断腸亭料理日記2009

上野・とんかつ・井泉本店

9月28日(土)第二食

さて。

土曜日。

とんかつが食いたくなった。

今日は、井泉、は、どうか、と、思い付いた。
むろん、上野の本店。

上野はとんかつ発祥の地、と、いわれている。

今も、上野とんかつ御三家など、いろんないい方を
されるが、老舗とんかつやが、なん軒かある。

蓬莱屋と、上野とんかつの、歴史的考察(?)

本家ぽん多

双葉

これを御三家というのかどうか、わからぬが、
これに、井泉、蘭亭ぽん多を加えたところが、
古く、名のあるところ、で、あろう。
三軒は足を運び、また、なぜ上野が、発祥の地、と、
言われているのか、など、考えてきた。

で、行ったことのない、井泉。

ここは昭和5年の創業、と、いう。
やはり、古い部類。

支店、暖簾分けも数多い。
(神宮前が本店の、まい泉、も関係のようである。)

そういえば、他の上野の老舗は、支店の類は
井泉ほどは聞かぬ。

ここは、まあ、やり手、で、あったのであろう。

ここのホームページを見ていたら、
私の好きな川島雄三監督の映画「喜劇・とんかつ一代」。
この舞台も、ここであったことが書かれていた。

この「とんかつ一代」。
上野のとんかつやが、舞台。
主演が森繁で、とんかつやの主人。
他に、加東大介、三木のり平、フランキー堺といった
顔ぶれで、ご存じ、東宝の駅前シリーズ、社長シリーズの面々。
その上、益田喜頓、岡田真澄まで。
女優は、淡島千景、池内淳子、水谷良重(現二代目八重子)が
下谷芸者役で出演している。
(川島監督にはこの前に「とんかつ大将」という
作品もある。とんかつに妙に縁がある。
監督自身がとんかつが好きだった、とも
聞いたような、記憶もあるが、これは定かではないが。)

公開が1963年、昭和38年。
なんと、私の生まれた年。

で、毎度のことだが、この映画にも背景に出てくる、
下谷花柳界、というのが、私には、気になるのである。
上野、湯島天神下のあの界隈には、花柳界、花街があったのだが、
いつ頃まで、どんな感じであったのか、このあたりが知りたいところ。

例によって調べてみると、1960年の数字だが、この頃の「下谷本郷同志会」の
料亭待合組合員数は、既に4軒しかない。(『花街』加藤政洋)
1943年(昭和18年)の88軒(同)に比べると
大幅に少なくなっている。
戦後徐々に減り、この頃既に、花街の雰囲気が
多少残る、程度になっていたのであろう。

映画「とんかつ一代」では、芸者役の水谷良重をはじめ、
花街らしい演出をしてもいるのだが、実際には、戦前が
最盛期で、文字通り、とんかつ誕生の頃と重なるのは
おもしろい。

さて。
さらに、この店のホームページを見ていると、
ここの女将さん(三代目の娘さん?)の
ブログがあった。
と、ここで、歌舞伎観劇のことが書かれていた。

これを見て、今日は内儀(かみ)さんも出かけている。
そうだ、井泉でとんかつを食って、その後、
久しぶりに、芝居を見ようか!、
と、思いついた。

演目を調べてみると、
今日は、今月最後で、千穐楽。
(歌舞伎の場合、秋、の字は、火が入っており、
火事を連想させ嫌われた、とのことで、穐の字を使うらしい。)

松本幸四郎、中村吉右衛門、市川染五郎がメインで、
夜は、勧進帳がかかっているよう。
歌舞伎、勧進帳はあまりにも有名だが、
ちゃんと観たことはない。
WEBでチケットを調べると、一階の一等が取れそう。
幕見、でもよいかと思ったが、こうなったら、
ゆっくり観ようと決めた。
一等16000円也、購入。

夜は、4時半開演なので、逆算して、
2時半頃、家を出る。

今日のかっこうは、皮靴をはいて、半袖のブルーのストライプの
ワイシャツにコットンパンツ。

着物でも着ようかとも思ったのだが、実は、私は、
夏用のちゃんとしたものを持っていない。
まさか、浴衣でもいけなかろうし、なのである。
(落語用のテラテラの化繊のものはあるのだが。)
かといって、やっぱり、雪駄にアロハはなかろうと、
一応、ちゃんと見える格好にしてみた。

歩いて、出る。

今日は、天気もよいが、歩くとまだ汗が出る。

井泉は、昔の同朋町と、呼ばれたところ。
広小路の交差点の南西の一画。

交差点から、二本目の路地を入って、左側。

むろん前から知っており、前を通ったことも
なん回もあった。

どうでもよいが、この一本手前の路地が、
台東区と文京区の境になっている。
それで、井泉は文京区湯島三丁目。
どうにも、やっぱり不思議、で、ある。
以前は、下谷区と、本郷区であるが、明治の頃から、
ここが境であったようである。この境はどうしてここなのか。
(やっぱり、花柳界と関係があるのだろうか、、、。
花柳界は、本郷区に入れたかった、のであろうか。)

ともあれ。
格子を開けて入る。

入るとすぐにカウンター。

なるほど、映画「とんかつ一代」を彷彿とさせる。
確かに、こんな感じであった。

一人、と、いうと、カウンターをすすめられる。

カウンターの向こうは、すぐに調理場。
目の前で揚げている。

テーブル席を含め、半端な時間であるが、
お客は少なくない。

ここは、なんとなく、ヒレ、が、メインのようだが、
やっぱり、ロースが好きなので、ロースの定食と、
瓶ビールをもらう。

ロースの定食は、1250円。
その上に単品で特ロース、1600円というのもあった。
1250円というのは、この界隈のとんかつの
相場からすれば、安いと思われ、むろん「特」の方が、
力の入ったもの、なのであろう。


ビールを呑みながら、かつをつまみ、
呑み終わって、とん汁で、飯を食う。

かつも香ばしく揚げられよいが、
とん汁には七味が入り、なかなか、うまい。

うまかった。

勘定をして、出る。

ここは、座敷もあり、これも映画なり、花柳界を
思わせる、雰囲気があるようである。

今、なんとなく、とんかつやで呑む、という感じには
ならないが、なにか一度、ここの座敷も入ってみたい
ような気もする。

まだ、少し、芝居には時間があるので、
不忍池などをぶらぶらし、銀座線に乗る。




井泉



文京区湯島3-40−3
TEL 03-3834-2901






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