断腸亭料理日記2006

歌舞伎・籠釣瓶花街酔醒

9月18日(月)敬老の日 夜

今日は、食い物の話は、なし。
歌舞伎のこと。

読者の方は薄々お気付きかもしれないが、
筆者、歌舞伎というものは、正直にいうと、ほとんど、知識はない。

だから、落語なのか、というわけではなく、
落語が好きなため、歌舞伎には近付かないようにしていた、
といった方が正しい。

と、書くと、おかしいかもしれない。

落語には歌舞伎や素人芝居を題材にしたり、
「中村仲蔵」など、歌舞伎役者そのものを扱った噺もあるし、
また、芝居噺、というジャンルもある。
(あるいは、逆に落語の噺が、芝居になっているものも
芝濱、文七元結など、ないこともない。)

また、落語家は修業として、踊りくらいはできなければならない
ともいわれており、今でも、前座の頃には習いにいくものでもある。

踊りはともかく、昔の庶民の、共通の楽しみとして、
歌舞伎があったわけであるし、知識として、
歌舞伎は知ってなくてはならない。
それは、承知してはいる。

しかし、以前にも書いているかも知れぬが、
筆者が落語に引き込まれたきっかけは、立川談志家元であった。

もともと、江戸、東京の芸界でも、歌舞伎と落語は庶民の
娯楽として、竜虎、ではあったであろう。
しかし、落語は、どうがんばっても、歴史、人気、格、などなど、
歌舞伎には勝てない。
片や美男、片や笑われる存在。
同じ芸を見せる者だが、一方は、役者、と呼ばれ、
一方は芸人、と呼ばれる。

談志家元は、落語のすばらしさ、を語る中で、
歌舞伎に対しても、引けを取らぬほどの、落語の芸術性の高さを
主張している。だから、落語家が自ら、歌舞伎役者に対して、
謙(へりくだ)ることはないと、毎度語っていた。
(一般には、昔から、役者に対して落語家は一段も二段も引き、
それこそ、役者に対しては、よいしょ、をするのが落語家の
姿である。)

筆者が歌舞伎に近付かないようにしていたのは、そんな背景もあったが、
それ以上に、やはり、あまり興味を引かれなかった、と、いうのが、
本当のところかもしれない。

まあ、昔はいざ知らず、今一般に、歌舞伎ファンと、落語ファンは、
あまり重ならないのではないかと思われる。
やはり、落語と歌舞伎では、指向するベクトルが違う。

とはいえ、やはり、知識として、知っておいた方がよい。
(ご存知のように、池波先生も歌舞伎は子供の頃から大好きであったし、
ご自身は、戦後、新国劇の脚本家、演出家から
作家になったわけである。)

そこで、ここへきて思い立ち、何冊か、歌舞伎の入門書のようなものも
読み始めたようなわけである。

さて、連休最終日、時間もあったので、一つ、幕見(まくみ)で、
歌舞伎を観よう。

「幕見」とは一幕だけ、最後列でお手軽に、当日いっても並べば
観られるというシステムである。入門者にはありがたい。

歌舞伎座

調べてみると、今月、9月は初代中村吉右衛門を記念した
「秀山祭」というもので、当代の吉右衛門が中心の演目。
当代の吉右衛門は、むろんTVの鬼平犯科帳で長谷川平蔵をやっている
中村吉右衛門で、ある。

ちょっと、興味をおぼえた。

夕方、拙亭から、自転車で東銀座の歌舞伎座まで、出かける。

夜の部、二幕目。
「籠釣瓶花街酔醒」(かごつるべさとのえいざめ)という演目。
(しかし、歌舞伎の演目はなぜ、こうして、漢字のみで、
長々と書くのであろうか。)

17:45、開幕で、20時前まで。四幕七場という長い芝居。
(これで、幕見¥1100、というのは、安い。)

「籠釣瓶花街酔醒」は、話としては、世話物(せわもの)、
というジャンルになるようである。

昔の武士や公家の話を扱った「時代物」に対して、庶民の話、
世間の話、で、「世話物」、という。そして、江戸時代であれば現在の話。
つまり当時の現代劇。これが「世話物」の定義らしい。

舞台は吉原。

ストーリーの詳細を、くどくどと書くのは、やめにする。
(ご興味のある方は、上の歌舞伎座ページ、また、
下記の書籍などをご覧下されたい。)

主役の田舎のお大尽が、吉右衛門。敵娼(あいかた)の花魁が、福助。

序幕が、桜満開の、吉原仲之町。花魁道中などもあり、なかなか華やか。

また、これは明治になってできた演目で、全体としては、客と花魁、
人間心理をリアリスティックに描き、現代人の目でも、
そこそこ、おもしろかった。

吉右衛門先生の歌舞伎舞台での、芝居やせりふ回しは、筆者、観るのは
初めてであった。

こうした世話物という、柔らかい芝居であるせいかもしれないが、
基本的にTVの鬼平で、柔和な顔で、
「おい。うさぎ!おめぇなぁ〜」などといっているのと
大きく変らないように思えたのが、意外でもあった。

いかにも歌舞伎役者の芝居というと、筆者は、NHKの大河ドラマ
「花の乱」で足利義政を演じた、団十郎を思い出す。
団十郎はTVであるが、目をむき、まるで見得(みえ)を切っているような
芝居を多くしていた記憶がある。
(荒事(あらごと)で名代の団十郎家の芸風でもあろう。)

それと比べると、いかにも吉右衛門の芝居は柔らかかった。
あー、こういう芝居も、歌舞伎であるのか、という印象。
(比較の対象が、間違っているような気もする。
素人の感想である。お許しくだされたい。)

ともあれ、なかなか、楽しく観ることができ、
また、大分、勉強にもなった。

一幕見は、三階席の一番奥。
(いわゆる、大向こう、という場所で、
「ハリマヤ!」(播磨屋・吉右衛門)、「ナリコマヤ!」(成駒屋・福助)
などと、掛け声をかける人も、この席からである。)
肉眼では表情などはほとんどわからない。
しかし、舞台や衣装の華やかさ、せりふ回しなどは
十分にわかる。

今から、歌舞伎マニアにはなれまいが、勉強である。

また、思い付いたら、こよう。



参考:「知らざあ言って聞かせやしょう」心に響く歌舞伎の名せりふ
赤坂治績著・新潮新書 他


※お知らせ【第二回、断腸亭落語会】開催決定!?第一報

やっと朝晩はすごしやすくなってきた東京ではございますが、
皆様にはいかがおすごしでしょうか。

さて、表記、第二回断腸亭落語会、懲りずにまたやることにいたしました。

今回は、場所は、お馴染みの合羽橋・太助寿司。
日時は、11月の最終日曜日、26日の午後、
やはり、前回同様、2時頃からと、考えています。
例によって、メールによる事前予約制といたしたいと思います。
詳細は案内ページをまた作りたいと思います。
よろしくお願いいたします。



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