断腸亭料理日記2015

福井・越前そばとソースかつ丼

12月16日(火)昼

北陸出張。

顧客への暮れのあいさつ回りである。

朝、上野から北陸新幹線に乗って、金沢。

もうあたり前になっているが、そういえば、
北陸新幹線の開業も今年であった。
東京から北陸方面へのアクセスは格段に便利になり
富山、石川、福井、北陸への注目が集まった年で
あった。

金沢からサンダーバードに乗り換えて
福井県のとある駅。

冷たい雨。

雪にはならなそうだが、風があって寒い。

昼飯は駅前のいつも入るちょっと小洒落た和食堂。

ここでおろしそばとソースかつ丼である。

ここなん年か北陸に通うようになっている。

ただほとんどが日帰りで、いわゆる観光のようなことは
ほぼしていない。

それでも北陸と一口にいうが、福井、石川、富山と
かなり個性が違っているのが段々にわかってきた。

金沢は加賀百万石城下町の歴史と文化。

富山は、富山湾の豊かな魚介と背後の立山。
豊かな水。
おわら風の盆。
だが、どちらかといえば、豊かだが、ちょっと厳しい自然があり
素朴なところ、か。

福井は永平寺、東尋坊、温泉、そば、そしてソースかつ?。

なんだか、レベルが違っているのだが、
そんな印象ではある。

ただ、この北陸三県に共通するのは
そこはかとない落ち着いた歴史を感じられるということ
で、ある。
これはきてみないとわからないことであった。

これにはいろいろなことがあるのだが、
一つは、このあたり、お寺が皆立派であるということ。

特段有名なお寺でなくとも、例えば私が知っている
東京など東日本のものとくらべると、どのお寺もとても
大きな屋根できれいな瓦が並んでいるように見えるのである。
これは北陸三県どこの街でも共通しているように思う。

例えば越前、福井県でみれば、禅宗である曹洞宗大本山永平寺がある。
また、戦国期の一向宗(浄土真宗)、門徒衆による自治、
織田信長など戦国大名との対立などあったことを
憶えておいでの方も多かろう。

この地域が歴史的にも仏教と深く関わってきて
今でもその気配が感じられるのである。

あるいはまた、こんなことも感じている。
それは、都からの距離ということにもなると思うのだが
地政学的なことに起因する歴史の古さである。

今ではあまり言われなくなっているが
北国(ほっこく)という言葉をご存知であろうか。

北国とは北陸のことを指す言葉であった。
ちっとも北ではないではないかと思われようが
むろんこれは京都からみて、ということである。

北陸というと日本海側で裏日本などというが、
平安の昔から江戸期まで、都など畿内と、東北地方、
さらに蝦夷・北海道とを結ぶ物流や人の往来のメインルートは、
太平洋側ではなく、日本海側であったわけである。

例えば、歌舞伎の勧進帳。
勧進帳の舞台である安宅の関は石川県の小松市内である。
義経弁慶主従がここを通って奥州へ落ち延びたのは
むろん、鎌倉のある太平洋側は通れなかったわけだが、
中世初期のこの頃、畿内から奥州への街道として一般的であった
ことの証拠でもあろう。

そういう意味で、例えば東海地方よりも北陸は
都とのつながりは古く密接であったといえる
のではなかろうか。

これが太平洋側では感じられない、そこはかとなく
落ち着いた歴史を感じられる雰囲気になっている
のではないかと思っている。

さて。

そんなことで、越前おろしそばと、ソースかつ丼のセット。


いやこれ、ここにくるとこれを食べずにはいられない。

福井県では冬でもおろしのぶっかけ。

辛み大根を使っているのかどうかはわからないが、
きちんと辛い。

むろん、大根おろしは時間がたてば辛みはなくなる。
福井の人々は、そうとうに辛い大根おろしにこだわりが
あるとも聞く。普通の大根でも一番辛みが出るのは
おろしてからどのくらいの時間かというのがわかっているらしいが
それを計算して調理する人もあるという。

つまり、それだけ越前おろしそばは、
平均値のレベルが高いと思うのである。

そして、ソースかつ丼。

これは全国にあって、そういう意味では珍しくもない
といえるかもしれぬが、越前おろしそばとのアンバランスが
なんともよく、欠かせない。

立ち喰いでなくともよいが、このセットを
出してくれる店が東京にもできれば流行るのでは
なかろうか。
北陸の食いものというとなんでもかんでも魚介類になるが、
B級ではなく奇を衒ってもいない、かといってA級でもなかろうが、
広く支持される、味のレベルを持っていると思うのである。





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