断腸亭料理日記2010

鮨・新ばし・しみづ

5月4日(火)夜

今日は、内儀(かみ)さんが鮨が食いたいと、いい、
新橋のしみづへ。

ここは、意外に休みの日もやっているのである。
昼前、TELを入れてみると、案の定、開けている、と、
若い衆が答える。

夜は、なん時があいているかと聞くと、
7時ではどうか、とのこと、
お願いする。

休みであるし、着物でいこうか。

6時すぎ、着替え、6時半、内儀さんと出る。

紺の縞のウールに灰色の羽織り。
白足袋に、いつもの紺の鼻緒の雪駄。

もうウールで裏のある着物は、今日などは
北関東では真夏日になったくらいで、
いい加減暑くなってきた。
今度、夏物の羽織りを買わねば。

稲荷町から銀座線で、新橋まで。

新橋に出ると、さすがに連休中の夜、人通りも
いつもの土日ほどもないようだ。

烏森神社の路地に曲がると、

お!、

お祭りである。

今日明日と、烏森神社はお祭りのよう。
神輿も外に置いてある。

さらに路地を曲がって、しみづまで。
白木の格子を開けて入る。

ほぼ満席。

親方に会釈をし、羽織を脱いで、後ろの壁にかけ、
あいているカウンターの真ん中に、二人で座る。

扇子を持ってくればよかった。
出てくる汗を、出されたおしぼりで、ぬぐう。
まったくもって、寒くなったり、暑くなったり、
せわしない気候、で、ある。
だがまあ、暖かくなったので、
ひどかったアレルギーの鼻炎も回復したのは
よいことではあるが。

まずは、ビール。

大きなグラスで、一息に呑む。

もう一杯。

お通しは、わかめとほたるいかのぬた。
よい塩梅で、うまい。

内儀さんと相談し、つまみで少しもらうことにする。

最初に切ってくれたのは、白身。
皮付きのままで、厚めに切っているので、
鯛かと思って聞いてみると、鰈(かれい)です、
と、親方。

夏は鰈だが、これはうまみが濃く、
冬の平目とはまた違うが、ばかにうまい。

次は、鮑。
しおむし、で、ある。

二切れだが、大きく切ってくれた。
ぜいたくで、ある。
肝も添えてある。

やわらかく、滋味のある味。

たこ。

今日は、桜煮、と、いう。
いつもは、塩茹でだが、
ちょっと、甘く煮てあるもの。

塩茹でよりも、吸盤にしてもホロホロに、
柔らかい。

親方は、今は、たこ、だめなんですよ、と、いうが
桜煮は桜煮で、むろんうまい。

で、次。

穴子。

焼いて、細かく切って、
木の芽を散らし、小鉢で出された。

連休中というのもあるのかもしれぬが、
穴子もだめらしい。
それで、焼きました、と、のこと。
香ばしく、うまい。

つまみはここまでで、にぎってもらう。

ビールはやめて、お茶に。

内儀さんの希望で、いか。

いかも、この時期は、すみいかから、
あおりいか、に、かわっている。

すみいかも、産卵期前で、だめ。

あおりいかだけは、この時期でもうまいので、
東京の鮨やは、こちらを使う。

すみいかとは違い、歯応えはないが、逆に、
とろけるようで、うまい。

次は、光りもの。

光りものは、よいであろう。

きす、春子。

比較的強めの、江戸前仕事の〆具合、と、
いってよいのだろう。
これが、濃い味の赤酢の酢飯と相まって、
堪えられないうまさ、で、ある。

鯵に小肌。

鯵は酢洗いをしているだろう。
小肌も大きさも小さめで、よい〆具合。

まぐろ。
中トロ。

まぐろも、ここの看板、で、あろう。
上品で、きめが細かく、口の中で、とける。

いつものように頼んでおいた海老。
これもうまい。

私は、この辺で、腹一杯になり、終了。
(この季節、貝類は、よい、のであるが、
私の場合、さほどでもないのでやめておく。)

内儀さんは、さらに、蛤、うに。
玉子と、おぼろ巻を半分。
(よくまあ、食べること。)

ものがなければ、ないなりに、
十分に、たのしめた。

勘定は二人で、¥30000弱。
つまみとにぎりで、ここは、
まあこんなところで、あろう。

羽織を引っ掛けて出ると、烏森神社の前に
人が集まっている。


町内の旦那衆やらが、祭りの今夜の〆、で、あろう。

半纏の後ろ姿。
気を付けて見ると、三種類ある。
中央、一番目立っているのが、丸く「め」。
その左隣と、奥にももう一人いらっしゃるが、
これは、新ばし、という文字が丸の中に
ひげ文字で書かれている。
もう一種類、一番多いのは、烏が図案化された印(しるし)。
これは烏森神社の半纏で、おそらく氏子総代の方々では
なかろうか。

そして、問題の丸に、「め」。
これはめ組の鳶頭(かしら)、であろう。
(新ばし、の半纏も、見たところ、このあたりの、
鳶の方ではなかろうか。)

め組とは、むろん、江戸から続く
「いろは四十八組」の一つで、江戸町火消の末裔。

私の住む元浅草では、鳥越祭になれば「わ組」の衆が働く。

め組、といえば、町火消しの代表のように扱われることがある。
例えば、落語や芝居にもなっている「め組の喧嘩」。
あるいは「暴れん坊将軍」の北島三郎兄貴は、
め組の鳶頭、で、あった。
他の組とは縄張り範囲が違うだけで、実際のところは
「め組」だからといって、特別なことはないのかもしれぬ。
め組は、恵み、で、おめでたく、語呂がよいので、
こういう作品には、よく取り上げられたのであろう。

その、め組の半纏を実際に見たのは初めてである。

そうであった。
め組は、新橋、芝、このあたりであった。
確か「め組の喧嘩」は芝神明の相撲での
力士と鳶の喧嘩であった。

今週末は、下谷神社、神田の明神様も。

下町は、祭りの季節になる。



TEL:03-3591-5763
住所:東京都港区新橋2丁目15−13





断腸亭料理日記トップ | 2004リスト1 | 2004リスト2 | 2004リスト3 | 2004リスト4 |2004 リスト5 |

2004 リスト6 |2004 リスト7 | 2004 リスト8 | 2004 リスト9 |2004 リスト10 |

2004 リスト11 | 2004 リスト12 |2005 リスト13 |2005 リスト14 | 2005 リスト15

2005 リスト16 | 2005 リスト17 |2005 リスト18 | 2005 リスト19 | 2005 リスト20 |

2005 リスト21 | 2006 1月 | 2006 2月| 2006 3月 | 2006 4月| 2006 5月| 2006 6月

2006 7月 | 2006 8月 | 2006 9月 | 2006 10月 | 2006 11月 | 2006 12月

2007 1月 | 2007 2月 | 2007 3月 | 2007 4月 | 2007 5月 | 2007 6月 | 2007 7月

2007 8月 | 2007 9月 | 2007 10月 | 2007 11月 | 2007 12月 | 2008 1月 | 2008 2月

2008 3月 | 2008 4月 | 2008 5月 | 2008 6月 | 2008 7月 | 2008 8月 | 2008 9月

2008 10月 | 2008 11月 | 2008 12月 | 2009 1月 | 2009 2月 | 2009 3月 | 2009 4月

2009 5月 | 2009 6月 | 2009 7月 | 2009 8月 | 2009 9月 | 2009 10月 | 2009 11月 |

2009 12月 | 2010 1月 | 2010 2月 | 2010 3月 | 2010 4月 | 2010 5月 |




BACK | NEXT |

(C)DANCHOUTEI 2010