断腸亭料理日記2017

長命寺桜もち

4月2日(日)夜

引き続き、日曜日。

浅草松屋の地下[すし栄]で鮨をつまんで、
1階に上がってくる。

なにか甘いもの、、、。

売場の奥の方。
地元のものを売っている。

言問団子もあるが、、

ん!。
そうだ、長命寺の桜もちがあるはず。

向島の銘菓。
お花見といえば、これに止めを刺す。

ちょっと探すと、あったあった。
この花見時期は向島の土手下にある店は、長蛇の行列。
松屋も置いてはいるがすぐに売り切れてしまう。
桜花がまだなので、こちらも、まだ、なのであろう。

一箱買って、帰宅。

外箱。

なかなか乙な包みである。
「すみだ川 長命寺 桜もち」
店の名前は、山本や、という。

中もちゃんとした、貼り箱。

これが名代の長命寺桜もち。

桜もちの元祖という。

塩漬けの葉っぱが一つに3枚と贅沢。

中はこしあんを薄い皮で巻いたものである。
長命寺式の元祖。むろん、餅の中にあんを入れた道明寺ではない。

渋いお茶を淹れて、食べる。

葉っぱの香りがかなり強い。
ここのものは葉っぱごと食べた方がよかろう。
むろん、食べられる。

長命寺桜もち。

どこにあるかというと、墨堤(ぼくてい)を吾妻橋からずっと北へいって、
言問橋も越えて、桜橋という人だけが渡る橋があるが、この袂あたり。

現代の地図。

江戸の地図も出しておこう。

吾妻橋から墨堤沿いに大川の上流にさかのぼると、
水戸藩の屋敷。

落語「文七元結」にも出てくる。
通称、小梅の水戸様。
(小梅は、コンメ、なんと発音していた。)

小梅のいうのはこのあたりの古い地名。
墨田区立の小学校の名前などに残っている。

江戸の地図に描かれているが、堤の上に桜が植えられている。

延命寺という寺の脇に三囲稲荷というのが見える。
みめぐり、と読む。

これは今もあるお稲荷さん。

江戸の豪商、三井家の守護になっている。
今も三越を始め、三井グループは定期的に、お祭をしているよう。
境内には三井縁(ゆかり)の石碑など多数ある。

川側に「竹やの渡」と見える。

対岸はちょうど山谷堀の合流点。
渡し舟があったわけである。

これも落語に出てくる。
文楽師の「船徳」。

この三囲の隣に料理やが見える。
これ以外にも、川から離れたところにも、
武蔵屋、大七なんという料理やの名も見える。

広重『江戸高名会亭尽 向島 大七』天保期

鬼平などにも出てくるが、大身旗本、大店の主も利用した、
向島の料亭である。

今も残っている向島の花柳界の歴史というのは、
このあたりまでさかのぼるのである。

隅田川の流れと桜、江戸郊外の田園風景。
建て込んだ今ではとても想像できないが、そんな
風雅な風景が展開されていたのである。
川から引き込んだ生簀に鯉を飼って、鯉の洗いなどが
名物であったのは「大七」。(これ、鬼平にも登場する。)

その北隣に「牛の御前」というのが見えると思う。

これは牛島神社といっている本所総鎮守。
(今も業平橋あたりまでの広い氏子範囲を持っている。)
今はここではなく、ずっと南の隅田公園の隣にある。

長命寺はその先。
ちゃんと桜もちも書いてある。

長命寺の桜もち[山本や]は1717年(享保二年)創業という。

吉宗の時代である。
この墨堤に桜を植えさせたのは、誰あろう、その吉宗。
堤の補強、かつ、江戸庶民の目も愉しませるために植えた
という。
ちょうどその当時に茶店として開業しているわけである。

長命寺桜もち[山本や]の隣に、今あるのが言問団子。

こちら創業は160年といい、幕末で少し新しい。

言問は、むろん伊勢物語の在原業平の、

名にしおはば いざ言問はむ都鳥 わが思ふ人はありやなしやと

この歌に由来している。
今、言問橋、言問通りと“言問”は地名として使われているが、
なんと、幕末開店のこの言問団子の方が先。
言問団子、恐るべし。

 

花の雲 言問団子 桜餅   子規

 

今週末あたり、墨堤の桜花はまだ愉しめるであろう。
(天気予報は、雨、かな?)

 


長命寺桜もち


 

 

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