断腸亭料理日記2019

断腸亭落語案内 その41 桂文楽・つるつる

引き続き、文楽師「つるつる」。

旦「さあ。かまわずな、俺がここへ、出そう。」
  (財布を一八の前の畳の上に置く。)

  (芸者に向かって)
八「どうです!、ね。
  大将てぇものは、こういう人なんです。
  中座する、幇間の前へ、
  お前は今夜、身祝いがあるから、ズバリっと、ご祝儀を下さる、と。」
  (一八、財布を手に取る。)
旦「お前(めえ)にやったんじゃねえや。
  ただ、なんの気なしに、ここに出してみたんだ。」
八「あ、そーですか。
  これ、下すったんじゃない。なんの気なしに、出しただけ。
  おやおや。
  そーかー、なんだー。」
  (一八、放り出す。)
旦「なんだ、放り出しゃぁがって。
  これでお前のもの買おう。」
八「売りますよ。なんでも。
  羽織、着物、帯、みんなあなたにいただいたもの。
  売るものはなし。」
旦「そんなもの買うんじゃねえ。
  お前(めえ)の頭、半分買おう。」
八「え?」
旦「半分、坊主になんねぇ。二十円やるから。」
八「半分坊主ぅ〜〜?!
  へ、へ、へ、へ〜。
  嫌、てぇわけじゃないんですよ〜。
  普段なら、飛びつくんだよ〜、あーた。
  今夜だけはいけないよ〜。先方、行くんでしょ。
  一八っさん、あなた、頭半分、どうしたの?、って。
  二十円で売ってきた、って、、、。」
旦「色っぽい野郎だね、こいつぁ。
  下がって十両。(円を、両という言い方があった。)
  お前の目の玉に、親指突っ込もうじゃねーか。」
八「眼つぶし〜?御免こうむりましょう。」
旦「下がって、五両だ。
  どうだい、一つ、生爪はがそう。」
八「痛いよ、あーた。
  あーたは、痛い芸が好きだねぇ。
  なんか他にないすか?。」
旦「下がって、一両!。
  手前(てめえ)一つ、ポカ〜〜ンと殴ろう!。」
八「いよっ。
  うけ合いましょう。
  うけ合うよ。
  ポカ、ポカっとくると、二両でしょ。」
旦「そーだ。」
八「ポカ、ポカ、ポカ、っとくると三両。」
旦「そーだ。」
八「こーなると、私も商法ですから、一個でも間違うといけませんから
  あたしは、算盤を持つよ。
  あーたがねー、ポカ、ポカ、ポカ、ポカ、ポカ、ポカ、ポカっとくると、
  あたくしは、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、っと
  ポカ、ポカ、ポカ、ポカ、ポカ、ポカ、ポカ、
  パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、
  ってね、ぶたれ通しで、、死んでいくら。」
旦「死んじゃっちゃ、しょーがない。
  こんな欲張った奴ぁねーな。」

  (一八、芸者の方を向いて)
八「は〜?なんすか?、はあ、はあ、はあ。あー、さいですか。ありがとう存じます。
  (旦那へ)
  へへ〜。大将、仲間ぁありがたいですな。
  はる子姐さんのご忠告。大将は、力自慢だからぶちどこをうかがえって。
  どこをおぶちになります?。
  仮にでも、一両でぶつんだからな。
旦「だうだい、最初、目と鼻の間、行こうじゃねーか。」
八「それじゃ、一個でまいっちゃうよ〜、いけませんよ〜。
  五十銭でようがすがね、肩を。」
旦「按摩じゃねーや。ばーか。」
八「踵が二十五銭!」
旦「そんなのいけねえ。」
八「拳固を見ただけで、ただの五銭。」
旦「ふざけんな、こん畜生。!
  このコップで一杯呑め!。一両やるから。」
八「ほーほー、一杯呑みの一円、へ?息を付かずに一杯呑みの一円いただき?
  あ、はは〜。
  やるねー、あーた。
  へ?、現金取引でしょうな〜?。
  いけませんよ、この前も、こんな大きな祝儀袋、いただいた。
  ありがたいと思って、家ぃ帰って開けてみると、絵葉書が出たよ、
  あーた。ありゃーいけないよ。
  よろしゅーございます。なにごとも営業でございますから。

  はる子ねーさん、お聞きの通り。
  今日(こんち)はお客ですから。
  (コップに注いでもらいながら)
  そこんとこ、按分(あんもん)なすって、、
  今日は、八分目、、、ってとこで、、、

  あーーーーーーー、とっ、とっ、、、あーーーーー、
  驚いたな、こりゃ、山盛んなっちゃった。

  姐さん、申し上げたでしょ。
  今日は、八分目でって、
  (旦那に)
  大将、苦情いってんじゃないですよ。
  ただ、一杯になったってことを申し上げてるだけの話なんです。
  もう、口からお迎えってやつで、、、。

  (グビグビと呑む仕草)

  フー。
  いただきました。」
旦「偉いなぁ〜。
  やるぞ!。」
八「へい!。ありがとう存じます。
  (手を出す仕草)
  右まさに頂戴仕りました。受け取りは差し上げません。

  へい。こんだ、てるちゃん?
  てる奴さん。お酌。

  姐さん、あーた、もうだめ。
  近所にいますよ。お座敷い出たら、お互いに助けたり、
  助けられたり。よーすか!。

  あ〜〜〜〜〜〜〜〜、
  あーた、押すねー、
  
  (旦那へ)
  いえ、苦情を言ってるじゃないんですよ〜。
  
  (芸者てるちゃんへ)
  てるちゃん憶えといで。
  どうして、そいうことすんの?。
  
  頼んでんのに、こいうことすんの。
  女の子てぇのは意地の悪いことすんだから。
  どういうわけのもんなんだか。
  人の困んのを喜んで。
  よこざんすよ。そーいうことをするんならするで。

  (んぐ、んぐ、、、、呑む。)

  ふーーーー。
  
  へ、へ、へ、、、。いただきました。」

 

つづく

 

 

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