断腸亭料理日記2020

駒形どぜう

1月20日(月)第一食

月曜日、第一食、私の場合今は昼、であるが、
[駒形どぜう]。
ここももちろん、池波レシピ。

昼からというのも、たまにはよいであろう。

どぜうというと、本当は季節は夏である。

軍鶏鍋にしても、どぜう鍋にしても、江戸・東京では、
以前は夏に元気をつける食べ物であった。

私も夏食べることが多いが、今日はちょいと思い立った。

元浅草の拙亭からは真東に新堀通りを渡り、寿、さらに
国際通りを渡り、浅草消防署の脇を抜けて、蔵前通り(江戸通り)
の角。黒板塀。右側はバンダイ本社ビル。

歩道のガードレール脇に自転車を停める。

ウイークデーの昼、さすがに混んではいなかろう。

冬なので紺地に白抜きで「どぜう」と染め抜かれた
暖簾を分けて戸を開ける。

入るとお姐さんが迎える。
なん名様ですか?。

指を一本出して、一人、と。

靴を脱いで上がる。
下足札を受け取り、奥へ。

下足札が十八号。なんとなくよい数字に思える。

長い板が、奥の壁から横にずらっと並んでいる。
床には、冬でも葦簀が敷かれている。
指定されたのは、奥から二列目の板。

板をはさんだ壁側に座布団が用意され、薬味の箱も置かれる。

奥のお姐さんがこちらへ、と。

胡坐をかいて、座る。
私、正座は得意だが胡坐は苦手で長時間は続かない。
しかし、とりあえずは、胡坐。

ここは江戸の寛政13年・享和元年(1801年)創業。
前の蔵前通りは奥州街道の本道で、五代目ご主人のエッセイ

によれば、朝は近郊から野菜を運んでくる大八車が数多く通り、
運んできた彼らは昼、帰り道にこの店に寄り、
どぜう鍋とどぜう汁、ご飯で、昼を食べたという。
今はそこそこの値段だが、当時は文字通り、安くてうまい
働く者の飯やであったといってよろしかろう。

そして、昼にどぜうは、あり、なのである。

が、私は、お姐さんに、お酒ぬる燗、丸鍋、と頼む。

丸鍋は、丸のままのどぜう鍋のこと。

お燗だが、最近はめんどくさいので、もうぬる燗、
と言うことにした。

お酒お燗。熱燗ですか?。いや。ぬる燗ですか?。
いや、どちらでもない、その中間。と、いう会話はもう
いい加減うんざりしている。
むろん、本当はただお燗といえば、適温の上燗(菊正によれば
50℃前後)を黙って、出してほしいのである。
ともかくも、お燗といえば熱燗というのだけは
やめてほしい、のである。

焜炉(こんろ)がきて、酒もきた。

このお猪口がよいではないか。
真っ白なところに将棋の駒、その中に、どぜう。
まったく、粋である。

まず、一杯。ここの酒は「ふりそで」というオリジナル。

丸鍋もすぐにきた。

やっぱり、十八号はよい。

例によって、こんもりとねぎをのせる。

どぜうは、火が通っており食べられる。待ちきれず、
すぐに一匹取って、食べる。が、真冬である、いくらなんでも、
まだ冷たい。

ねぎが煮えてくるまで、待つ。

まあ、すぐに煮える。
煮えたら、ねぎを食べる。

食べたらまた、ねぎを足す。
煮えたら食べ、また、足す。

どぜうは、下味は薄い味付けなのでわかりずらいが、
甘味噌(おそらく江戸甘味噌)で下煮がしてあって
ほんのり甘味噌味。しかし、鍋の割り下は、ちょっと薄めの
しょうゆの勝った甘辛。

味付けとしては、実は二重構造になっているのである。

ねぎは、この薄甘辛の方で煮る恰好になる。

この甘辛で軽く煮たねぎが、うまい。

とまらない。

段々、どぜうを食べているのか、ねぎを食べているのか
わからなくなってくる。

私などには、これがこの丸鍋の愉しみ、なのである。

身体に、ねぎが染みわたっていく。

ちょいと大袈裟のように聞こえるかもしれぬが、
そんなことはない。

着ているものには、ねぎの匂いが染みつき、
内儀(かみ)さんなどには、帰るといやな顔をされる。

身も心も、ねぎ!。

いけない、いけない。
永遠に食べ続けてしまう。

夜であれば、丸鍋はお替りをするのだが、今日は一枚だけ。

お姐さんを呼んで、勘定。
下足札が、代済(だいすみ)に変わり、立つ。

ご馳走様でした。うまかった。大満足。

 

 

駒形どぜう

 

台東区駒形1-7-12
TEL.03-3842-4001

 

 

 

 

 

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