断腸亭料理日記2015

池之端・おでん・多古久 その1

12月20日(日)夜

一昨日の金曜日はサラリーマンの忘年会が最も
多い日であったという。
そういう私もご多聞にもれず、会社の人間と忘年会であった。

二軒三軒と歩いて、珍しく昨日は二日酔いで
使い物にならなかった。

今夜はなにか温かいもの。

おでんはどうだろうか。

家でおでんを作ると大量にできてしまうので、
内儀(かみ)さんと二人では食べきるまでに
飽きてしまう。

外へいこう。

そういえば、今、おでんや、あるいはおでんを看板にしている
居酒屋というのは、少なくなったのではなかろうか。

おでんなど、以前は屋台であり、昼間も子供相手に
売り歩いていたし、夜になれば街角で酒を呑ませてもいた。

基本、こういった文字通り引っ張って歩く屋台は道交法やら、
食品衛生法やらの取締対象で、なくなっていったのであろう。

その代わりにおでんを売り出したのはコンビニ。

しかし。

しかし、で、ある。

ここが大事なところ、で、ある。

コンビニのおでんは、なぜかつゆが透明な関西風。

悲しい哉、悲しい哉、重ねて悲しい哉。

東京風のしょうゆ味のおでんは、東京からほぼ完全に駆逐された。

悲しい哉、悲しい哉、重ねて悲しい哉。

東京で生まれ育っても、ほとんどの若い人は透明なつゆが
おでんであると、思っているのであろう。

悲しい哉、悲しい哉、重ねて悲しい哉。

断っておくが、私は、透明なつゆのおでんを否定しているわけではない。
きらいではないし、うまいものであると、思っている。

だが、あれはあくまでも別の食い物である。

東京でおでんといえば、しょうゆで色がついたものである。

しょうゆで煮〆たようなという比喩があるが、
文字通りしょうゆで黒くなったものが東京のおでんであった。

一時期、うどんでもそばでも、煮物でもしょうゆで黒くしたものは
塩分が多いというので、袋叩きにあったわけである。

しかし、例えば薄口しょうゆの方が濃口しょうゆよりも
実際は塩分濃度は高い。
うどんそばのつゆも、関西風の透明なものも塩分濃度でいえば
必ずしも低くはなかろう。
透明なおでんつゆも然り。
(むろん、味付け次第ではあるが。)

とにもかくにも、しょうゆ味の東京風おでんを
私は、東京に復活させたい。
食は文化であることはいうまでもない。

小さい頃、煮物といえば野菜でも魚でも、
基本はしょうゆで真っ黒。(むろん、今でも我が家ではそうだが。)

うちの親爺などは煮物には砂糖はおろか、味醂さえ入れさせず、
入れても日本酒のみ。
極端なことをいえば、酒も入れずに濃口しょうゆのみで煮〆たもの。
これが煮物の味であった。

数少ないしょうゆで真っ黒な東京おでんの味を守っているおでんやといえば、
日本橋などにある[お多幸]。

以前に[お多幸](今は日本橋にあり、以前は銀座のソニービルの
裏にあった店)のレシピをキッコーマンのサイトで読んだことがあるが
あそこのつゆは、日本酒も入れず、濃口しょうゆのみ。

そう。
東京のおでんは、しょうゆの煮〆、煮物、なのである。
(このため、つゆを飲むものではない。)

と、いうことで、おでん。

[お多幸]ではなく、池之端仲町通りにある[多古久]という店。
明治37年(1904年)の創業の老舗。
むろんここも数少ない純東京風おでん。

ここは土日もやっているのがありがたい。

6時開店なので、そこを目指して出掛ける。

大塚行きの都バス。

着いたのは、五分前。

暖簾は出ていないが灯りはついている。
大丈夫であろうと、格子を開けてみる。

開けると、一番乗り。
女将さんに、
予約していないんですが、大丈夫ですか?。

ちょっと考えて、女将さん、OKのよう。
カウンター手前の右端。

お酒お燗を二合徳利でもらう。

ここは大きなおでん鍋が銅壺になっておりここに
突っ込んで燗をつける。

お通しは塩味のむかご。

引き続いて、おでん。

すじ、つみれ、ちくわぶを、頼む。

これはおでんやで私が最初に頼む、と決めている三品。


ここはこの土鍋に入れて出てくる。

すじ、というと、今は日本橋の[お多幸]にも
牛すじがあるが、やっぱり、練り物のすじ。

私が頼むと、練り物のすじですよ、と、女将さんに
念を押された。

ご念には及ばない。

なぜだか、子供の頃から、すじが私は好物であった。

また、ちくわぶも東京にしかないおでん種。

つみれは全国にあろうが、私の好物。


つづく

 


台東区上野2−11−8 長谷川ビル1F
03-3831-5088


 





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