断腸亭料理日記2015

上野・とんかつ・井泉

10月20日(火)夜

夜、市谷のオフィスからの帰り道。

今日は上野広小路の[井泉]でとんかつを
食べて帰ろうと、思い立った。

[井泉]というのは上野御徒町、上野広小路駅から
上がってすぐで、便利。

そして、上野の老舗とんかつや三軒の中でも、最も
気軽に入れる。

この二点で重宝している。

大江戸線から上がってきて、上野広小路亭の角に出てくる。

[井泉]はこの裏。

どちらからまわってもよいのだが、春日通りではなく、
広小路側からまわる。

鈴乃屋の前には都バスのバス停があるのだが、
このバス待ちの人々に加えて、大量の欧米系の
外国人観光客がいる。
ちょうど、彼らの乗る観光バスの迎えがきたところのよう。

上野御徒町あたりはどちらかといえば、場所柄からアジア系の
観光客が多いような気がしていたが、まあ、そんなことも
ないのかもしれない。
なんにしても東京がにぎわってくれるのはありがたいこと。

角を曲がってもう一度曲がって、路地に入り右側。

ほんとうに小さな木造建築である。
暖簾が下がる表口など、風情があるのだが、
二つある出入口など、なん回か増築をしているような、
変わった造り。
建て替えたりするつもりはあるのであろうか。

おそらく、戦後のこの界隈が花街として最後に栄えた頃の
面影をとどめているのだと思われる。

小洒落たビルなんぞにするよりも、このままの方が
ファンとしては断然よいのだが。

暖簾を分けて格子を開けて入る。

一人、といって、手前のカウンター、一番左、
窓のそばに座る。

アクリルであろうか、透明な仕切りの板があって
とんかつを揚げる油の正面。

あいていれば最近はたいていここに座る。

道々、なにを頼むか考えてきた。

と、いってもいつもと同じなのだが、
かにときゅうりのサラダと特ロースかつ。

ビールをもらって、待つ。

アルコールを頼むとお通しの塩辛がいりますか、
と聞いてくる。これは有料。

いかの塩辛なのであるが、一、二度もらったことはある。
なぜこれなのか、不思議といえば、不思議である。

満席にはならないが、お客は切れずに入ってくる。

若い女性一人でカウンターに座る。

年配のサラリーマン風二人組。

よく喋る、おばさん4人が後ろのテーブル席に座る。

サラダがきた。


カニの肉が入った、きゅうりのコールスローのような
ものなのであるが、まあ、他では見たことがない。
薄く切ったきゅうりがパリパリ。
どういう技を使っているのか。

これがうまい。

つまみながらビールを呑む。

中の調理場は3人。
揚げているのがご主人であろうか。

そしてご主人そっくりの顔にそっくりの眼鏡をかけた
若い二人。息子さんなのであろう。

お父さんはさほどでもないが、息子さんは
二人とも大きなお腹で、かなり恰幅がいい。

お兄さんらしき方が、揚がったかつを専用のまな板にのせて
ザクザクザクと、切る。

きた。


肉もさることながら、
ここの衣はやはり独特であろう。

目の前で見ているのでわかるのだが、
大きめに砕かれた生パン粉をたっぷりとまとわせる。
これをふんわり、カリカリに揚げているのである。
香りもよい。

とんかつ、いや、フライものの衣というのは、小麦粉と玉子の部分と
そこにまぶされたパン粉に分けられる。
これは単純なようにみえて、恐ろしく複雑で
無限のバリエーションがあると思われる。
私もフライものを揚げるので多少は理解できる。

それぞれの量や割合、パン粉の形状、質、量の組み合わせ。
これらがとんかつや、洋食やによって、微妙に違っている
わけである。
どんなものが最もうまいのか、むろん一つではなかろう。
その中でこの家のものは、最もうまいある一角を占めていると思われる。

そして、この家のキャッチフレーズ通りの
「箸で切れる」柔らかい肉。
うまみも十二分。

ご飯と豚汁はいりませんか、とお姐さんに聞かれた。
豚汁は惹かれるのだが、食べすぎを考えて、
やっぱりやめておこう。

うまかった。

ご馳走様です。

春日通りに出てバスで帰宅。

 

井泉本店

文京区湯島3-40−3
TEL 03-3834-2901


 


 


断腸亭料理日記トップ | 2004リスト1 | 2004リスト2 | 2004リスト3 | 2004リスト4 |2004 リスト5 |

2004 リスト6 |2004 リスト7 | 2004 リスト8 | 2004 リスト9 |2004 リスト10 |

2004 リスト11 | 2004 リスト12 |2005 リスト13 |2005 リスト14 | 2005 リスト15

2005 リスト16 | 2005 リスト17 |2005 リスト18 | 2005 リスト19 | 2005 リスト20 |

2005 リスト21 | 2006 1月 | 2006 2月| 2006 3月 | 2006 4月| 2006 5月| 2006 6月

2006 7月 | 2006 8月 | 2006 9月 | 2006 10月 | 2006 11月 | 2006 12月

2007 1月 | 2007 2月 | 2007 3月 | 2007 4月 | 2007 5月 | 2007 6月 | 2007 7月 |

2007 8月 | 2007 9月 | 2007 10月 | 2007 11月 | 2007 12月 | 2008 1月 | 2008 2月

2008 3月 | 2008 4月 | 2008 5月 | 2008 6月 | 2008 7月 | 2008 8月 | 2008 9月

2008 10月 | 2008 11月 | 2008 12月 | 2009 1月 | 2009 2月 | 2009 3月 | 2009 4月 |

2009 5月 | 2009 6月 | 2009 7月 | 2009 8月 | 2009 9月 | 2009 10月 | 2009 11月 | 2009 12月 |

2010 1月 | 2010 2月 | 2010 3月 | 2010 4月 | 2010 5月 | 2010 6月 | 2010 7月 |

2010 8月 | 2010 9月 | 2010 10月 | 2010 11月 | 2011 12月 | 2011 1月 | 2011 2月 |

2011 3月 | 2011 4月 | 2011 5月 | 2011 6月 | 2011 7月 | 2011 8月 | 2011 9月 |

2011 10月 | 2011 11月 | 2011 12月 | 2012 1月 | 2012 2月 | 2012 3月 | 2012 4月 |

2012 5月 | 2012 6月 | 2012 7月 | 2012 8月 | 2012 9月 | 2012 10月 | 2012 11月 |

2012 12月 | 2013 1月 | 2013 2月 | 2013 3月 | 2013 4月 | 2013 5月 | 2013 6月 |

2013 7月 | 2013 8月 | 2013 9月 | 2013 10月 | 2013 11月 | 2013 12月 | 2014 1月

2014 2月 | 2014 3月| 2014 4月| 2014 5月| 2014 6月| 2014 7月 | 2014 8月 | 2014 9月 |

2014 10月 | 2014 11月 | 2014 12月 | 2015 1月 |2015 2月 | 2015 3月 | 2015 4月 |

2015 5月 | 2015 6月 | 2015 7月 | 2015 8月 | 2015 9月 | 2015 10月 |




BACK | NEXT |

(C)DANCHOUTEI 2015