断腸亭料理日記2014

2月花形歌舞伎 

通し狂言 青砥稿花紅彩画

白浪五人男 その2

2月11日(火)祝日

引き続き、二月の歌舞伎、夜の部「白波五人男」の通し。

夜の部は16時半開演。

いつもギリギリの歌舞伎座到着でバタバタするので
今日は時間の余裕もあるので、着物を着て、早めに出かける。

稲荷町から銀座線、銀座で降りて晴海通りの右側を歩いて、
昭和通りを渡り、これもいつものように、木挽町[辨松]で
弁当を買う。

晴海通りを渡って歌舞伎座前へ。

チケットを引き取って、開場を待つ。

曇り空で風もあり、寒い。

着物の場合、上はトンビのコートを着ているのでよいのだが、
私は下は、股引は履かないことにしているので、足元が寒い。

昼のニュースでは千葉方面は雪だそうだが、
この時間、歌舞伎座前でもパラパラと雪が舞ってきた。

ほどなく開場。

中へ入り、席へ。

今日は中央やや左、比較的前の方。
今月はよい席が取れた。

ビールとお茶を買って、幕開きを待つ。

序幕

「初瀬寺花見の場」。

初瀬寺はハセデラと読ませる。

鎌倉が舞台で、いうまでもなく、長谷寺のこと。

歌舞伎お得意の時代と場所をずらす手法。
鎌倉といっているが、実際は江戸のことで時代もむろん江戸時代。

この話は一応武家のお家騒動がストーリーの底流になっており、
武家を描く場合の方便として、今は鎌倉時代で、場所も鎌倉ですよ、
ということにしている。

満開の桜でお姫様、そこに通りかかる美男の若侍。
そんな幕開き。

若侍は尾上菊之助。

そして、実はこの若侍が弁天小僧菊之助が化けた姿。

ストーリーはこちらを

1862年(文久2年)江戸市村座初演。

文久2年というのはむろん幕末。
皇女和宮の降嫁、寺田屋事件など、世はまさに風雲急を告げている頃。

毎度思うが、政治向きにはこんな状況の頃だが、庶民、特に江戸にあっては
まだまだ、生活は大きく変わってはいないといってよいのか。

黙阿弥は当時47〜8才。

36〜7才で出世作『都鳥廓白波(みやこどりながれのしらなみ)』
(忍の惣太)で大当たりを取り、その後「鼠小僧」「小猿七之助」
そしてもう一つの白波物(泥棒を主人公にした作品)の代表作であり
黙阿弥江戸期最大の名作といってもよい『三人吉三』
など毎年のようにヒットを飛ばしていた。

黙阿弥という人は明治26年(77歳)まで生きた人で江戸と明治両方に作品を
残しているが、江戸期絶好調の頃といってよい頃か。

このお話しは、先に武家のお家騒動を底流に、と書いたが、その上に
日本駄右衛門というのを頭にした五人の盗賊仲間が中心的に描かれ、
その中の一人が、弁天小僧菊之助で、まあ、お話し全体の主人公
といってもよろしかろう。

その弁天小僧菊之助を、音羽屋五代目尾上菊之助が演じているわけである。

菊之助が菊之助を演じる。
偶然なのかと、歌舞伎トウシロウの私などは思ってしまったが、
ちょいと調べると、左に非ず。

尾上菊之助は演じるべくして演じていたのである。

初演時の役者は十三代目市村羽左衛門。当時17歳。
この人はその後、五代目尾上菊五郎になり、明治の歌舞伎界で
團菊左時代といわれたほどの名優になっている人。

そして「白波五人男」は17歳の五代目菊五郎が黙阿弥(当時河竹新七)に
頼んで書いてもらった芝居だったのである。

以来、五代目はもちろん当代の菊五郎、その子息の菊之助まで
当たり役として演じてきた。

いわばこの芝居は尾上菊五郎家・音羽屋の家の芸。

市川團十郎家・成田屋の歌舞伎十八番同様、
音羽屋のお家芸だったのである。

なるほど〜、そうなのか。
すごいもんである。

歌舞伎というのはこういうことがあるので、難しいし、
またそこがおもしろい。

余談だが、私も段々に屋号などもおぼえてきた。

中村勘九郎、七之助は中村屋。
これはそのままだから、わかりやすい。

市川團十郎家だったら、成田屋。(團十郎家は代々成田山新勝寺を信仰し、
それで成田屋。今でも成田で海老蔵はよく豆まきをしたりしているのである。)
尾上菊五郎家だったら、音羽屋。

まあ、このあたりは、すっと出てくるようになった。

亀次郎がなった市川猿之助家は澤瀉屋(おもだかや)。
ここも家がはっきりしているので、覚えやすい。

わかりずらいのが、松本幸四郎と中村吉右衛門。
このふたりは実の兄弟だが家(屋号)が違う。
幸四郎は高麗屋で吉右衛門は播磨屋。

ともあれ。

今回の「白波五人男」はそんなわけで、当代五代目尾上菊之助の芝居と
いってよいのだろう。

そこで、少しだけ菊之助のことを書いてみる。

当代七代目菊五郎の子息で親譲りの二枚目。
女形も演るし若い二枚目の役も演る。
お母さんは富司純子、お姉さんは寺島しのぶ。
36歳、最近、吉右衛門の娘さんと結婚している。

私はなん度かこの人の芝居を見ているが、若手の中でも、
名門を継ぐに恥ずかしからぬ存在感のある役者だと思われる。

昨年の国立劇場の初芝居「夢市男達競」
現代演出の芝居で、女形から猫になるのだが、
猫耳をつけた菊之助は実に可愛くもあり、よい芝居であった。


今日はここまで、また明日。



豊国漫画図絵 弁天小僧菊之介 豊国 万延元年


 




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