断腸亭料理日記2006

芋茎と油揚げの煮物

1月7日(土)夕

正月が明けると、また、連休、で、ある。

なにか、ペースがつかめない。
と、いうよりも、正月気分のまま、また、休み、で、ある。

第一食は、例によって、路麺。三ノ輪の長寿庵。

そして、芋茎(ずいき)で、ある。
少し前から芋茎を煮てみよう、と思っていたのであった。

これは、剣客商売「狂乱」に登場する。

秋のある日、秋山小兵衛が浅草・元鳥越の
牛堀久万之助道場を柄樽を持って、訪れる。
老僕の権兵衛が、軽い中食(ちゅうじき)を出す。

引用***

にぎりめしへ味噌をまぶしたのを、さっと焙(あぶ)ったものと、

芋茎と油揚げを煮た一鉢。塩漬けの秋茄子などの簡素な中食であったが、

(中略)

「うまいぞ、権ちゃん」

「あれ、また、権ちゃんといいなさると」

「お前のような人に食べるものの世話をしてもらって、

 ここの旦那はしあわせじゃな」

池波正太郎 剣客商売・狂乱 新潮文庫

*****

最近読んだこれが、ことのほか、うまそうであったのである。
(もちろん、初めてではない。もう何度目の読み返しただか
わからなくなっている。)

芋茎とは、芋がら、のことである。
芋がら、といっても、知識として知っていても、筆者には
ほとんど食べた記憶は、ない。
里芋の茎を干したもの。
最近、といっても、2004年、銀座の「いまむら」であった。
(板前割烹、銀座いまむらは、池波先生縁(ゆかり)の店である。
思うに、同じく、剣客商売に登場する、駒形の元長は
この、いまむら、がモデルではなかろうかと、思っている。)

これを思い出すと、薄味で、かつ、濃厚な出汁で煮含められ、
柔らかく、ゼラチン質で、とても上品なものであった。

先の、作品に登場する、油揚げとの煮たものは、もっと、
ざっかけない、煮物、というイメージである。

さて。このところ、芋茎を捜してみていたのだが、
近所のスーパーなどには、まったく見あたらなかった。
先日、切干大根を煮たが、これは、ほとんどのスーパーにあった。
芋茎は、今、普通の家庭で煮るようなものではないのであろう。

今日は、浅草の松屋を覗き、やっと、発見。
油揚げとともに、購入。

帰宅し、作り始める。

袋裏面の作り方を見ながら、で、ある。

まずは、袋から取り出してみる。
芋に付いていた部分、根本の太いところがあり、
これで、なるほど、里芋の茎、である、ことがわかる。
長さは、40cm以上あるものもある。

水洗い。10分ほど水に浸し、もどす。

そして、沸騰した湯に入れ、下茹で5分。
ここで、茹で汁が、薄茶色に染まり、灰汁が、出てくる。

もう一度水洗いし、切る。

作り方によると、この後、
「味噌汁、油揚げとの煮物、酢味噌あえ、油炒めなどで、
お召し上がりください。」ということである。

さて、どうしようか。
先の、いまむら、は、出汁が実に濃厚であったが、
ちょっとだけ、真似をし、出汁を取ってみよう。

鰹削り節で、出汁を普通に取る。

そこに、3〜4cmに切った芋茎を入れ、
油揚げも入れ、酒、しょうゆ、砂糖。
唐辛子は入れないが、切干大根と同じ様な
濃い目の味を目指してみることにする。

一度煮立て、後はアルミホイルで落し蓋をし、
弱火で煮含める。

ちょっと、味見。食べてみる。

切干大根と、随分差がある。
切干大根は、切干大根そのものの味、が、強いが、
芋茎の場合、ほとんど、らしい、味、というものは、
感じられない。

はてさて、濃い味付けは、違っていたのか、、、。

しかし、もうだめ、で、ある。
濃いものを薄くすることはできない。

とりあえず、煮てしまおう。

盛り付け。

燗をつけて、正月の残り物など、
つまみを並べて、食べてみる。

うーむ、、、。
途中の印象と、特に変わっていない。
胡麻油をからめ、白胡麻なんぞも、振ってみた。

まずくはないが、こんなもの、であろうか。
芋茎、らしい味、というものを、期待していたのであるが、
そんなものは、ほとんどない。
味付けをした、甘辛の味だけ、で、ある。
これで、よいのであろうか、、、。

いまむら、のものは、当然、料亭の料理である。
作り方は、もどしたものを、灰汁抜き(これが手間がかかる
とのことであった。)。そして桂剥きし、板状にする。
そして、その板を重ね、出汁で煮含める。
そもそも、厚い部分もあるが、ほとんどが直径数ミリの細い
芋がらを、どうやって、桂剥きにするのであろうか、
ここから疑問である。
到底、筆者など、トウシロウの及ぶところではない。

そして、もう一点は味付け。
芋がら自体は、ほとんど、味はない、ため、
薄味で、濃厚な出汁、と、いうことなのか。
そしてデリケートな、ゼラチン質の食感を楽しむ、、。
そいういうことなのか、、。
もっというと、ここまでやらないと、芋茎というものの
良さを引き出すことはできない、そういうことなのであろうか。

冒頭の剣客商売で、「権ちゃん」が作ったものは、
今日作った、こんな味ではなかったのだろうか。
まさか、「権ちゃん」は、桂剥きはしまい、、。
なにか、もっと、うまいものを、期待していただけに、
釈然としない思い、で、ある。



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