断腸亭料理日記2008

駒形・どぜう

6月6日(金)夜

また、五反田で、仕事終了。
今日は、かなり暑かった。

実は、今日は、昼間から、夜は、どじょう、に
してみようか、と、思っていたのである。

暑くなってくると、季節、でもあろう。

どじょうといえば、駒形、で、ある。
駒形どぜう。

創業200年を超えるこの店は、
元浅草の拙亭からも歩いていける距離にあるが、
あまりにも、有名。
浅草観光のルートでもあり、土日はほとんど
列をなしている。

私も、過去、むろんいったことはあるが、
最近は、あまりに混んでいるので、
足が遠のいていた。

いくとすると、西浅草の飯田屋

深川高橋(たかばし)の伊せ喜

ウイークデーであれば、まあよかろうと、
少し前から、機会を見つけていた、ので、あった。

どぜうや、と、いうのは、なぜだか、
昔から作家などと縁が深く、多く作品に書かれている。
西浅草の飯田屋は、断腸亭、永井荷風先生。
駒形は、獅子文六先生なども書いている。
こうしたものを読んでみると、
むろん、友達といっている場合もあるが
男一人で、いく、ところでもあったようである。

また、私の場合、家の内儀(かみ)さんが、どじょうは、
泥臭いといって、いま一つ、と、いうこともあり、
今まで一人で、いったことはなかった。

一度、一人でいってみようかと
思っていたのである。

先日同様、五反田から都営浅草線に乗って、
蔵前まで一本。

7時前、地下鉄の先頭車両から降り、地上に出る。
だいぶ、日が伸びた。
7時頃では、まだまだ、明るい。

蔵前通り(江戸通り)を北上する。
春日通りの交差点を渡り、さらに北。
バンダイの本社があり、路地を挟んでその北隣。
駒形どぜうは、皆が知っている、昔の立派な造りの大きな日本建築。
店先に赤い提灯が出ており、待っている客のための
緋毛氈の掛けられた縁台が、出ている。
金曜日であるが、予想通り、待っている人はいない。

戸を開けて、入る。
土間があり、すぐに下足。

一人、といって、下足の札をもらい、上がる。

飯田屋も、伊せ喜も、座敷でテーブルというのか、
お膳というのか、の席であるが、ここは、桜板を
畳の上に直に敷き、そこに小さな七輪を置いて、食べる。

奥から、桜板が六〜七列であろうか、ずらっと並び、
客がめいめいにその桜板の前に座り、入れ込みでどぜうを食べている。
満席ではない。

手前から二列目に案内され、手前側に座る。

この形で気が付いた。
これは、鍋と七輪が小さいこともあり、三人以上では食べにくい。
一人、もしくは、差し向い二人、までで、ある。

今、鍋、というと、大人数で食べるというイメージが強いが、
やはり、江戸の鍋の多くは小鍋で、一人、もしくは、二人までで
食べるもの、で、あったのではなかろうか。

床は
胡坐をかいて、座る。
季節がらであろう、浴衣を着た、若いお姐さんに、
まずは、ビール。
やっぱり浅草、スーパードライを頼む。
(どうでもよいが、浅草はアサヒビールのお膝元でもあり、
基本的には、スーパードライを置いている店が
ほとんどなのである。)

ビールとともに、山盛りのねぎと七味、山椒の薬味の入った
細長い木箱が七輪の脇に置かれる。

迷うまでもなく、鍋(1650円)、
それから、笹がきの牛蒡と玉子を頼む。

普通には、丸鍋、というところが多い。
割いていない丸のままのどぜうの鍋、で、ある。

鍋は、すぐに、くる。
ねぎと、ごぼうをたっぷりと、のせる。


基本的に、どぜうには火が通っているので、
温まればよいし、ねぎも牛蒡もすぐに火が通る。

ビールを呑んで、温まったところで、どぜうを取り、
玉子をくぐらせて、食べる。

うまい。

どぜう、の丸鍋。
べらぼうにうまい、かと、聞かれれば、
やはりそうでもないが、柔らかいどぜうと、甘辛のつゆ、
ねぎと、牛蒡、これはそれでもそうとうに、うまい。

慣れ、なのかもしれぬが、今のどぜうは、私には
ほとんど泥臭く、感じない。

ばくばくと、食い、煮詰まってくると
割り下を足し、ねぎと、牛蒡も足す。
鍋があくと、すぐにお姐さんがきて、
お代わりを聞く。

はい、もう一つ。

使っていた鍋に、お代わりを足してくれる。
再び、ねぎ、牛蒡を入れ、食う。

一つ目の鍋は夢中で食ったが、
改めて、食べながらまわりを見回してみる。

こんな日でも、お客には外人さんなども少なくない。
また、数は多くはないが、私のように一人で来ている
年配の男性もいる。

私の座っている、正面。
座敷の一番奥に、大きな神棚があって、その下の壁に
縦長の書き初めをするような紙に筆で書かれた
どぜう鍋、どぜう汁、などと書かれた、品書き。
左側が縁側で、ここに荷物を置く。硝子戸があり、庭。
右側が、大きな調理場。
白いうわっぱりを着た料理人達が、忙しく立ち働いている。

食い終わった。

鍋を二枚も食べると、けっこう腹も一杯になる。
どぜう汁で飯、というのもあるが、
時間もまだ早い、これでいいだろう。
家へ帰って、呑み直してもよい。

ここは座ったまま勘定。
お姐さんに声をかける。

こんなところでも、カードで勘定ができる。
ビールは一本で、都合4350円。


と、こんな木札がきた。
下足の札が、代済(だいすみ)、と、かわっている

立ち上がり、荷物を持って、玄関へ向う。

うまかった、うまかった。

札を渡し、靴を用意してもらう。
渡された靴べらで履き、戸を開けて、店の外へでる。

外は、すっかり暗くなっている。


振り返ると、白い麻の暖簾に、墨文字で、どぜう。
風で暖簾もはためいている。
右側に、掛け行灯風の照明に、どぜう鍋と、どぜう汁。


店の前には、どぜうの季節、と染められた、青い幟。

昼間の蒸し暑さに比べ、爽やかな夜、で、ある。
細い月が出ている。

明日からは、我々の鳥越祭りである。

ここから拙亭までは、まっすぐ西へ十分程度。
ぶらぶら歩いて、帰る。




駒形どぜう



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