断腸亭料理日記2019

断腸亭落語案内 その10 円生・松葉屋瀬川

引き続き「松葉屋瀬川」。

人が変わったように、松葉屋の瀬川に入れ込んで八百両使い
勘当をされた善次郎。勘当をされ、以前店に使っていた
忠蔵の家の二階に居候。
忠蔵夫婦は麻布谷町に住み、屑やをしている。

善次郎の布団などないので、夫婦二人の布団を善次郎に使わせ、
自分たちは、風呂敷を敷いて着ているものを掛けて寝る。

忠蔵は大家さんに届け出る。
「ちきり伊勢屋」にも出てきたが、誰が住んでいるのかは
そこを差配する大家さんに届けるのが決まりであった。

大家さんは「お堅いことでけっこう、けっこう。忠さんね、
できることはしておあげよ。それがまた自分に報ってくるというもの。
ご主人であればなおさらのこと、大事にしておやりよ」と、お膳やら、
茶碗もないので貸し、その他なにくれとなく援助をしてあげる。

忠蔵の家にやっかいになり、一か月がたった。
善次郎も、忠蔵夫婦に「なにかと物入りで申し訳ない、
手紙を書くから持って行ってもらいたい」と、忠蔵にいう。

持っていく先は、吉原[松葉屋]の瀬川。

忠蔵はとめる。
「あなたはまだ、狐が落ちませんね。」

「女郎の誠と、雪駄の裏は、金のあるうち、チャラチャラと」。
金の切れ目が縁の切れ目、ですよ、と。

いや、そんなことはない、騙されたと思って行ってみてくれ、
と善次郎。

じゃ、まあ、駄目だと思って行ってみましょう。
大家さんに羽織を借りて、吉原へ行く。

幇間の吾朝の家。
きてみると、吾朝夫婦も善次郎のことを大いに心配をしていた。
世間では勘当になって、おもらいをしているとか、身を投げた
とか。
善次郎は、忠蔵の家で元気にしていることを話し、瀬川宛の
手紙を託す。

吾朝は使いやに手紙を頼む。

瀬川は若旦那が、身を投げたという話しを聞いて、手は降ろ
さなくとも私が殺したようなもの、今は勤めの身で馬鹿なことは
できないが、年が明けたら、お墓の前で自害をするといって、
寝込んでしまった、と。

使いやが手紙を持ってくると、瀬川は寝ている。
そんなものは見たくない、あの世の夫に叱られます、と瀬川。
いや、その、あの世の夫からの手紙でございます、と。

驚き、読むと、瀬川花魁は
「あれ、若旦那は生きていなます。うれしいよ。」
といって、泣き崩れる。

返事を書こうとするが、寝込んでいたので、手が震えて書けない。
とりあえず、急なことで用意がないので、お使いにきた方へ、帰りに
お蕎麦でも食べてくださいと、五両を言付かってくる。

中一日置いて、吾朝が麻布の忠蔵の家にきて、手紙と金を二包みを
置いていく。二十両を若旦那にお小遣い、別に五両を、そこの家の
お内儀(かみ)さんにと、行き届いたもの。

忠蔵は若旦那に、
忠「実にどうも情のある花魁ですねぇ。勤めの中であなたにこれだけの
  ことをしてくれる。あなたは勘当されても悔しくありませんね、
  これなら。

  手紙を見て、なにかにこにこされていましたが、なんかいいことが
  書いてあったんですか?。」

善「是非、会いたいって。今度雨が降ったら出ていく、と書いてある。」
 「それは、、、もしかすると、廓抜けをするっていうんじゃないですか。
  それはね、とめておやんなさい。」

昔から、そんなことをいうけれど、たいていは、実際にやる前に
気づかれてしまう。仮に、出られたとしても、女の足で、歩けない。
駕籠に乗ることになる。駕籠屋というのはどこそこへこういう者を
乗せたとちゃんと付けて、会所(かいしょ)に届けてある。翌朝、
花魁がいないのに気が付いて、会所に問い合わせる。するとすぐに
わかって、花魁を取り返しにくる。花魁を返せばこっちはなんでも
ないが、花魁は、年季を伸ばされてしまう。
やめるようにいっておやんなさい。

善「大丈夫だよ、あの花魁は迎えにきたって帰りゃあしないよ。
  死んでも帰らないよ」
忠「死んじまったらしょうがないでしょ」
善「なにも花魁一人は死なせやしないよ
  これでも、一度永代で亡くしかけた命。だけど、お前のお蔭で瀬川
  にも会えるし寿命も延びた。
  心中をするから、ちょいと二階を借りるよ」
忠「冗談いっちゃあいけない、心中するのに、ちょいと二階を貸せますか。」

若い者だからあんまりやかましくいっても、いけない。廓を抜けるなんて
そうそうやらないだろうと、たかをくくっていたが、さあ、それからは
善次郎、お天気のことばかり気にしている。

善「どうだろう、雨が降らないかね。」
忠「さあ、とうぶん降りそうにありませんな。」
善「降ってくれないと困るんだがな。」
忠「冗談いっちゃいけない、屑やに雨は禁物でございますよ。」

十二、三日、晴れの日が続いたが、今日はシトシトと朝から雨。

善次郎「今日は、花魁がくるよ。」とウキウキ。「いつ頃くるだろう」
「いつ頃ったって、昼間はこないでしょう。夜でしょう。」「まだ夜に
ならないかな」「なりませんよ」。
今日は忠蔵の内儀さんのおかつさんは、地主のお内儀さんが産気付いて
手伝いに行っているという。

やっと夜になるが、吉原の引け(消灯)は九つ(12時)、すぐきても八つ
(午前2時)にはなるでしょうと、忠蔵。遅くなりますから、一度
寝ていたらいかがでしょう、と。
忠蔵は灯りを付けて「赤穂義士銘々伝」を書き写す内職を始めたのだが
善次郎はちっとも寝やしない。これはだめだと、燈心を少なくして自分も
横になる。善次郎が寝たらまた、起きて内職をしようと、考えていたが、
いつか二人とも寝入ってしまった。

もうなん時(どき)時分(じぶん)かわかりませんが、表にピシャ、
ピシャと音が聞こえる。ピタッと駕籠が降りた様子で。

駕籠屋が「こんばんは、こんばんは。紙屑やの忠蔵さんはこちらで
ございますか?」

忠蔵が起きて戸を開けるともう駕籠はもう向こうへピシャ、ピシャ、
ピシャと、、、

黒縮緬(くろちりめん)の頭巾を目深にかぶりまして、紺桔梗の雨合羽、
大小を差して爪皮(つまかわ)の掛かった足駄を履き、渋蛇の目の傘を
差してぬっと立っている。

忠「わ、わ、わたくしどもは、屑やでございますので、金っ気なんかは
まるっきりございませんので、、、、」

なんにも言わずにスーッと中へ入って、、、

 

つづく

 

 

 

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