断腸亭料理日記2005

甘鯛一夜干し・とうがらし

9月1日(木)

文春文庫に、鬼平舌つづみ、というのがある。
鬼平、池波先生ファン、としては、惹かれて買ってしまうのであるが、
これは、反則、と、いうものである。

時代考証などしてあるが、鬼平とは、ほとんど、関係ない。
今の板前が、鬼の平蔵に食わせたいもの、ということで
作ったもの、である。

池波正太郎ファン、追っ掛け、としては、
銀座の、いまむら、の方が、より正しい、、ように思う。

(何が正しいのか、よくわからぬが、、。
どうも筆者、このへんが、付き合いを狭くしている、
原因であることは、自覚はしているのであるが、、。)

ともあれ、この本に載っていたもの、
くやしいが、うまそうなので、捜していた。
(従って、これは、池波レシピではない。)

興津鯛(おきつだい)、と、いうらしい。
甘鯛の一夜干しである。夏のものであるようだ。

大体において、甘鯛など、庶民には縁のない魚である。
筆者が食べられるようになったのは、三十を過ぎてからであろう。
高級魚である。

甘鯛といえば、高級なかまぼこ、かぶら蒸し、あたりであろうか。
いずれにしても、ほとんど縁はないし、また、馴染みもない。

捜していればあるものである。
御徒町の吉池である。

馴染みもないため、目利き、などはむろんのことできない。
甘鯛にはシロアマダイ、アカアマダイ、キアマダイ、
(まるで、早口言葉である。)
と、あり、白が最も希少で、最高級らしい。
※普通、興津鯛というと、最も安い、キアマダイの一夜干、とのこと。

(この件、読者の方より、メッセージをいただきました。
「興津鯛=キアマダイの一夜干し」誤りでした。
文末に、詳細、コメントいたしております。)

吉池の店の外に、冷蔵ケースを出しているスペースがあるが、
ここを覗いていると、甘鯛らしき、干物があった。
一枚¥350。

見ていると、小父さんが寄ってきて、説明してくれる。
長崎産、で、あるという。
鱗(うろこ)の引いたものと、鱗付きのものがあり、
どちらがいいのかと聞くと、鱗がうまい、と、いう人も、いる。
酒を塗って、焼くと、上手く食える、とのことである。
買ってしまった。
(これが、ナニアマダイであるかは不明。)

吉池から、大江戸線、上野御徒町駅に戻る途中、
日比谷線への通路になぜか、野菜が売っていた。
これ、最近であろう。
(以前は、ミルクスタンド?パンを売っていた?)

見ていると、ちょっと、おもしろい。
きゅうり、なすなどに混じって、瓜、青いとうがらし、がある。
千葉の大多喜町の産直品、のようである。
瓜と、唐辛子を、と、思うと、さらに、鉄砲漬けに目が止まった。
鉄砲漬けとは、成田が著名である。
瓜に唐辛子を入れて、しょうゆや味噌で漬けたもので、
唐辛子が入っており、辛いところから、鉄砲、と、いう。
(形が、鉄砲のようにくり抜いてある、から、ともいう。)

瓜はやめて、鉄砲漬けにする。

帰宅。

唐辛子は、どうしてくれよう。
辛ければ、メヒコにしよう。
(メヒコとは、メキシコのこと。
あれ以来、拙亭ではメキシコ料理、
の、ようなもの、に、はまっている。)
ちょっと、先の方をかじってみると、辛くもない。

では、揚げびたしにしよう。

鰹削り節で出汁を取り、酒、しょうゆで味を付ける。
唐辛子は、軽く油で炒め、入れ、煮込む。

甘鯛は、指示通り、鱗に酒を塗って、焼く。
鱗側は、念入りに焼いた方が、よかろう。
(身が柔らかい。引っくり返す際に、崩れてしまった。)

鉄砲漬けは、しょうゆでも、味噌でもなく、塩味の浅漬けであった。
切ってみる。中には、唐辛子と、シソの葉が入れられている。

甘鯛。

なるほど、これは、うまい。
ねっとりとした、甘味、で、ある。

さて、唐辛子。
これは、早まった。ガブッと食べると、辛い辛い。
メヒコの物よりもひょっとすると、辛いかも知れぬ。
トマトのサルサにすればよかった、、。
揚げびたし、どころのものではない。

鉄砲漬けは、浅漬けであり、筆者の好みとしては、
味わいに足らぬように思う。また、中の唐辛子は、生。
これも、辛い辛い、、、。

上野御徒町駅の野菜産直。これ、いつまでやっているのであろうか。
青い唐辛子は、珍しい。今度はメヒコ用に買ってこよう。


※この記事、読者の方から、次のようなメッセージを
いただきました。
興津鯛のこと、若干、加筆いたします。

メッセージ***************************

静岡産
いつも拝見させていただいております。
今回のアマダイについて一言だけ訂正をお願いしたく、
書き込みさせていただきました。

白甘鯛・・50〜60cmと3種類の中で最も大きく、
最も浅い20〜40mに棲息。やや白みをおびたピンク系で尾ビレの
模様が他の2種類と異なっているのも特徴。
興津鯛ともいわれ、味も一番よいとされ、刺身等に利用される。

