断腸亭料理日記2014

柳ばし代地・美家古鮨本店・立喰部

2月12日(水)夜

鉄火巻が食べたくなった。

なぜかといえば、鬼平を読んでいて、鉄火な女、という言葉が
なん回か出てきたから。

鉄火な、という言葉がはたいていは女に使う。

男だと当たり前、だから、か。

鳶のお内義(かみ)さんだったり、
姐御(あねご)などと呼ばれる人。

男言葉を使って啖呵の一つも切りそうな、感じ。

江戸弁、というのか、江戸・東京独特の使い方、かもしれない。

鉄火という言葉自体は鍛治屋からきた言葉で
辞書を引くと元来は「真っ赤に焼けた鉄」の
ことをいったようである。

ここから、刀、鉄砲、さらに「気性が激しく、さっぱりしていること。
威勢がよくて、勇ましいこと。」という、人の性質まで形容する
言葉になったという。

姐御はこれであろう。
あるいは、博打(ばくち)場、賭場(とば)を鉄火場と
いうというのも、威勢がよい者らが集まるから、か。

鉄火巻の由来はこの鉄火場で食べられたから、
というのがあるが、これはどうも違うらしい。

鉄火には赤くて激しい、というニュアンスがあり
これがマグロとわさびの辛さを連想させ、
鉄火となった、という。

辛さはともかく、赤い、ということか。

ともあれ。

鉄火巻である。

どこで食べようか。

このことである。

私が思いついたのは、浅草橋(柳橋)の
美家古鮨本店の立喰の店

美家古鮨は江戸期、にぎり鮨が誕生した頃に
その創業がさかのぼれる店。

私が行く新橋の[しみづ]も、この系統。

やはり、江戸前仕事、江戸前の形に持ち味がある。

ただ、そうはいっても立ち喰い。
高級ネタがあるはずもない。

ただ、この美家古鮨には特別な鉄火巻がある。

いや、特別というほどのことはないのだが、
細巻でも太巻でもない中間の太さの鉄火巻。
これが、私は気に入っている。

総武線の浅草橋駅を先頭から降りる。

駅から出て右。
ガードをくぐって右に曲がったところ。

サッシのガラス戸を開けて入る。

ごま塩、五分刈りに眼鏡。ちょっと小太りの親方一人。

立ち喰いなので、むろん、カウンターのみ。

先客は比較的年配(私と同世代くらい?)のサラリーマン風
三人組。

お酒、お燗。

と、出された、これ。


そうそう、ここはこれであった。
ワンカップ大関。

久しぶりにきたので忘れていた。
(ちなみに、上に写っている水道の蛇口は手を洗うのに使う。)

ワンカップは、店の給湯器の脇に置いて温めたもの。

まさに人肌の燗がついている。

先ずは、やっぱり、鉄火巻。


おわかりになろうか。このくらいの太さ。

細巻用に切った海苔を90度回して、
つまり長い方を縦にして巻いたもの。

なぜこの太さに巻くのかと思って聞けば
お腹にたまるようにということ。

それこそ江戸の頃のにぎり鮨は今から
考えられないくらい大きなものであった。
おにぎりといってもよいくらいの。

その名残、なのかもしれない。

さて、次は。

ネタ数も少ないが、小鯛。


春子(かすご)といってよいのか。

ここは二個ずつ。

ワンカップをおかわり。

鯵。


これはなかなか、うまい。

こういう安いネタは、高いところも安い店も
そう大きな違いはないのかもしれない。

二個ずつだし、鉄火巻も食べたので
このくらいでも、もういい加減に腹は満たされている。

もう一本鉄火巻。


落ち着いて食べると、このまぐろ、意外にといっては失礼だが、
なかなかよいまぐろではなかろうか。うまい。

お勘定。¥3000弱であったか。

ご馳走様でした。

柳ばし代地・美家古鮨本店・立喰部、
回転寿司よりは、私は好きである。








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