断腸亭料理日記2019

断腸亭落語案内 その53 三遊亭金馬・居酒屋

8月になりました。
梅雨もあけて、いきなりの猛暑。
暑中お見舞い申し上げます。
しばらくは、この暑さが続くよう。
皆様、お身体、ご自愛いただきますよう、
お願いいたします。
断腸亭

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

三代目三遊亭金馬師。

「居酒屋」。
やはり、師の持ちネタとして忘れてはいけなかろう。

酒に関する小噺をいくつか、比較的長めに振って、噺に入る。

縄暖簾。

中は十二、三になります、ひびだらけの小僧さんが一人。
隅に居眠りをしているという。

入口に一匹、犬が寝そべっている、というのがバックです。
飛び込んでくるお客様も決まってます。

盲縞(めくらじま、紺無地のこと)の長半纏かなんか。
濡れっ手ぬぐいを肩にピシッと引っ掛けますと、
拳固で一つ、水っ洟(ぱな)をこじ上げますと
頭で暖簾を分けて入ってきます。

小僧さんをからかいながら呑んでます。
気の置けない者に、からかいながら呑むくらい
酔いが発散することはないそうです。

酔っ払いますと、子供みたいに愚にも付かないことを
真面目(まじ〜め)な顔して喋っているところは
酔っ払いのおもしろ味のあるもんでございます。

客「ごめんよ!」
小「へい〜〜〜〜。
  宮下へお掛けな(さ)い〜〜〜〜〜〜〜。」
客「なんだ?」
小「大神宮様(神棚)の下があいておりますからお宮の下へ
  お掛けない〜〜〜〜〜〜。」
客「どっか破けたような声出すなよ。

(どっか破けたような、と評しているが、この小僧の声がこの噺の肝。
 子供のようではあるが、高く、かなり妙な声なのである。)

  大神宮様の下ぁ?。
  あ〜、立派にお宮ぢができてるなぁ〜。
  お宮の下で、宮下かぁ。
  は、は。電車の停留所みたいなこといってるなぁ。
  客の座る場所に名前付いてるのか?!。

  おい。酒、持ってきとくれ。」
小「へい〜〜〜〜。
  
  お酒は澄んだんですか、濁ったんですか?」
客「おい。
  ヘンな聞き方するんじゃないよぉ。
  不敬だねぇ。
  お前(おめえ)客の柄(ガラ)ぁ見るねぇ。
  頭の先から、足の先まで見下ろしゃがって、
  澄んだんですか、濁ったぁ?
  濁った酒なんか呑めるかよ。澄んだ、んだよ。」
小「へい〜〜〜〜。
  上一升ぉ〜〜〜〜〜。」
客「おい、ちょいと待てよぉ。おい。
  一合でいいんだよ。」
小「え、へ、へ。
  景気でございます。」
客「あ、景気か。
  俺ぁ、びっくりしちゃったよ。
  おどかすなよー。
  酒の一升は驚かねえけど、懐(ふところ)の一升にゃ
  驚くからだよ〜。
  景気と聞いたんで、安心したよ。
  景気ならもっと大きくやれやい。
  上一斗ぉ〜〜〜〜〜、とかなんとか。」
小「お待ちどう様。」
客「ほいきた。
  
  おい、小僧さん。
  猪口はいけねえんだ。小せぇもんで呑んでると、酔わねえんだよ。
  生酔いになっちゃって、あくびばかり出てくんだよ。
  大きなもん貸してくんねえか。ガブガブって呑んで、酔っ払ったら
  小せぇもんでいいんだがな。
  ぐい呑みってなねぇか。湯呑み?あー、いいとも。湯呑み。
  結構だよ。
  おー、ありがと、ありがと。

  お〜〜〜〜〜!おう!。
  置いて、どんどんそっち行っちまうなよ。
  一杯(いっぺえ)注いでけよ。」
小「まことにあいすみません。
  混み合いますから、お手酌で願います。」
客「なんだ、はっきり断りゃがったな、おい。
  愛想のねえこと言うもんじゃないよ。
  一晩中、ここについててお酌してくれって、いうんじゃねーやな。
  持ってきたついでだから、一杯だけ酌しろってんだよ。
  (あたり見まわし。)
  混み合います、ったって、誰もいやしねえじゃねーかよー。
  ヘンなこといいなよぉ、おい。

  どうせお酌してもらうんなら、女の子がいいよぉ。
  酒は燗、肴は気取り、酌は髱(たぼ、日本髪の後頭部の部分の髪)って、
  だろう。十七、八の子で。白魚五本並べたような真っ白(ちろ)な
  細ぉい指で、いかが?、てなこと言われると、フラフラっと、
  一杯(いっぺえ)余計に呑むよぉ。

  お前のぉ、、、、、?手かい、、?
  汚ねえ手だなぁ〜〜。
  ベースボールの手袋みてえな手だな。
  でも、本革だなぁ。縫い目なしときてやがる。
  安くねえぜ、そりゃぁ。
  
  どうでもいいけど、お前(おめえ)の指、親指ばっかかぁ?。
  小指があるのかい?。見せろよ。太さも長さもみんなおんなじ
  じぇねーかよ。バナナ五本並べたような指してやがる。
  肉付きはいいなぁ!。実が一杯(いっぺえ)入(へぇ)って
  やがる。月夜に獲れたんじゃねーな?!。」
小「蟹じゃありませんよぉ。」
客「そう言いたくなるじゃねーか。

  ブルブル震えねーで、しっかり注げよ。
  湯呑みの口ぃ、徳利がカチカチっと当たるのはいやな心持だからな。

  もっとケツ持ちゃげなきゃ出ないよ。もっとケツ持ちゃげてご覧よ。
  
  お前のケツじゃないよ。
  徳利のケツ持ちゃげろってんだよ。そそっかしいなぁ。
  ケツ持ちゃげろったら、自分のケツ一所懸命に持ちゃげて。
  お前のケツ持ちゃげたって酒は出るかい。

  (注ぐ)
  あ〜〜〜、っと。
  は、は、は、は。
  ガミガミ言っても、江戸っ子だ。職人だ。
  腹にはなんにもないんだ。勘弁ししてくれよ。

  昼九(し(ひ)るく)、夜八(よるはち)って、ってねぇ。
  夜は八分目に注ぐもんだよ。心得てるんだよ、そのくらいのことは。
  いいかい。憶えておきな。

 

つづく

 

 

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