断腸亭料理日記2020

御徒町のこと その1

さて、御徒町のこと。

前稿で書き掛けたが、とても書き切らない。
続けて書いてみたい。
夏休みでもあり、ちょいとゆっくりと。

 

 

 

もう一度、江戸の切絵図と

現代の地図。

まあ、一応のところ切絵図は幕末のものなので、
幕末から、明治と追えるところを追ってみたい、
と考えた。

「御徒(おかち)」あるいは「御徒士」とも書くが、は幕府の下級の
家来であることは皆さんご存知であったろう。

貧乏で、生活もたいへんで、様々な内職をしていた。
その代表的なものが、植物の栽培で、朝顔なども作っていた。
江戸期は平和な日々が長く続き、植木などはマニアと言える
ような人々も多く出てきて、品種改良なども盛んで、多種多様な
園芸品種が生まれている。これも知られていることで
あろう。
御徒町の御徒士の人々が作っていた朝顔が、今の入谷の
朝顔市のもとになっている、ともいわれている。
こんなことも皆さん聞いたことがあろう。

御徒士は、私にも多少の馴染みがある。

以前に、蜀山人太田南畝先生に興味を惹かれ、
ちょっと調べて書いたことがあった。

ただ蜀山人(しょくさんじん)、あるいは太田蜀山人という
名前が知られているかもしれない。

落語にもたまに出てくる。
江戸時代の狂歌師。狂歌を詠む人。

「蜀山人」という名前の噺で、談志家元などは比較的よく演ったが、
一般には、枕でその狂歌を使うのが多いかもしれぬ。

まだ青い 素人浄瑠璃 黒がって
赤い顔して 黄な声を出す

こんな感じのもの。
これは「寝床」の枕で振られる狂歌である。

青、白(素人)、黒、赤、黄と、五色を詠み込んだ
趣向のものである。

「寝床」は商家の旦那が義太夫(浄瑠璃)を習う。
ドラえもんのジャイアンの元ネタといってよい。
へたくそなのだが、無理やり周りに聞かせ、皆が
迷惑をするという噺。

そんなことで、素人浄瑠璃を皮肉った狂歌である。

恐れ入り谷の鬼子母神 びっくり下谷の広徳寺、、
で有名な、なんであろうこれ、地口連歌のような
フレーズ?。

お仕舞まで書くと「恐れ入谷の鬼子母神、
びっくり下谷の広徳寺、嘘を築地の御門跡(ごもんぜき)、
志(し)やれの内のお祖師(そっし)様、
いやじゃ有馬の水天宮」となる。
こんなものも蜀山人作と言われる。

これらが太田南畝先生作であったかどうかは、
わからない。だがまあ、おそらく違っている。

南畝先生は日記や、書いたものが多数残っており、
史学、文学史上の研究が多くされており、こんな
ものは作っていないことはほぼ確実である。

ともあれ、蜀山人太田南畝先生は、御徒士で
あったのである。

狂歌師として名前が残っているが本職は幕府の下級家来
それも、御徒町の御徒士であった。(ただ住まいは下谷の
御徒町ではなく、 牛込の御徒町であった。江戸の御徒町は
一つではなかったのである。)
狂歌師というのは、いわば趣味。
詳しくは、上記ページを読んでいただきたい。
時代としては、田沼時代から、寛政の改革の松平定信の時代、
さらに、先生は文政まで75歳まで長生きをしている。

南畝先生を調べると、御徒士の生活がよくわかってくる。

幕府の下級の家来といっても実に様々ある。
いわゆる、旗本ではなく、御家人。

御家人は貧乏で旗本は裕福であった、かとも思われようが
そんなことは必ずしもない。
旗本は、鬼平の長谷川平蔵のように石高も高く立派な
役職についてバリバリ働く、殿様ばかりかと思うと、
そんなことはなく、貧乏旗本というのも多くいた。
勝海舟、その父、小吉、なんというのを思い出せば、
わかりやすかろう。勝家は、貧乏だが御家人ではなく歴とした
旗本である。
旗本でも石高が少ない家もあり、勝家は貧乏。
旗本と御家人は目見え以上と以下、という定義もあるかもしれぬ。
つまり将軍に顔を合わせられるか合わせられないか。
だが、最も大きな違いは、これではなく、御家人は
一代限りの家来というのが建前であったということになる
かもしれぬ。

旗本は給料が低い=格が低くとも、代々同じ家を
世襲することが保証されている。
御家人は、大方は、父と同じ仕事を代替わりして続けられる
のであるが、都度、その人毎に、働きを見て、雇うかどうか
決めるというプロセスを踏むことになっていた。
仕事ができないとクビもあった、ということになろう。

太田南畝先生も息子は、病気によって廃嫡せざるを得なかった。
役目を果たせないとなると、実子でも代替わりは
できなかった。旗本であれば多少の病弱で役目(仕事が)なし
でも家は潰されない。(勝小吉は役目につけなかった。)
それで、南畝先生は六十をすぎても役目を続けなければ
ならなかったのである。

まあ、御家人というのはそんな身分であった。

で、御徒士であった。
基本、仕事は、将軍の警護。

普段は、江戸城の番所、大手門に今も残るが大番所、
百人番所などというという大きな警護者の詰め所があるが、
こういうところに交代で詰める。

ただ、それも半日程度。
毎日でもない。

ごくたまに、日光への将軍の御成り、なんというのが
あれば、行列につく。これは幕府一大行事で盛大でもあり
御徒士にとっても晴れ舞台。また、歩いて行くわけでもあり、
それなりにたいへんなことであった。南畝先生は一度経験している。

 

つづく

 

 

 

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