断腸亭料理日記2007

断腸亭、香港へいく。その7

断腸亭、香港へ行く。まだまだ続く!。


8月18日(土)

さて、三日目の夜が明けた。

今日は、昨日よりも天気がよさそうである。
天気がよい、となると、やはり、暑くなる、のであろうか。

朝飯は、昨日うろうろした、この界隈、
旺角(もんこっく)にしてみよう。
8時過ぎ、新聞を持って、二人で出る。

新聞は、黙っていても、日本の朝日新聞の国際版が部屋に届いていた。
なかなか気の利いたサービス、で、ある。

やはり、朝から開いている店は沢山ある。

特段、目当てがあって出てきたわけではない。
客が沢山入っている店であれば、問題なかろう。

昨夜同様、朝から旺角の街は、若者が多い。

業態としては、茶餐廳(ちゃさんちょう)、と、いうらしい。
喫茶店と、軽食店、と、いうのか、を兼ねたもので
安く、早朝から深夜まで、香港ではいたるところにあるようである。

店の前にホワイトボードに手書きのメニューの看板が出ている。
(この店に限らず、安い店も、高い店も香港の飲食店は
ほとんどが店先にメニューを出しているので、
安心は安心である。)

看板の一番上に、出前一丁、と、書いてある。

その他に、麺、粥、の文字はわかるが、それ以外の広東語は
わからない。

沢山、若者が入っているので、大丈夫であろう。
入ってみる。

やはり、喫茶店、という側面があるのであろう。
椅子が、日本のファミレスのような背もたれが少し高い
ボックス席風になっている。

筆者は、麺、内儀さんは、粥を頼む。
麺の具は、よくわからぬが、メニューには魚の文字があるもの。
粥の方は、皮蛋(ピータン)の文字があるもの。
広東語のメニューがわからなくとも、漢字は読めるので
なんとなく、どんなものか、想像ができなくはない。

と、まずは、マグカップに入った、温かいこげ茶色の
飲み物が出てきた。

飲んでみると、クリーム(パウダー)の入ったインスタントコーヒー。

次に運ばれてきたのが、ハムエッグに、パンの付いたもの。

メニューを見直してみて、わかった。

これは、お粥についているもののようで、
いわゆる、モーニングセットのよう。

ちなみに、火腿煎蛋と書いてあるのが、ハムエッグのよう。
(火腿がハム)
パンは麺飽。メニューにそれらの文字を見つけた。

内儀さんが、ハムエッグとパンを食べてみる。
ハムエッグは、日本とまったく変わらない、目玉焼きとハム。

パンが、ちょっと変わっている(、、というほどでもないが)、
内儀さんによると、砂糖の入った(?)甘いマーガリンが
中に塗ってあるようである。
日本でも、こんな菓子パンがあったりする。
(内儀さんは、好きでよく食べている。
そういう意味では、ピッタリ?!)

内儀さんの粥もくる。
これは、ピータンの他に、なんの物かわからぬが骨が入っている。

筆者の麺もきた。

あー!!!
これ、出前一丁だ。

麺が、見た目にも、インスタントのものである。

店先の看板の一番上に書いてあった、“出前一丁”は
すべての麺が、出前一丁、ということであったのか。

皆様、ご存知のように、インスタントラーメンは、
日本を除く東アジア、韓国、香港、中国、では、家庭でも食べるが、
立派に(?)店で出すメニュー。筆者もむろん知っていたし、
香港では、インスタントラーメンの中でも、日清食品の
出前一丁は、人気ブランドである、ということも知っていた。

ここで、それにお目にかかり、食べることになろうとは、、。

昨日、雲呑麺のスープに、化学調味料がしこたま入っているのに
驚いた、どころのものではなかろう。

麺を食べて、スープを飲んでみる。
麺は、紛れもない。インスタントラーメン。
スープは、日本の出前一丁とは、むろん若干、味が違うのであろうが、
それでも出前一丁の特徴である、しょうゆ味で、ゴマラー油の味がし、
基本的には、スープも含め、売られている袋麺そのものを
出しているようである。

そして、具。
魚のしょうゆで煮たようなものがのっている。

見た目はちょっと、にしんそばの、上にのっている、身欠きにしんを
甘辛く煮たもの、のよう。

食べてみると、少し甘く、魚はなにかわからぬが、
にしんそばのにしんなどよりも、もっと、匂いが強い。
日本のくさや、に近い、鹹魚(はむゆい)かもしれぬ。

鹹魚であるとすると、くさみは、だいぶ抜いてあるのか、
なかなか、うまい。

なんだかわからぬが、かなりのB級。

内儀さんの粥ももらってみる。

なんだかわからぬので、内儀さんは骨は残しているので
取り出してみる。

骨のすきまに、食べるところがあるようである。
豚のアバラ骨のようである。
出汁を取ったものなのであろうが、
これも、なかなか、うまい。

食い終わり、長居をするようなところでもないので、
早々に、勘定を払い、出て、ホテルに戻る。
(それぞれ、20香港ドル弱。300円しない。)

この、朝飯、どうなのであろうか。
B級であるが、別段、まずくはない。
いや、うまい。

お粥もそうなのだが、昨日の雲呑麺同様、店では、スープは
きちんと取っているし、魚の煮たものも、そこそこ
手間はかかっていると思われる。

しかし、出前一丁。
インスタントラーメン。

雲呑麺も含め、これは、どういうことなのであろうか。
やはり、日本人が思うような、手抜き、手間を省く、という意図は
積極的には、少ない、のではなかろうか。

むしろ、出前一丁がうまい、から、あるいは、
出前一丁に“価値”があるから、使っている。
そんな感じなのではなかろうか。

インスタントの歴史は、日本よりも短い、と、みてよいのであろうか。
インスタントは、工業化、マスプロ化、大量生産・大量消費の産物である。

手作りと、大量生産とどちらが価値があるのか。
そういう問題なのではなかろうか。

我国では既に、これには、結論が出ている。

観光で日本から行った我々が感じる、香港の物価は、
ホテルの宿泊代、交通費、その他、おおかたのものは、決して安くはない。
ほとんど、東京とかわらない。

しかし、それでも、背後に、まだ人件費の安い中国本土を控え、
手作り(伝統的なもの)の価値と、マスプロ(インスタント)の価値が
日本とは逆、なのではなかろうか。

ことに庶民が普段食べるもの、に、ついては、
より、これが顕著なのではなかろうか。

香港社会全体としては、先進国(欧米、及び日本)の、ものの価値と、
後進国(中国)の、ものの価値の、二つの価値が同居し、
それが、交錯しているのかもしれない。

そして、どちらかといえば、香港の普通の人々の食は、
後進国の価値が中心で、その中では、伝統的な、出汁を取ったスープに、
手作りの麺よりも、欧米的、日本的、先進国の文明である
マスプロで作ったインスタントラーメンの方に、価値がある。
そういうことなのではなかろうか。

すぐそばの国であり、着ているものなど、見た目にはほとんど
違いがない香港であるが、その中身は、随分異なっている
ということかもしれない。




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