断腸亭料理日記2010

白和え

(またまた、一週以上時差が出てしまった。ご容赦を。)

7月3日(土)夕

冷蔵庫に2〜3日前の豆腐が半丁ほど、残っている。
これで白和えを作ろうと、思っていた。

(この季節、豆腐の2〜3日というのは
かなり、あぶないが。)

白和えというのは、私には、池波レシピ、
で、ある。鬼平を読むまではたいして興味もなかった
食い物だが、これ以来、たまに作るようになった。

鬼平の一場面。

「酒は五合まで肴(さかな)は有合わせ一品のみ」と、

いう大きな木札が掛けてある、駒込富士前町の『権兵衛居酒屋』。

『その一品は蒟蒻(こんにゃく)であった。

短冊に切った蒟蒻を空炒(からいり)にし、油揚げの千切りを加え、

豆腐をすりつぶしたもので和えたものが小鉢に盛られ、運ばれてきた。

 白胡麻の香りもする。』

鬼平犯科帳(十七)特別長篇 鬼火 池波正太郎著 文春文庫



『権兵衛居酒屋』は駒込富士前町にある。

駒込富士前町というのは、今はもうない町名だが、
今でいえば、駒込の六義園から本郷通りを少し
本郷方向へ戻ったあたり。
今も富士神社があるが、これはその昔盛んであった、
富士信仰。江戸近郊を含め、いたるところにあるが、
富士山のミニチュアの山を築いているものなどがある。
江戸の頃は特に盛んで、富士講といい、皆で、時に白装束姿で、
富士山詣でをする。落語にもある大山詣で
(これは神奈川県の伊勢原にある大山に登る。)
などもそうだが、信仰半分、娯楽半分のもの、で、ある。

その前町の富士前町。
このあたりまでが、江戸の町で、これより外は、
もう田畑が広がっている郊外。

そんな場所にある小さな居酒屋。
肴は、これ一品。

“白和え”とせずに蒟蒻、と書かれているのは、
なぜであろうか。青味は入っていないが、これは、
豆腐に白胡麻も入り、間違いなく白和え、で、ある。

白和え、と、書くよりは蒟蒻と書いた方が、
場末の居酒屋らしいから、かも知れぬ。

蒟蒻は買ってきた。
青味の小松菜も、油揚げもなぜか、残り物が
冷蔵庫にあった。
これで作る。

冷蔵庫から豆腐を出して様子を見る。
うん。
まだ大丈夫だ。

蒟蒻を短冊に切り、あく取りのため湯で煮ておく。

蒟蒻も油揚げも甘辛に煮るが、
味の付くまでの時間がそうとうに違うので、
別々に。

フライパンに酒、しょうゆ、砂糖を入れ、
煮立て、蒟蒻を入れ、煮詰める。

同時進行で、湯を沸かし、小松菜を茹でる。
白和えの青味は、かた茹でがよかろう。

切って、湯が沸いたら茎の方から先に入れ、
時間差で葉も入れ、すぐに火を止め、
冷水にさらす。
水を換えてなん回か。

ざるにあげておく。

油揚げも短冊に切り、蒟蒻同様、甘辛に
煮詰める。

あたり鉢に白胡麻。
多めの方がうまいだろう。
どさっと入れ、あたり棒で、あたる。
粒がなくなるまで。

豆腐をあたり鉢に入れ、潰す。

本当は、これを裏漉すのだが、面倒だ。
このまま。

ここに、白味噌、酒、しょうゆ、砂糖。
味見。

ちょっと濃いが、まあ、OK。

あとは、蒟蒻、油揚げ、小松菜と和えるだけ。

できた。


ふーむ。

うまい、のではあるが、
やはり、裏漉すべきであったか。
食感も味の内、と、いうのか、
胡麻の殻がないだけでも、味が違うのか。
(胡麻ペースト、あるいは芝麻醤を使うのが早いのだろう。)

ともあれ。

十分に、うまい白和え、ではある。


白和え、なんというものは、我々の世代では
もうあまり馴染みがなくなった惣菜かもしれぬ。
定食やでも、今はもう出ないかもしれぬ。

以前は、まったくあたり前の庶民の惣菜で
あったはずである。
胡麻をあたらなければならない、というのが
手間で母親の世代も作らなくなったのか。

ひょっとすると、いずれ、料亭などでしか
出てこないものになってしまうのかもしれぬ。

うまいものだが、残念、で、ある。






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