蒸し。
別段、ここでなくとも一向に構わないのだが、
ここに寄ってうな重とともにほんの少し秋の風情を
感じるのが、この時期のたのしみになっている。

またうなぎというのは、ご存知の通り、かの平賀源内先生以来、
夏のものになっている。
しかし、本当は秋から冬の方が脂がのりうまくなるともいわれており、
私などは、なにも人でごった返す時期に食べなくとも
よいであろうと思い、秋に入ったこの時期であれば、
食べてみようという気になるのである。

オフィスから神楽坂下までは歩いても15分程度。

牛込のお屋敷町を抜けて、新坂を降り、
クランクを抜けて突き当り。
右が若宮八幡だが左に折れ、すぐに右。

この通りは細い路地でゆるく右にカーブし、道なりに行くと
神楽坂下の裏通りになる。

このあたり、久しぶりに歩いてみると、
小さいが和食のちょっとお洒落な店がどんどん
できている。
ちょっとのぞいてみたくなる。

さて、かぐら坂[志満金]。

創業は明治2年。
今年で145年。
(ただ、東京のうなぎやでは江戸創業というのは珍しくなく
びっくりすることはない。)

ここは創業当時は、当時流行りの牛鍋「開花丼」の店
であったようではある。

明治、大正、昭和と神楽坂が山手の花柳界として
繁盛をするのに合わてこの店も発展してきたのであろう。

東京の老舗うなぎやでも、割烹を看板に出しているところは
他にもいくつかある。
往々にして手広くしたのはいいが、サービスも
肝心の蒲焼の味も残念なことになっているところも
皆無ではない。

しかし、ここは味はむろんのこと、
応対、サービスにしても実に行き届いているのが
私が足を運ぶ理由である。

店に入り、出てきた和服のお姐さんに、一人というと、
1階のテーブル席に案内される。

座ってビール。
ヱビスの中瓶。

注文は、松茸土瓶蒸しと、うな重。

うな重は、一番下の“月”というのは今はない、とのことで
その上の“雪”、2,916円也。
食べすぎてはいけないと、ご飯は少なめにと、頼む。

ビールを呑みながら、待つ。

ややあって、土瓶蒸しはやはり時間がかかるからか
うな重からきた。


この色つや、なにもいうことがない。

やはり、たまには、うな重を食べねば
東京人“力”というのであろうか、少し大袈裟な言い方だが、
東京で生まれ育った者のアイデンティティーのようなものが
枯れてしまう。

毎度書いているが、うなぎの蒲焼というものは、
[素人うなぎ]だの[うなぎの幇間(たいこ)」
「子別れ」等々、江戸落語には数多く出てくるし、
庶民でもたまには食べたいご馳走の代表であった。
にぎりの鮨、天ぷらと並んで、東京を代表する伝統料理
である。

これが食べられなくなるのは、まったくもって、
とても考えたくないことである。

すぐに、土瓶蒸しもきた。


ふたをあけて、柚子をしぼる。


先に猪口につゆを注ぎ、呑む。

よい出汁に、松茸の香り。

松茸以外には、三つ葉、海老や銀杏、焼いた鱧も入っている。

松茸をつまんで食べる。

こういうものは、こんな一切れ二切れではなく、
本当は、山ほど七輪かなにかで焼いて、
しょうゆをふって食べねば味わったことにはならないような
気がするが、まあ、気持ちのもの。

ささやかなものだが秋の味覚のおすそ分けにあずかれる。

さて。

ここは食べ終わった頃を見計らって、渋めのお茶と
それとは別に、抹茶とお茶菓子を出してくれる。


こういうところがこの店の乙なところ。

「心なき身にもあはれは知られけり」。

ご馳走様でした。

 

志満金

 


 


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