断腸亭料理日記2012

鰹 一本から その2

引き続き、鰹一本。

昨日は、冷し汁、から、人形町の話へ飛んでしまった。

冷やし汁、または冷汁に、戻る。

もう一度、梅安の冷し汁の記述に戻ろう。

〜〜〜

鰹を煮熟(にじゅく)した・・・・・・つまり即製の生鰹節(なまりぶし)を

小ぎれいにむし崩し、これを味噌汁にしたて、さらに井戸で冷やした

〔冷(ひや)し汁(じる)〕であった。実は茄子に刻み胡瓜である。

〜〜〜

7年前、この記述だけを見て、初めて冷し汁、
なるものを作ってみたわけである。

先生がこの作品を書かれたのは、今から37年前の
1975年、昭和50年。

この頃、冷し汁、あるいは冷汁、というのは、
定かにはわからぬが、まあ、一般には、
ほとんど知られていなかった料理、なのではなかろうか。

はっきりいえば、最初に作った時は、残念ながら
たいしてうまいものができなかった。

それで、調べてみたわけである。

そもそも、冷し汁、って、なんだ?、と。

少なくとも、江戸、東京の料理ではない、と、思われる。
どこかの郷土料理?。

出てきたのは、九州の宮崎県を中心に大分、あるいは、
対岸の四国でも食べられているもの、というのが一つ。

もう一つは、なぜだか、宮崎からは随分離れた、
埼玉県の秩父。

どちらも、冷した味噌の汁物。

池波先生は先生の故郷、江戸東京の下町の料理を
よく作品に登場されるが、実はそれだけでもない。

船頭飯といって、蕪を煮崩した味噌汁を飯にかける、
という食べ方を書いていたりするが、これは、
大分であったか、九州のものらしい。

それで、池波先生は秩父か九州の冷し汁、
どちらかを元にした可能性は十分にある。

秩父の方は詳しいレシピはわからなかったが、
宮崎の方はレシピもわかってきたので、
さっそく、やってみたわけである。
(今、メジャーになりつつある冷汁も、この宮崎版
の、ようである。)

宮崎のものは魚を入れるが、使うのは干物。
焼いて割いて、水で煮出す。

これは出汁と具を兼ねたもの。

ここに焼いた味噌を溶いて、冷し、豆腐、胡瓜、
大葉、あたり胡麻を入れて、出来上がり。

実際、これを作ってみると、多少の試行錯誤はあったが、
なかなかうまいものができるようになってきた。

干物であれば鯵でもなんでもよいし、
実は、煮干、でもよい。

ポイントは、濃い目の出汁、で、ある。
冷して食べるものなので、味噌も濃い目の味付けで、
出汁も濃くすることが料理としての基本である。

このため、干物でも、煮干でも、大量に入れなければいけない。

で、生鰹節を煮崩しただけでは、実際には出汁は出ない。

生鰹節でやるには、別になにかで濃く出汁を取る必要が
あると思われる。
池波先生の食べられた、生鰹節の冷し汁は、きっと、
料理屋かなにかのもので、こうした配慮というのか、
下仕事が、してあったもの、なのかもしれない。

さて。

そんなことで、今日は、生鰹節で作るわけである。

結局、魚は干すことによって、アミノ酸が増え、うまくなる。

生鰹節を干物にする?
なんのことはない、生が取れた、鰹節ではないか。

これから、自家製の鰹節を作る?
そういう話でもなかろう。

で、考えたのは、一度焼いてみる、ということ。

蒸したものを、ガスグリルでさらに焼いてみた。

鰹はたたき、で、これをするが、脂も出て、
香ばしくなり、うまくなる。

なんかよさそう。

ここまで、夜の内にやって、就寝。

翌朝。

大葉と豆腐を買いに出る。

焼いた生鰹節を割いて、鍋に水を張り、煮出す。

ここに、味噌を溶き入れる。
焼き味噌にするのは、味噌くささを取るため、
と、いうが、私は焼かずにそのまま溶く。

温かい状態でちょうどよい味ではだめで、さらに濃く。
ここにスライスした胡瓜を入れ、豆腐は手で崩して
入れる。あたり胡麻もここでたっぷり入れる。

あとは冷すだけ。

洗面所に水を張り、保冷材をたくさん入れて冷す。

1時間ほど。

冷汁はそのままでもよいが、飯にかけるのがベスト。

冷飯が冷蔵庫にあったので、これを使う。
冷汁だからといって、冷蔵庫に入っていたそのままでは
飯が堅いまま。一度レンジ加熱し柔らかくし、ざるに取り、
冷水にさらし、冷したものを用意。

冷汁が十分に冷えたら、仕上げに大葉。
これも刻んでたっぷりとのせる。


ふむふむ、まあまあ、で、あろうか。

生鰹節を使った冷汁。
やっと、作品の再現ができた、ということになろうか。
(だがやはり、正調の干物で作る方がうまい。)

しかし冷汁、夏には絶好のもの、で、ある。

さてさて。

生鰹節はまだ残っている。
これがなにになるか。


つづく。






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