断腸亭料理日記2009

小松菜と浅利むき身煮びたし

2月9日(月)夜

先日、おでんや日本橋お多幸へいった。

そして、そのことをここに書いたわけである。

テーマは、東京の味、ということであった。

あの文章を書いていて、
なんだか、小松菜の煮びたしが、食いたくなった。

小松菜、というのは、江戸東京発祥の野菜、で、ある。
私は、なん度も書いているのだが、一般には
どのくらい知られていることなのだろうか。

少し前にも書いたが、例えば、京都など関西と比べて
東京及び、周辺は、関東ローム層、いわゆる赤土で
土がわるく、野菜の味が劣る、と、いう。
しかし、京野菜などにはとても及ばないが、
小松菜のような、江戸東京固有の野菜もあることはある。

山独活ではなく、畑で作る、白独活。
これは多摩地区の特産。
立川で今でも作られている。
あるいは、沢庵用にたくさん作られていた、練馬大根。
金町小蕪、亀戸大根、滝野川牛蒡、谷中生姜、、。

練馬大根は今はほとんど作られていないが、
金町小蕪、滝野川牛蒡は、名前はなくなってしまったが、
系統とすれば、今、一般に東京で出回っているものは
これらの子孫、で、あるという。

こう並べると、なんだ江戸野菜も、意外に、
あるじゃないか、で、ある。
亀戸大根は一度見かけなくなったが、最近復活しているよう。

しかし、なんといっても、小松菜の存在感は
他の江戸野菜に抜きんでている。
全国、どのくらいの範囲で作られ、売られているのか
よくわからないが、東京関東はむろんだろうが、
転勤で、住んでいた、名古屋でも小松菜は普通に出回っていた。

これもなん度も書いているが、江戸川区(江東区)小松川の名産。
小松川の菜っ葉だから、小松菜、と、いうこと。

(そうとうな、余談だが、今、普通には、小松川は
首都高のランプなどもあり、荒川を東に渡った、江戸川区と
思われるかもしれない。
しかし、小松川という地名は荒川の西側、江東区側にもある。
つまり、大正時代に荒川(放水路。子供の頃は、荒川ではなく、
荒川放水路、といっていた。)が今あるところに
通される前には、あのあたりを小松川と呼んでいて、
荒川放水路が小松川を突っ切って、通され、東西に分断された、
ということである。こういう痕跡は荒川放水路沿岸には
いくつも発見できる。例えば、私が昔住んでいた葛飾の
四つ木には木根川(きねがわ)、というところがあるが、
対岸の墨田区にも文字は違うが、
木下川(きねがわ)という地名があった。)

小松菜はうまいし、東京に留まらず、広まったのだろうが、
やはり、東京では昔から、菜っ葉といえば、小松菜、
で、あった。
父と、父方の祖父母の生まれ育ちは今の大井町あたりだが、
その私の家でも、小松菜は定番の菜っ葉で、
雑煮に入れる菜っ葉は小松菜に決まっているし、
うちばかりではなく、多くの昔から東京に住んできた家では、
そうではなかろうか。
(少し、聞いてみただけなので、統計的なもの、ではない。
実際に調べるのは、難しいかもしれない。
雑煮というものは、数代前までさかのぼって、
どこの地域の出身なのか、で変わってくる。
しかし、暮れに、東京の八百屋やスーパーでは
雑煮用に、小松菜をたくさん並べているので、東京で
雑煮に小松菜を使う家が多いのは、まず、間違いはなかろう。)

中でも私の家では、祖父母が好きだったのか、
小松菜と浅利むき身の煮びたし、というのが
子供の頃よくおかずに出ていた。

小松菜と浅利むき身をしょうゆと酒だけで、
煮しめたもので、子供にはたいしてうまいものでは
なかったのだが、やっぱり、今となっては、
私にとっては、懐かしい故郷の味、で、ある。

浅利むき身もまた、東京庶民の安いおかずであった。
深川飯も、浅利むき身である。

大井町というのは、今では、なにか、内陸のようだが、
昭和2年生まれの父などが育った戦前には、まだ今の京急線の
少し先までは遠浅の海岸、で、あった。
このあたりで、浅利も獲れたのかもしれない。

一方、池波先生なども書かれているが、昔の東京下町では
よく、むき身をはじめ、貝類は路地裏まで売りにきていた。
これらの主産地は浦安あたりで、浦安から荷なってきていた
のが多かったらしい。

ともあれ。

仕事を終えて、牛込神楽坂駅そばのスーパーに寄る。

小松菜は、生産地違いでなん種類もある。
今、小松川には、さすがに農家はないだろうが、
23区でも葛飾区の北部、水元公園のあたりまでいけば、なん軒もの
農家があり、小松菜を主に作っている。

が、売り場に合ったのは、まあ、葛飾産ではない。
入間だったり、群馬、だったり。
入間のものを買う。

それから、魚売り場で、浅利むき身。

あまり買う人もいないので、多く用意されていないのか、
1パックしか、売り場にはない。
小松菜一把と、1パックでは、ちょっと、さびしい。
もっとも、浅利むき身は、1パック300円程度はするので、
2パックは贅沢、ではある。

仕方ないので、豆腐売り場に戻り、油揚げも買う。
小松菜煮びたしは、油揚げ、でもよい。

帰宅。

スーツを脱ぎ、丹前に着替える。

しょうゆ味の浅利煮びたしには、やっぱり
菊正宗の燗酒、で、あろう。

料理を始める前に、炭を熾し、火鉢にいけておく。

小松菜を切り、洗う。
浅利むき身も、流水で、一度洗う。
油揚げは短冊に。
二枚あるが、全部使ってしまおう。

後は、煮るだけ。

燗をつけるため、鉄瓶も熱くする。

小松菜を先に鍋に入れ、水、しょうゆ、酒。
それから油揚げ。
むき身はすぐに火が通るので、時間差で。

小松菜が煮えたら、むき身も入れ、煮しめる。
煮びたし、なので、ほんとは、時間がたった方が
よいのだが、ここで終了。

熱くなった鉄瓶を火鉢に移し、燗をつける。

盛り付け。


煮えたてでも、むろんうまい。

浅利むき身と小松菜、と、いうのは、
江戸東京でよく食べられていたものを一緒に煮た、
ということだけではない。
味の組み合わせの相性がよい。

なにかというと、小松菜も浅利も、
ともに微かに、苦味がある。
この両者の苦味がシンクロする、というのか、
馴染んで、うまい、のである。
(別段増強されるわけではないが。)

そして、このしょうゆ味が、
辛口の菊正宗にぴったりと、また、合う。

これもまた、私の故郷、東京固有の懐かしい味、
では、ある。


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