と在るように、興津鯛とは諸説あるものの、基本的には白甘鯛、
名付け親は徳川家康公と言うのが通説のようです。長文失礼しました。

********************************

静岡産様
コメントありがとうございます。
この件、たいして調べもせず、書きましたこと、
まず、お詫びいたします。

(なんせ、甘鯛は、本文にも書きました通り、もともと、
縁も浅い魚なもので、失礼いたしました。)

筆者の書いた、
「興津鯛というと、最も安い、キアマダイの一夜干、とのこと。」、
の、ところかと思います。「興津鯛」の定義です。

これを、私が書いたのは、本文に書いた通り、文春文庫の「鬼平舌つづみ」
というものの文脈から、とったものです。
(一部、「坊主コンニャクの市場魚貝類図鑑」
というページを参考にしました。)

趣旨は以下の3点です。

1.一番安い、キアマダイでも、一夜干しにすれば、
うまく食べられるものである。

2.一夜干しにした甘鯛(=興津鯛)を徳川家康が好んだ、ということ。
(興津で獲れたから、というのは、異説もある、と書いている。)

3.現代では、シロアマダイはほとんど獲れず、まさに、幻になりつつある。
また、シロであれば、干さなくとも、刺身で充分、うまい。
価格は、シロ→アカ→キ、の順である。

ここから、

「興津鯛というと、最も安い、キアマダイの一夜干、とのこと。」
と、いう一文になったわけです。
(また、「鬼平舌つづみ」の文脈でもそのように書かれています。)

1.は、まあ、異論はないところかと思います。
問題は2.の「一夜干しにした甘鯛=興津鯛」です。

「興津鯛」を、辞書で調べてみると、

 ・アマダイの異名。また、その干物。大辞林 第二版

 ・興津地方の沿岸でとれるアマダイ。大辞泉

これも、結局、諸説ある、ということかと思います。

そこで、どうも、上の徳川家康、のところが、ポイントになって
しまうようです。

家康が好んだものが、興津鯛、というものであった、ということ。
これは、まず、定義として、正解なのかと思います。

そして、それが、

A.一夜干しであったかどうか。

B.興津産であったかどうか。

C.そして、シロアマダイ、であったのかどうか。

この3点。いろいろな状況証拠を勘案すると、
推測の域を出ませんが、多分、間違いはなかろうかと思います。

先程の、「坊主コンニャク」によると、昔は、シロアマダイも
よく獲れたようですし、時代的には、流通の発達しないこの頃、
家康が食べたとなると、刺身よりは、干物である可能性は高いこと。
地名が冠されていることから、後々はともかく、家康の時代には
ここの名物ではなかったか?獲れたのでなくとも、加工をした?
また、むろんのこと、一番うまいものを、食べたであろうから、
シロアマダイ、であったであろう、こと。

本来は、「興津鯛とは、家康が好み、相模湾で獲れ、
興津で干した、一夜干しのシロアマダイ」という定義でいかがでしょうか。

そこで、筆者の読んだ「鬼平舌つづみ」の文章に問題は、なります。

冒頭にも書きましたが、
「興津鯛=シロアマダイの一夜干し」→「シロアマダイは高い」→
「キアマダイは安く、一夜干しならば、うまく食える」→
と、なり、「興津鯛=キアマダイの一夜干し」
と、いう、文脈で書かれており、それを読んで筆者も
書いたわけです。
しかし、これには、冷静に読むと、論理の飛躍があります。

本文冒頭にも書いていますが、初手から、この「鬼平舌つづみ」の文章を
信用したのが、筆者、間違いであった、と、いうことかと思います。
まったく失礼をいたしました。
(若干、「鬼平舌つづみ」の弁護をすると、今は、ある程度広く
シロアマダイでなくとも、興津鯛と、呼んでいる。
代用品であるが、キアマダイでも、一夜干しであれば、興津鯛である、
という、文脈かと思います。
また、さらに、『「興津鯛はキアマダイだけれども美味い」とは、
本山荻舟氏の言です。』という一文があります。
(これ、真偽と真意は不明です。))

さらに調べてみますと、興津鯛、と、いういい方はあまり出てきませんが。
シロアマダイの干物は、伊豆、相模湾、山陰、
九州(玄界灘、東シナ海)産で、やはり、1枚¥4〜500で
そこそこ、高価ですが、きちんと出回っているようです。

こうしてみると、筆者の食べた¥350のものも、少し小さいですが、
色も、白っぽいですし、シロアマダイであったのかも知れません。

長々、書いてきましたが
「興津鯛というと、最も安い、キアマダイの一夜干、とのこと。」
は、明らかに間違いかと思います。
お詫びして、訂正いたします。



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