断腸亭料理日記2019

断腸亭落語案内 その28 桂文楽・鰻の幇間

引き続き、八代目文楽師「鰻の幇間(たいこ)」。
(志ん生、円生は当代がいないのだが、文楽は九代目がいる。)

冒頭の幇間の一八が、町で浴衣がけの客を捕まえたところから
書き始めた。

この噺ではないが、幇間(たいこもち)の噺は、師匠志らく師からの
課題として、長屋ものはまあ、できるようになったから、次は
幇間の噺を、といわれて、取り掛かったはいいのだが、覚えられず
結局、ここで挫折をしていた。

パアパア言っているので、簡単そうに私自身も聞いていたのだが、
これが左に非ず。
むろんプロは幇間の噺くらいできなければ、話しにならないが、
実は、そうそう簡単ではないのである。

パアパアテキトウなことをいっているのは、アドリブではない。
私なんぞも、当初はアドリブかと思っていた。

それで、アドリブでやってみようかと思ったが、すぐに不可能である
ことが分かった。

余談だが、スポーツ中継のアナウンサーも「栄光への架け橋だ!」など
名言がたまにあるが、あれ、アドリブではない。用意しているのである。
あの、古館氏のフロレス中継も然りである。事前に考えてある。

幇間はすべて、きちんと覚えて喋っている。
あの幇間の早口で独特のリズム。アドリブなどでできるものではない。
(特異的にできる人はいるかもしれぬが。)
短い時間に、驚くほどの言葉が入っている。

ともあれ。
鰻やへ連れてってもらえることになる。

だが、依然として、どこの人だかわからない。
それとなく聞き出そうとするが、避けられている。

鰻や到着。

私は鰻を見ていくから、と一八は先に二階に上がらされる。

以前は、鰻やの店先には簡単な生け簀があって、そこに鰻がいた。
これを見て、これを焼いとくれ、といって選んでいた。

一八が二階に上がると、手習いをしていた子供が机を持って
出て行った。

客席で子供が手習いをする家に繁盛する家はないね。
まあいいや、せっかくきたんんだから、ゴチになろう。
(ゴチになるは、古い言葉であった。)

客も上がってくる。
酒がきて、二人で呑み始める。
いい酒だの、新香がうまい、だの、一八は、パアパアと、褒める。

まだ、客の自宅を聞き出そうとするが、やっぱり避けられる。

鰻も焼けてくる。

うなぎも、口に入れると、トロっとくる、と褒める。

客が、小用に立つ。
一八は、お供、と付いていこうとするが、客は断る。
客と旦那ではなく、友達として、付き合おう。
そこでゆっくりやっといて、などという。

一八は、感心する。
ああ枯れるまでには、そうとう遊んでいるな。
江戸っ子だ。粋なもんだ。
あの客、大事にしよう、と。

、、、ん!。

少し便所が長いね。

お迎え、お迎え。
しくじっちゃいけない。

姐さん、憚(はばか)り、ここ?一つっきり?。

が、いない。

姐「ここには誰もいません」
え?、帰った?!。

よし!。よろしい。
勘定払って、スーッと帰っちゃう。
流石のもの。また関心。

姐さん、帳場に、なにか預かってないか?
祝儀、で、ある。
「こんな、紙に包んだ、、」。

あ、そうだ。お飯(まんま)をいただいて。
いただくものはいただいて、っと。

あ、ご苦労さん。
そこ置いてって、よこざんすよ。

え?、いや、これは君、ツケだよ。勘定書き。

紙にね、こうなって、こう包んである、、、

姐「そういうものは、まるっきりありません。」

よろしい。なけりゃいいんだよ。食べるだけで、ね。
勘定は済んでるんだろ?

姐「まだいただきませんので、ございます」

え?。あ、晦日(みそか)に取りにくんだ。お前んとこで。
お馴染みの人なんだろ?。

姐「初めていらした方でございます。」

えへへ、嘘だよぉ〜。君にゃぁわかりゃしないよ。
君は、二、三日前にここの家に奉公にきたんでしょ?。

え?七年もいます。!。そらー、長くいたね〜。

なぜ君、勘定のこと、そ、いわなかったの?。

姐「ご勘定と申し上げましたら、俺ぁこんな浴衣を着たお供だから
  二階に羽織を着ているあれが旦那だから、あれから貰っとくれ
  と仰いました。」

え〜〜?!

さーたいへんなことになっちゃった!。
冗談じゃない。君ね、そりゃあたしゃぁ、羽織は着てますよ、
羽織は着てますけどねー、商売上ばんやむを得ず着てるんじゃないか。

口のききようで、わかりそうなもんじゃないか。どっちが客だか
取り巻きだか。じれってえなぁ。

七年も鰻やの二階にいて、君、そんなことわからないのか。

じゃ、逃げられたんじゃないか。

じゃ、これ遠慮することねえんじゃねぇか。
手銭(てせん)でやるんじゃねーか。

笑いごっちゃないよ、君!。
気を付けないといけませんよ。これからもあるこったぜ!。
そーいえば、へんな奴だと思ったよ。目付きのよくねえ奴でね。
俺のこと、師匠、師匠っていぃやがんの。
お宅はどちらですか?、ってえと先のとこだ、先のとこだ、って
先のとこで立て切ってやがんの。

払うよ!。払やいいんでしょー!。払わなきゃしょーがねーだろ?!。

 

つづく

 

 

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