断腸亭料理日記2019

断腸亭落語案内 その24 志ん生・三軒長屋

引き続き、志ん生師「三軒長屋」。

鳶頭(かしら)のところの若い者(もん)から、妾の女中やら、
伊勢勘の親父もからかわれている。

妾「だって旦那、我慢できやしませんよ。
  隣は剣術の先生でしょ。もうこの頃は、夜稽古まで始まって
  「おめーん。お小手ー。ヤー。」こっちにドシーンとぶつかって、
  こっちじゃ、酔っ払って「さー殺せ!さー殺せ!」ドシーン。
  喧嘩と剣術の間にはさまって、こっちゃぁ、のぼせちゃいますよ。」
伊「我慢してろよー、すこーしはよー。仕方がねえじゃねぇかよー。」

鳶頭の二階

A「おーう。こっちもっと酒ぇ〜」
B「野郎同士じゃどうも具合がわるいじゃねえかなー
  女の子を、一つ、引き寄せようじゃねえか。チャカチャン、、
  なんてなことになろうじゃねえか。」
C「おぅ、おぅ、おぅ!。ここぁ、料理やじゃねえよ。鳶頭の二階だよ。
  姐(あね)さんに無理に頼んだんじゃねえか。だめだよ。
  よしねーぇ。」
B「よしねー、って、なぁーんだよ。やに、お前ぇ、俺に逆らいやがんなぁ
  なにいってやがんでぇー。」
C「なんだい!」
B「なんだいとは、なんだー!」
C「手前なんぞ、俺にそんなこといえた義理じぇねーぞ!
  今、大きなツラァしてやががるけど、三年前(めえ)のこと忘れたか!」
B「三年前、どうしたい?」
C「三年前どうしたー?、忘れやがったか、こん畜生め。
  やい!。俺のいうことよく聞け!。

(ここから獅子舞の件(くだり)になる。まさに枝葉の枝葉。
 志ん生師のリズミカルな語り口が、珍しい。珍しいが聞き所である。)

  三年前の暮れの二十八日だ。
  ぴゅー〜〜〜〜〜っと、北風とともに俺んとこへ、入(へえ)って
  きたのが、手前(てめえ)だ。

  尻切り半纏(ばんてん)一枚ぇで、兄い、あがきがつかねえんだ
  助けてくれって、人を兄いごかしぃしやがった。
  こっちゃぁ、しゃーねえから、まあ、二階にいねぇ。春ンなったら
  儲け口探してやるから。
  
  一夜明けた。
  獅子舞出るんだから、手前太鼓叩けるか、ったら、夜回りの太鼓っきゃ
  叩けねえ、ってやがる。なにを言ってやがんだ、春早々夜回りの太鼓
  なんぞ叩かれてたまるか。そいじゃぁ、ヨスケ(鐘のこと。芸人の符丁)
  持てるかっ、たら、手が冷(つべ)たくっていやだ、って。じゃ、
  どうすんだ、っら獅子が被りてえって。なにを言ってやがんだ、獅子を
  被るのは真打の役だって。でー、俺に被らせてくれってから、被らせて
  やったら、この野郎、なーんだ、そうじゃねえんだ、寒(さぶ)い
  もんだから獅子が被りてえんだ。
  で、俺がヨスケ持って、チャンチキ、チャンチキ、チャンチキよ。
  
  山の手行って、田中の旦那んとこ行って、
  どーも、おめでとうございます、ったら、
  旦那が、あー鳶頭かい、やっとくれ!
  あい、よう、頼むぜ。

  チャーン、チャーン、チャンチキチ。
  チャンチャンチキチ、チャンチキチ。

  この野郎、グルグルグルっとまわって、
  これ、ご祝儀だよって、二分下すった。
  だから俺、威勢付けるために、おぅ、旦那がご祝儀二分下すったよ、
  ったら、この野郎、二分ってこと聞きやがって、面食らいやがって、
  二分かー、ってグルグルって回りやがって、
  玄関に坊ちゃんが機嫌よく遊(あす)んでる坊ちゃんの額んとこに
  獅子の鼻っツラをコツーんとぶつけやがった。
  坊ちゃんがワーっと泣いちゃった。

