+断腸亭料理日記2013

偽装?!無形文化遺産?!

その他いろいろ その2

10月26日(土)

さて。

今日は「和食」が世界遺産候補になったこと。

まず、世界遺産と書いたが、正確にはちょっと違っている。

今回調べてみてわかったこと。

マスコミではあまり説明されていないが、
いわゆる世界遺産は『世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約
(Convention Concerning the Protection of the World Cultural
and Natural Heritage)』という条約があり、ユネスコが運営している
(寄託者になっている)もので、遺跡などの文化遺産と自然遺産を
扱っている。

これに対して、今回の「和食」が登録されるのは、
同じくユネスコが寄託者だが、世界遺産とは別の条約で
『無形文化遺産の保護に関する条約』というものが
管轄しているものという。

条約名も『無形文化遺産』=『Intangible Cultural Heritage』で、
『世界遺産』の方は条約名にも"世界"が入っているのに対して、
『無形文化遺産』には"世界"が入っていないようである。

つまり、書き方は、ユネスコ指定の『無形文化遺産』で、
"世界"を付けてはいけない、のであった。

さて、その『無形文化遺産』(頭文字を取ってICHというらしい)に
既に選ばれているものには、どんなものがあるのか。

日本ではまず「能」「人形浄瑠璃」「歌舞伎」「雅楽」などのメジャーな
伝統芸能。(やっぱり「落語」は入っていない。)

あるいは、京都の「祇園祭の山鉾行事」など、神社のお祭りだったり、
「小千谷縮」などの伝統工芸品。

あるいは私の学んだ民俗学が扱う、地方のムラに伝わる、
いわゆる民俗行事。
例えば「奥能登のあえのこと」と呼ばれる家で行われる豊作祈願
および感謝の行事。
こういうものは、国内では重要無形"民俗"文化財という範囲に入る。

ちなみに「能」「歌舞伎」などは国内では重要無形文化財で、
"民俗"は入らない。

そして"食"についてである。

「フランス料理」(正式名は「フランスの美食術」)が
『無形文化遺産』に登録されたのが話題になったが、
今回の「和食」はこれに続くものということなのであろう。

これ以外に"食"では「メキシコの伝統料理」「トルコの伝統料理ケシケキ」
と、いうものが登録されているよう。
また、報道を聞くと、今回和食と同時に韓国の「キムチ」も候補になった
ようである。

私が知っているところでは、数年前に行った、
モロッコマラケシュの、ジャマ・エル・フナ広場


ここは「ジャマ・エル・フナ広場の文化的空間」という名前で
[伝統工芸技術]という分類で登録されている。

さてさて、こう見てきても『無形文化遺産』は、
なんだか、とっても脈絡がない。

例えば今回の"和食"と"祇園祭"とは範囲というのか、
レイヤーというのか、コンセプトがまるで違っている。
同様に"和食"と"キムチ"。同じ食だが、同列に並べるのは
"和食"がかわいそうである。それならば、キムチや焼肉などを含んだ
韓国朝鮮料理全体とした方がわかりやすい。

なんだかさっぱり、わからない。

今回の和食の『無形文化遺産』候補への選出は、
以前から「和食」で世界に打って出ようという農水省の強い
働きかけが関係しているのは周知のこと
であろう。

だが、本来『世界遺産』もそうなのであろうが、窓口は文化庁
のはずである。

また「フランス料理」が『無形文化遺産』になったのもそんな
匂いがするが、これらは多分に"政治的"な動きの中にある、
のであろう。

お役所的、かつ、政治的なご都合で決まっているのが
ほんとの、ところのようである。(この他にも国内各方面、
世界各国、いろんな思惑が渦巻いてもいよう。)

国内にしても、世界にしても、指定をしてなんらか
保護、育成をしよう(お金を出す)というのであるから、
定義をしなければいけなかろう。お役所的になるのは、
ある程度仕方のないことなのであろうが、これに加えて、国内の政治と
海外の政治がからんで、脈絡がなくなり、もうほんとうに、
わけがわからない。

国内、さらに世界にまたがって、壮大に
わけがわからない制度ということになるのか、、、。

さて、まあ、そんな、わけがわからない、
「和食」のユネスコ『無形文化遺産』登録(候補)で、
なにが起きるのか。

わけがわからないから、だからどうなるのか、と、いうのも
よくわからないと、いうのが本当のところなのかもしれぬ。

例えば、世界への日本のPRに役に立つ?。
これはそうかもしれぬ。
東京オリンピックとからめても、日本の国際的地位向上?
あるいは、少なくとも、観光客を呼び込むのに役に立つ。
これは経済的にはよいことではあろう。
(日本政府=安倍総理の狙いもそこにあるのであろうから。)

そこでまあ、「和食」の『無形文化遺産』登録を契機にした、
私の提案である。(前から書いていることだが。)

国内でも"食"を、無形文化財として認定してほしいのである。

先の、国内の重要無形(民俗)文化財には
"食"というものは、基本的には含まれていなかったと思われる。

お祭りや、行事などに出てくる儀礼食というのは
無形(民俗)文化財の中に入っているものもあるのであろうが、
私のいうのは、江戸前鮨、天ぷら、うなぎ蒲焼、といった
普通の伝統的料理である。

これらは私は、例えば江戸・東京発祥で、固有の食文化であると思うし、
その料理人、例えば、すきやばし次郎の小野二郎氏は、
歌舞伎の中村吉右衛門氏同様、重要無形文化財保持者、
つまり人間国宝として認定してしかるべきと考えるのである。

それだけ江戸前鮨の文化的価値は高く、なくしてはいけない
ものだと思うのである。

上位概念の「和食」が世界の『無形文化遺産』ならば、
その下位概念で構成要素の「江戸前鮨」も保護育成しなければ、
なるまい。

むろん、東京だけではなく、例えば京都の「京懐石」「京和菓子」、
などもそうだろう。であれば金沢の「加賀料理」、高知県の「皿鉢料理」、
長崎の「卓袱料理」、沖縄の「琉球料理」なども含まれるかもしれない。

国がだめならば、猪瀬都知事様。
まず東京都から、「江戸前鮨」「江戸前天ぷら」「うなぎ蒲焼」
の無形文化財指定を始めていただけまいか。

 

 





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