+断腸亭料理日記2013

偽装?!無形文化遺産?!

その他いろいろ その1

10月26日(土)

台風27号は大きな被害もなかったようで
一安心。

今日は、妙に寒かったので、今シーズン初めて、
朝から火鉢に火を入れた。


だが、いろいろなことがあった一週間であった。
(みのもんた氏の件は、まあ、いいか。)

20日、天野祐吉氏が亡くなったと報道された。

個人的には学生時代、所属していた新聞会で
学園祭の講演に来ていただき、氏の駅からの送迎など
したことを思い出す。

氏は、我々の世代の者には雑誌『広告批評』から始まり、
存在感は大きかったのではなかろうか。
鋭い切り口を軽い口調で述べるスタイルは、なかなか
真似のできないもので、読者や視聴者へ安心感を与えながら、
納得させる力があった。ご冥福をお祈りする。

さて。

食について、二件。

これはやはり、触れておかねばならなかろう。

一つは、有名ホテルのメニュー偽装、
それから和食がユネスコの無形文化遺産候補になったということ。

どちらも、ちょっと考えさせられた。

まず、ホテルのメニュー偽装について。

あの社長の記者会見はまずかった。
故意ではなかったからいいだろう、とも受け取られる
語り口はいけない。

故意かどうかは、まったく関係ない。
事実ではない表示をした時点で、景表法違反である。
一流(?)ホテルの社長として見識が疑われる。

問題は、こういうことがまかり通っていたことの
背景ということであろう。

一般消費者に加工食品などを販売する食品会社は、
表示(パッケージに書かれる、ネーミングやキャッチコピーなど)
は、業界団体を含めて、以前からとても慎重に扱ってきたと思われる。

これに対して、少し前、それまであまり目がいっていなかった、
米や肉、魚介類など加工度の低い一時産品に近い物の産地などの
表示の偽装が発覚し、問題になった。

これはこういった一時産品に近い事業者の表示に関する
コンプライアンス意識が低く、遅れていたというのが、
一つの背景にあったように思う。

これに加えて、今回の有名ホテルのメニュー偽装は
この飲食・料飲業界に、いまだに表示に関するコンプライアンス意識が
届いていたなかったことが、表に出てきたということ
なのであろう。それで故意でなければよいだろう、発言になっていよう。

メニュー名、ネーミングやキャッチコピー、説明文など、
表示すべて、故意であろうが、なかろうが、事実と違うことを
書いた時点で、いやそれ以前に、曖昧な表記でお客に誤解を与えるだけで、
法律に違反している、のである。

飲食・料飲店というのは、個人経営のところから、
こうした大手ホテルまで、規模の大小、有名無名、老舗、新参、
実に様々なところがある。駅前のおとうさん、おかあさんで
やっている定食やさんもむろん、例外ではないのである。

上から下まで、和洋中、飲食・料飲店を営むすべての
店舗が、守らねばならないことである。

また、これには、相変わらず続いている、グルメブーム(?)
などもこういった、飲食・料飲店の表記の問題には
関係がありそうである。

つまり、TV、雑誌などのグルメマスコミの存在である。

産地やらの、素材の質に関すること、あるいはどういう調理法であるかなど、
おいしそうと思わせる表現をまあ、皆、工夫している。

マスコミであれば、書いたり、話したりする本人、あるいは、
出版放送している会社なりの責任で、先のお店の表示とは
異なって、間違っていたり、誤解を与えるようなものを
出版放送しただけでは、直接的には法律違反にはならないであろう。
(不利益を与えれば、名誉棄損、営業妨害などにはなろうが。)

このへんがごっちゃになっていたのではなかろうか。

レストランが自分の店のメニューなどに書く内容と、
それを取り上げるマスコミの表現は法的にはまるで違う。
飲食・料飲店側はおそらくこれを明確には意識していなかった
のであろう。グルメマスコミが書いているような感覚で、
無自覚に安易に自分のメニュー表記などを書いていたのではなかろうか。

グルメマスコミと、飲食・料飲業界というものが、
おそらく今、人的にもかなり重なっているのであろうと
想像する。

そういう意味で、食に関わるマスコミにいる人々も今回の偽装の意味や背景を
自分のこととして、考えてみる必要があるように思われる。

そしてさらに、こんなことを考えた。

飲食・料飲店の表示の問題は、明らかな法律違反で
やってはいけないことなのだが、結局私は、お客側からみれば、
店のメニューなどに書かれていることや、グルメマスコミを含めて
語られる言葉に振り回されないことが、重要のように思うのである。

つまり、お客としてなにを信用するか、と、いうことである。

飲食店の価値というのは、腹を満たすことはもちろんだが、
接客態度、インテリアなどの店の雰囲気、居心地、そして、むろん
食べてうまい、ということ。

ある金額を払って、サービスを提供してもらうのだが、
それが果たして見合っているのか、いないのか。
煎じ詰めると、もう一度その店に行きたいのかどうか。

これに尽きるし、これを決めるのは、他ならぬ自分である、ということ。

最低限、安心、安全なものを提供してもらっていれば、本来、冷凍でも、
輸入物でも、うまく感じられれば、それでよいのである。

少し前から私は、鮨やで、魚の産地などを聞かないように
してきている。

食いもののうまいまずいというのは、多分に主観的なものである。

「大間のマグロ」というだけで、刷り込まれていれば、
それだけで一級品で、うまい、と、感じてしまうこともある。

魚の産地以外にも、下拵えのしかたその他含め、
料理人が施した技があって、一個のにぎりの鮨が出来上がる。
お客はその出されたものを食べて、うまいと思うかどうか。
本来、それ以上でも以下でもない。

言葉が独り歩きをし、それだけで価値を持ってしまっている。

お客とすれば、誰かさんの言葉を鵜呑みにしない。
自分の感覚で評価すべきであるということ。
(当たり前だが、お金を出すのは自分だし、もう一回行くかどうか
決めるのは自分自身であるから。)
このため、お客も評価力を高める必要もあると思われる。

そして、グルメマスコミも、提供する店側もそろそろ
安易に言葉に頼って客を納得させようというスタンスから
脱却する必要があるのではなかろうか。

鱒(ます)の子がレッドキャビアというのを私は知らなかったが
回転寿司でお馴染みのトビ子は見れば誰でもわかるであろう。
見た目ではトビ子はキャビアの大きさではある。
業界では鱒子=レッドキャビアであろうが、一般には知られていない。
それを逆手に取ってのことであったようにも思える。
(であれば、意図は鱒子への偽装ではなくなるのではなかろうか。)

だが、ともかくも、言葉だけが踊っていることは間違いない。


長くなった。
和食が無形遺産候補になったことは、また明日。






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