  ショーガネーから俺ぁ、坊ちゃん、勘弁してください。獅子が
  道化たんでございますから、って頭ぁなぜているとってぇと、あろう
  ことか、あるめいことか、この野郎、獅子の口から大きな拳骨(げんこ)
  出しゃぁがって、このガキぁ喧(やかま)しいって坊ちゃん
  殴りゃがった。
  俺ぁ、見ちゃいられねえから、この野郎踏み倒して、二つ三つ
  ひっぱたいて旦那に詫びをして、

  どうも山の手は付き合いがわるいから、一つ、下町ぃ行こうじゃねえか
  ってえと、ずーーっと九段坂、チャンチキ、チャンチキ、チャンチキ
  チャンチキ、くるってぇと、
  子供がワーっとくっついてくる。獅子の鼻から煙(けぶ)が出る、煙が
  出るって、俺がヒョイッと見ると、獅子の鼻から煙がでてやがんの。
  どうしたんだろうってヒョイッとまくるってえと、中で焼き芋食って
  やがんの、こん畜生は。下がってやがんでぇ。

  そいでシバサキの親方んとこ行って、親方!おめでとうございますって、
  こういったら、おう!、やっとくれよ!、へい!よろしゅうございます
  って。おう、兄弟(きょうでえ)頼むよ!。おう!。

  チャン、スチャチャン、チャンチキ、チャンチキ、、、
  
  この野郎、獅子を被りやがってよろけながら、ぐるぐる回ってやがる。
  祝儀だよ、って一両くれた。
  さっき、二分で面喰いやがったから、一両ってこというのよそうと
  思うけど、こっちがいくらかギッテルと思われんのも具合がわるいから
  おう!、ご祝儀一両だぜ!、っていうと、
  そーかい!、っていーやがって、どっかいなくなっちまった。
  獅子はどうしたい、ってえと、獅子は穴倉、落っこった、っていいやがる。
  野郎はとにかく、獅子は借りもんだ、さーたいへんだ、って引きずり
  上げたら、獅子の鼻ずら欠いちまぃやがって、その割前(わりめぇ)も
  まだよこしゃがらねえー。

  三軒長屋の上(じょ)でございます。

ここで切って、休み。時間的にもほぼ半分。
(志ん生師は全体で45分、ここまでで22分。)

穴倉というのは、昔、大きな商家などにあった、地下室。

この獅子舞のところ、文字に起こしてしまうと、志ん生師のリズムと
メロディーは伝わらない、か。
笑いもあって、志ん生師、愉しそうに演じているのが伝わってくる。

書いている通り、ここは全体のストーリーとはほぼ関係ない。
最も関係がないパートといってもよいだろう。

明治の速記にもちゃんとこの部分はあって、ほぼ変わっていない。

まあ、とにかく喧嘩の仲直りから、また喧嘩になる。

下へ降りてきて、出刃包丁を持って二階に上がろうとするところに
お湯に行っていた、姐さんが止める。
振り切って、二階に上がって、突く、よける、壁に出刃包丁が
刺さる。

隣の伊勢勘の親父、妾の壁に、ぶすー。
伊「あー、驚いたよー、こりゃぁ」
妾「どうですー」
伊「いけないね、こりゃぁ」

一方、反対隣、剣術の先生の家、兼道場。

ヤアー、トウ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ。
ドズン、バタン、ドシン。壁にあたる。

伊「あ〜〜、たまらねぇ。
  御神酒徳利が落こってきた。しょーがねーなぁ、こりゃ」
妾「だから旦那、言わないこっちゃないじゃないじゃありませんか。
  ここを越してくださいよ。」
伊「待ちなよ。な。越すてーことは、かまわないけど、そいじゃぁ
  こっちが負になっちゃうじゃないか。
  まあ待ちな。
  この三軒の長屋は、これは俺が脇から家質(かじち)に取って
  あってな、もうじき抵当流れになんだ。そうすりゃ、三軒を一軒に
  して住めるんだ。」

 

つづく

 

 

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