断腸亭料理日記2011

浅草落語散策 その3


引き続き『浅草落語散策』。

昨日は「雷門」で、粗忽長屋。

この「雷門」あたりではまだまだ舞台になっている
噺はある。

付き馬、唐茄子屋政談、松葉屋瀬川、、あたり。

が、このどれも、雷門だけでなく、浅草界隈一帯が
舞台になっている。

つまり、浅草界隈を歩いている噺、なのである。

付き馬は、生徒さんの中では知っている人は
一人、二人であった。

私なんぞは、ずいぶんと有名な噺と思っていたが、
一般には、それくらいの認知なのであろう。

付き馬とは、吉原などで、勘定が足らない場合、
家までついてきて、取り立てる者のこと。

噺は、最初から銭のない男が、うまいことを言って、
楼(みせ)に上がり、翌朝、店の若い衆を連れて、吉原を出る。
うまいことを言って、途中、若い衆に金を払わせて、朝湯に入ったり、
朝飯を食ったりしながら、千束通りから、観音様の境内、
さらに仲見世、雷門までくる。

ここまできて、田原町に叔父さんがいるので、そこで借りて
渡すよ、という。

叔父さんは早桶屋(はやおけや)。
今でいう、葬儀屋のことだが、早桶(棺桶のことだが、昔は桶のような
丸い座棺)を作るのが主な仕事。

男は若い衆を、叔父さんの早桶屋の近くまで連れてきて
今から頼んでくるから、ここで待っているようにいう。

男は早桶屋の親父に、あそこにいる男の兄さんが、
昨日、腫(は)れの病で、急に死んで、少しとっちらかっているので
自分が頼むのだが、図抜(ずぬ)け大一番小判型、という特大の早桶を
造ってほしいと頼む。親父は請合(うけあ)う。

ここで、男は、若い衆を呼ぶ。

「つくってもらえますね」「ああ、確かにつくるよ」と親父。
男は「じゃ、ちょいと、俺、煙草ぉ、買ってくるから、、」と
いなくなる。

「たいへんだったね〜、急なことで・・・」

「え?え〜、まあ、、はは、そうですね・・・」

などと、早桶屋の親父と、
金ができるのを待っているつもりの若い衆は、
ちぐはぐな会話をしているうちに
特大の早桶が出来上がってしまう。

ここで、判明。
若い衆はまんまと、騙(だま)されたのであった。
早桶屋の方も、こんな特大のものを作らされて
売れもしない。お前引き取れ、という。

結局、若い衆は金がなく早桶代を払えず、
押さえつけられ、特大の早桶を背負わされる。
サゲは、(親父が店の若い者に)
「おーい、奴(やっこ)。吉原まで付き馬にいけ。」

一度、あまりにもおもしろいので、
この噺、私自身も憶えたことがあった。

過去の名人でも、いろんな人が演っているのだが、
私はやはり、志ん生師にとどめを刺す。

先の「じゃあ、俺、煙草ぉ、買ってくる・・」
のところなぞ、実にどうも、すばらしい。

さて。

雷門の噺といえば、最初にあげた、唐茄子屋政談、
松葉屋瀬川の、大物は置いておいて、軽いもので
うなぎや、なんというのもある。

これは、素人鰻の同工異曲、
別バージョンのような噺。

素人鰻は、意外に、皆さんご存知。

明治になって、武士の商法で、うなぎやを
始めたが、職人が酒癖が悪く、よくいなくなってしまう。

そこに客が来て、主人は困った挙句、
自らうなぎを生け簀(す)から捕まえようとし、
格闘し、最後、店の戸を開けて、外へ出て行ってしまう、
どこへ行くんですよ〜、の問いに、
前へまわって、うなぎに聞いてくれ。
まあ、こんな噺。

うなぎやは、これを、客側から扱ったもの。

とある男二人が田原町から、雷門に向かって、歩いてくる。
金がないのだが、一杯呑みてえ、呑ませてくれ、と
一人がいう。もう一人は、そうだなぁ〜
呑ませてやろうか?、天ぷらは好きか?、
鮨は好きか?と、聞くが、聞くだけで、
どんどん、歩いていく。

吾妻橋を、渡ると、ビール工場。
(今は、アサヒビールの本社と墨田区役所があるが、ここには、
以前はアサヒビールの工場があった。)

お?

ビールを呑ませてくれるのか?

いやいや。

いつしか、うなぎやの前にくる。
ここは、ただで呑めるんだ。

で、先の、職人のいないうなぎや、
に、なるのである。

これ、別段、浅草である必要はほとんど
ないような気もするのだが、いろいろな人が、
雷門から、吾妻橋を渡る形で演っている。

よくよく考えてみると、それでも、他の場所や、
架空の場所でもなく、やはり、雷門前を歩いて、
吾妻橋を渡る、という情景が、目に浮かんできて、
不思議と、雰囲気が出てくるような気もしてくる。

さて。

こんなところで、雷門から、仲見世を通って、
観音様の境内を目指す。

一本目の路地を左に入ると、
すぐ右手に、文扇堂。
扇子、踊りの扇の店。

落語用の扇子、高座扇(こうざせん)も、
売っており、私はここに決めている。

浅草案内のようだが、仲見世ではもう一軒。
新仲見世もすぎて、伝法院通りもすぎて、
仲見世の切れる手前にある、助六という店。

「江戸趣味小玩具」の店。
江戸風のかわいいミニチュアの様々なおもちゃ、かざり物を売っている。
むろん、皆、職人の手作り。

よいのだが、値は張る。

だが、ちょいと、覗いてみてほしい。

確か、池波先生も薦めていたと思う。







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