断腸亭料理日記2014

秋刀魚を焼く

(まだまだ、一週遅れ。)

9月14日(日)夜

日曜日。

内儀(かみ)さんが秋刀魚を買ってきた。

今年の秋刀魚はどうなのであろうか。

ニュースなどでは不漁だった去年に比べれば
多少よいようではあるが、御徒町の[吉池]などでは
8月に入った頃から走りのものが高い値段で売られていた。

今週くらいからであろうか、そろそろ¥100台で
売られるようになっている。

やはり、昨年よりはよく獲れているのであろう。

よし、初秋刀魚記念、今日は折角なので、
炭で焼こうか。

昨冬火鉢の暖房用に買って使い残した炭がベランダにある。

そして秋刀魚用に、横に長い七輪もある。

まずは二回に分けて、火熾しに炭を入れガスレンジで
加熱する。

軽く熾きた炭を七輪へ移す。


ここに扇風機をあてて、キンキンに熾す。

まあ、渋団扇でパタパタやるのがそれらしいのだが
こういうところは機械に頼ってしまう。

十分ほど放置。

まだ、で、ある。

もう10分ほど。

だいぶよい感じに熾きてきた。

熾きている部分を上に並べ直し、塩をした秋刀魚をのせる。


焼き始めても、扇風機はあてたまま。

ある程度火が通り始めると、秋刀魚から脂が落ちて
煙がもうもうと上がる。

これが部屋の中に入るのを防止するという意図と
引き続き、強い火力を維持するため。

焼けてきて、煙は出ることはでるのだが、
もうもう、というほどには上がらない。

脂の乗りとしては、今年の秋刀魚も
今一つのようである。


ひっくり返す。

煙が少ないというのは、煙で燻されすぎず、
焼きやすいのだが、やはり少しさびしい。

もうよいかな。

皿にのせる。


しょうゆをかけ、大量の大根おろしとともに
食べる。

脂の乗りは今一つであるが、十分にうまい秋刀魚ではある。

はらわたも、むろんたっぷりの大根おろしとともに
食べる。これもまたうまい。

今年の秋刀魚、合格点ではあろう。


さて、秋刀魚のこと。

温暖化で日本近海で獲れる魚が変わってきている
というが、時季には、時季のものがいつもの値段で
並んでもらうのはよいことである。

特に秋刀魚は東京の人間にとっては、旬を感じられる魚としては
鰹もさることながら今はNO.1であろう。

旬の安くてうまい秋刀魚は庶民の味方などという言い方も
よくされてきた。

今は古典落語「目黒の秋刀魚」を実際に聞いたことのない人も
少なからずいると思うが、毎年恒例になっている
「目黒の秋刀魚祭」はそれこそ季節の風物詩として
皆が知るものになっている。

ただ、ちょっと立ち止まって考えてみると、
実際に獲れているのはご存知のように北海道の
東岸沖である。

落語「目黒の秋刀魚」が楽しまれていた頃は
銚子沖や三陸沖で獲れていたのだと思うが、
それと比べると実際には、もはや同じ旬の魚では
なくなっている。

私達東京の消費者の旬の秋刀魚が食べたいという
欲求、ニーズに沿って、遥か遠方まで行って、いわば
無理をして獲っているという言い方もできよう。

本当であれば、鰯なのか、鯵なのかわからぬが、
銚子沖で今、盛んに獲れている魚が安いはずで、
東京の人間はそれを食べるのが自然なのではなかろうか。
漁船の燃料費や獲れた秋刀魚の輸送費もからないことは
誰にでも理解はできる。

伝統的な季節感は、秋になれば秋刀魚である、
と教えてくれて、私達はそれを愉しみたいと
思うのだが、それは現代においてはある種の虚構、
なのである。

テーマパーク消費というのであろうか。

私の住む浅草の浅草寺前の伝法院通りの商店街は
書き割りのような昔風の木造のように見えるデザインに
なっており、まさにテーマパークである。

現代において、これはもう諦めねばならないこと
なのであろう。
考えてみれば、江戸前で獲れたの魚で握った鮨以外江戸前鮨ではない
とすれば、江戸前鮨など存在はしない。既に多くの魚は
そうなって久しい。
それが現代というものか。




 


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