断腸亭料理日記2016

続々とんかつ放浪記・

目黒・とんき

3月9日(水)夜

忘れていたわけでもないのだが、
とんかつの、目黒[とんき]、で、ある。

いうまでもなく、池波先生御用達の池波レシピ。
都内でも名店といってよいだろう。

とんかつが大好物であった先生だが、
中でもお住まいが比較的近かったということもあってか、
ここにはよくこられていたと思われる。

池波ファンとすれば、とんかつやといえば、
ここを忘れてはいけない。
11月にオフィスが五反田に引越して、
目黒は目と鼻の先。

ちょいと寄ってみようと思い立った。

オフィスから歩けないこともないのだが、
雨風がひどく、山手線を一駅乗ってしまう。

目黒駅西口から出て、駅前からすぐに坂になっているが
これが目黒通りで権之助坂。

少し坂を下って左側、ビルの脇、一本目の左に入る道。
ここに折れて、1〜2軒目が[とんき]。

曇り硝子に白木の桟、紺の暖簾。
折からの強風で少しまくれている。

硝子戸を開けて入る。

お。

列がない。

広い一階。

白木のカウンターがあって、中が広い調理場。

いつもは右側のカウンターの後ろ、壁際の椅子に
待っている人の列があるのだが、今日はない。
空席もちらほら。

この天気のせいか。
ラッキー、で、ある。

カウンターの中のご主人らしい白い短髪、眼鏡。
意外に背の高い方が、掛けるところを指示してくれる。

奥、とのこと。

カウンターのずーっと奥までまわって座る。

腰かけるとすぐに、お兄さんがきてお茶と
熱いおしぼりを置く。
すかさす、ビール!。

キリン、サッポロ?。

キリンで。

と、入れ違いに、さつきのご主人らしい方がきて
ヒレかロースか?

ロースで。

以上。

言葉にまったく無駄がない。

ここには串かつもあるのだが必ずこう聞かれる。
また、とんかつも単品もあり、なのだが基本は定食。

すぐにビールがくる。


つまみはピーナッツ。

調理場の中を眺めながら、ビールを呑む。
ご主人らしき方の上にもう一人いてそのご老人が揚げている。

腰というのか、背中がかなり曲がっている。
80は越えられているのではあるまいか。
顔がよく似ており、お兄さん、お父さん?で
本当はこちらがご主人か。

揚げている隣は皿にキャベツを盛り付けているところ。
前からいたであろうか。
おそらく10代と思われる、若い、かわいい娘さん。
ひょっとするとお孫さんか。

基本、ここの皆さんは、皆、笑顔。

お客になにかいう時、聞く時、
必ずにこやかに対応する。
無駄話はしない。
徹底されている。
客商売とはいえ、なかなかできているところは少なかろう。

ここまて徹底されていると、怒るお客はまずいなかろう。

ここは注文からそこそこ待ち時間はあるのだが、
などなど、考えていると、きた。


ロース定食、1,900円也。

ビールを呑んでいたのてご飯と豚汁はどうするか
聞いてくれたがむろんもらった。

塩はなく、ソースのみ。
カウンターの上に置かれている。

で、お味はどうか。
ここのところの「断腸亭のとんかつ放浪記」的な評価をすると
おそらく点数はそう高くはならない。

まず、この揚げ色である。油切れはよい。
ただ、中の肉は堅くはないが薄ピンクというほどではない。
また、脂身もとろけるようとはいかずやはり、
多少熱の入りすぎ方向、なのかもしれぬ。
衣は、切れたりはしないが、浮き気味。

キャベツのお替りにまわってきてくれるが、
キャベツはとてもみずみずしく、うまい。
ついでだが、私はしなかったが、ご飯も豚汁も
お替り可。
これらも実ににこやかにしてくれる。

豚汁は肉が厚切りのバラ肉で、うまい。

食べ終わると、ちゃんと見ていてくれて、
スッと新しいおしぼり。
目の前に、爪楊枝。

実に行き届いている。



御馳走様でした。

お勘定をして、
やっぱり、にこやかな挨拶に送られて、出る。

とんかつは、むろんうまいが、ここ以上のところは
ある、のであろう。
そこではない価値が、いや、目黒[とんき]にしかない
価値が確実にある。

まず、普段、殺伐としている心が穏やかになる。

それだけでは足らない。
人の生き方とは、こうなんだ、と教えられているような。
これ、大袈裟でもなんでもない。

今夜、改めてそう思った、のである。



目黒区下目黒1-1-2
03-3491-9928


 

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