断腸亭料理日記2016

鯵の煮びたし

4月23日(土)第一食

さて。

土曜日。

なにを食べようか。

冷凍庫をかき回してみたら、鯵が凍っていたのを
発見した。

少し前に、アメ横の魚やで大量に買ったものを
頭と腹を出して、凍らせておいたものである。

多少小さなものだが4匹。

食べた方がよかろう。

これであれば、なにか。

開いて、アジフライか。

だが開くのは今日はちょいと面倒。

思い付いたのは、煮びたし。

初夏も近付き、そろそろよい季節、で、ある。

これであれば、白焼きにして煮ればよい。
簡単々々、お茶の子さいさい。

鯵の煮びたしというのは、なん回も書いているが、池波レシピ。

作品は鬼平、で、ある。

季節は夏。

この頃は、密偵のおまさは同じく密偵の大滝の五郎蔵と
夫婦になっている。(少々の引用をお許し願いたい。)

************

おまさが、本所・相生町の家へ帰ったのは夕暮れになってからである。
大滝の五郎蔵は、夜になってから帰って来た。
今日も五郎蔵は、暑熱の日中を変装して江戸中を歩きまわり、
「怪しい奴・・・・・・」
に目をつけていたのであろう。
おまさは、五郎蔵が好物の紫蘇の葉をきざみこんだ瓜揉みと、白焼きにした
鯵を煮びたしにしたものを膳に乗せ、これも五郎蔵の好みで、冷酒を茶わんに
酌(く)んで出した。
(池波正太郎・鬼平犯科帳10「むかしなじみ」文春文庫)

************

ここに煮びたしとともに登場する「紫蘇の葉をきざみこんだ瓜揉み」。
これはおそらく、先生の好物であったのであろう。

また、瓜は雷干しというのも作品にはよく登場する。
先生の少年期の思い出として書かれていたように思うが、
お祖母様がよく作ってくれて、好きであったと。
(先生が少年期育たれたのは、お母上の実家で、私が今住んでいる
元浅草である。旧町名では永住町。私は同七軒町で永住の南隣の
町会である。)

瓜というのは、今もそう大量にではないが、これからが季節。
東京でもスーパーに並ぶ。
これを読んで、私も瓜揉みにしても、雷干しも作って食べてみた。

瓜揉み

雷干し

瓜という野菜は現代においては奈良漬やしょうゆ漬けの鉄砲漬け
あたりにしかほぼ残っていないといってよいのではなかろうか。

瓜揉みにしても、雷干しにしても、そこそこうまいもの
ではあるが、是非とも食べたいという地位には残念ながら
私としては達しなかった。

池波先生の少年時代、戦前の昭和ヒトケタの頃には
確かに東京の下町では食べられていたものであるが
段々に姿を消していった。そしてそれにはそれなりの
理由があったということである。

瓜に取って代わったのは、やはりきゅうり。
瓜にくらべてみずみずしく、そのままでは食べられぬ瓜であるが、
きゅうりはそのままでも食べられる。

ともあれ、鯵の煮びたしであった。

凍っていた鯵は、レンジで解凍。
ゼイゴを取って洗う。


 

焼くのはガスのグリル。
余熱をしてから、塩なしで両面にこんがりと焼く。

 

鍋に、水、酒、しょうゆ。
みりんを入れるという人もあるが、煮物や煮びたしの場合、
甘くしないのが以前の東京下町の正しいレシピであろう。
むろん、品はないが。

長く置く可能性もあるので、あまり濃くはしない。

 

煮立てて、弱火。
アルミホイルで落としぶた。

 

5〜6分煮て、あとは自然に冷ます。
火は通っているのでこれ以上煮る必要はなかろう。

また、冷ましている間に味は染みる。

1時間後。

皿にのせる。

冷蔵庫にあっためかぶもぽん酢しょうゆをかけまわして、出す。

 

茶碗に冷酒(ひやざけ)もよいのだが、午前中からはさすがに
やめておこう。

ビール。
(同じようなものか。)

鯵は焼くのであれば、塩焼よりも、干物よりも、
こちらの方がうまい。

いや、脂ののりがよいものであれば、
塩焼も、干物もうまいのであるが、
煮びたしは、どんなものでも(今日のような解凍ものでも)
確実に、うまい。

まあ、しょうゆの味で誤魔化している、といえなくもないが。
ただ、それでも十分。

鯵の煮びたし。

確実に、私の定番メニューにはなっている。


 




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