断腸亭料理日記2009

浅利と大根の鍋

2月24日(火)夜

今日は雨。

ここ数日と打って変って、寒くなった。

牛込市谷のオフィスを出るとまだ小糠雨。
傘を差して、手袋をして、背を丸めて、歩く。

なにを食べよう。
やはり、温かいもの。

と、思い付いたのが、浅利と大根の鍋。
先日、小松菜と浅利むき身の煮びたし
を、作ったが、その浅利むき身と、大根の千切りの鍋。

これは、池波レシピ。

作品は、梅安。

(引用をおゆるしを。)

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 その夜・・・・・・。

 梅安は、ひとりで、おそい夕餉(ゆうげ)の膳に向っていた。

 春の足音は、いったん遠退(とおの)いていたらしい。

 毎日の底冷えが強(きつ)く、ことに今夜は、

(雪になるのではないか・・・・・・)

 と、おもわれた。

 梅安は、鍋へうす味の出汁(だし)を張って焜炉(こんろ)にかけ、

 これを膳の傍へ運んだ。

 大皿へ、大根の千六本に刻(きざ)んだものが山盛りになってい、

浅利(あさり)のむきみもたっぷりと用意してある。

 出汁が煮え立った鍋の中へ、梅安は手づかみで大根を入れ、

浅利を入れた。千切りの大根はすぐに煮える。煮えるそばから、

これを小皿に取り、粉山椒をふりかけ、出汁と共にふうふういいながら

食べるのである。

梅安最合傘―仕掛人・藤枝梅安〈3〉 (講談社文庫) 池波正太郎著

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なにか、ここで描写されている天気に随分と近い。
細かい雨だが、雪になりそうなくらい、寒い。

梅安先生は、これで、冷酒(ひやざけ)だが、
やっぱり、燗酒。
うまそう、で、ある。

いつもの牛込神楽坂駅そばの、スーパーに寄ると、今日は、
少し時間が早いのか、むき身は数パックあった。
しかし、高い。
値上がりしているのか、400円超。
しかたがない。2パック買おう。
『たっぷりと』は、キーワード、で、ある。

大根は、家にある。

帰宅。

道々考えていたのだが、鍋で、酒だと、
やっぱり、長火鉢の出番、で、ある。

長火鉢を入手したのは、暮れ、で、あったと思うが、
なん回か使ってみて、わかってきたのは、
今まで使っていた、陶器の丸い火鉢に比べて、
意外に、暖かくないこと。
陶器の火鉢、と、いうのは、陶器自体が温まり、
さわっているだけで、ぬくぬくと、気持ちがよい、
のである。

よし。
今日は、鍋もするし、燗もつける。
ふんだんに、炭を熾そう。

炭を普段の二倍の量、熾し、銅壺の五徳にいける。
炭だけで湯を沸かすのは時間がかかるので、
ポットから、お湯を移す。しかし、銅壺には、そうとうに
お湯が入る。足らないので、ガスで沸かし、適正量まで
お湯を張る。
小鍋に水を張り、熾した炭をいけた五徳にかけておく。

むき身は2パック、ざるにあけ、軽く水洗い。
大根は細めに千切り。

徳利と酒も用意。

そうである。薬味を忘れてはいけない。
大根と浅利には必須、で、ある。

作品は粉山椒なのだが、七味、に、する。
(山椒が見つからなかったのである。
なにもなしでは、ちょいと、いけないが、七味でもよい。)

これだけで、準備完了。


やはり、炭の火力を上げると、小鍋などすぐに熱くなる。
酒と、しょうゆを薄く入れておく。

徳利に酒を入れ、銅壺へ。
もともと、熱湯を入れているので、すぐに燗がつくであろう。

小鍋の方には大根を先に入れる。
いくら、千六本は早く煮える、といいながら、
それでもむき身よりは、時間がかかる。

入れて、一度ふたをする。
透き通ってきたら、むき身を投入。

再びふたをして、1分ほど。

よいかな。


徳利も出し、大根とむき身も取る。

七味をふって、、。
酒も、銅壺から、出す。


大根が、もう少し、で、ある。
むき身は、うまい。

これは、まあ、好みなのだろうが、
私は、大根はよく煮えた方がよく、
むき身は、柔らかい方が好き、で、ある。

大根をよく煮るため、もう一度ふたをしておく。

燗のついた、酒を呑みながら、取った大根とむき身を、
食う。

食べ終わると、また、大根を入れ、ふたをする。

しばらく煮ながら食べていると、
銅壺のお湯が、沸いてきた。

銅壺の仕組みは、湯たんぽのような
銅のタンクの一部で、炭火を焚いている、
という格好、で、ある。
そして、その湯たんぽのふたを開けて、
熱くなった湯に、直接、徳利を入れて、
燗もつける。まあ、そんなことになっている。

今日はもともと、熱湯を入れたのだが、
炭火の熱で、もう一度沸騰し始めたのである。

ははー、なるほど。

冒頭に、長火鉢は陶器の火鉢よりも、暖まらない、
と、書いたが、暖かくなるのは、銅壺、であった。
湯の量も多いし、炭の量も多い。
炭火に接しているだけで、銅壺はそうとうに
熱くなってきている。
こういうことであったか。
長火鉢+銅壺には炭の量が必要。
そういうことであったか。

燗をつけながら、酒2合。
2パック分のむき身も、切った大根も
全部一人で食べてしまう。

そして、大根と浅利むき身の出汁のでた、つゆ。
もしかすると、これが一番うまいかもしれない。
全部飲み干す。

丹前を着込んで、始めた、長火鉢での
大根と浅利むき身の鍋と、燗酒。

我ながら、ちょっと、ぜいたくなもの、かもしれない。

満足、で、ある。



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