断腸亭料理日記2015

きぬかつぎ

6月17日(水)夜

さて。

帰り道、なにを食べようか、思い浮かばぬまま、
いつものハナマサに寄る。

野菜売り場。

ん!。

珍しいものがある。

親指大の小さい里芋。

小芋。

ほう。

これは。

きぬかつぎだ。

我々の世代であれば、知らない人もあるかもしれない。

なぜ私が知っているのかというと、
父親の好物であったから。

小芋を皮のまま茹でて、一部を切って、塩をつけて、
指で押すと皮からペロッと気持ちよく芋が抜けて
食べられる。

そこそこ量があって、200円程度。

買って帰ろう。

それから、から揚げ用などと書かれた鶏もも肉の
切ったもの。安いのでこれも。
簡単に、塩で焼いて食おう。

さて、きぬかつぎ。

父親が育ったのは戦前の東京、大井町だが、
その頃はまだ農地もあったからなのか、
わからぬが、よく食べていたのかもしれぬ。

私の子供の頃にはもうあまり出回っていなかったのか、
珍しいものとして、食卓に登場し、
親爺は喜んで食べていた記憶がある。

農村で育たれた方、あるいは現役の農家の方などは
むろん、よくご存知で今でもよく食べている、と
仰るかもしれぬ。

きぬかつぎ、というのは、辞書によれば、
元は、きぬかずきという言葉で、

「平安時代以降,身分の高い家の婦女子が外出する際,
顔を隠すため頭から衣をかぶったこと。」で、そこから
きぬかづき、
「里芋の子芋。また,里芋の子芋を皮のままゆでたり,
蒸したりしたもの。温かいうちに皮をむき,塩をつけて食べる。
[季] 秋。 《 母君の客よろこびて− /星野立子 》」(大辞林)

ということである。

皮のままの小芋を、衣をかぶった女性の姿に
見立てたもの。

きぬかつぎは、小芋(子芋)の食べ方でもあり、
その小芋そのものもいうようである。

風雅な名前だからか、季語でもあって、本当は秋口のもの。
どのあたりの習慣であるかわからぬが、
お月見には、これ、ともいうようである。

つまり出端(でばな)のまだ若い里芋ということなのか。
だいたいにおいて、里芋の本当の旬がいつだったか、
私ももうわからなくなってしまっていた。夏に育って
秋に収穫が本来であったか。

まず、洗う。


今はどうしているのか、機械でなのか。

私の子供の頃は、まだ八百屋の店先で水を張った樽に
里芋を入れ、棒を二本入れてかき混ぜながら
文字通り、イモアライをしていたのを思い出す。

あとは茹でるだけ。

鶏の方はフライパンで強火で焦げ目をつけながら焼く。

軽く塩をして皿にのせ、柚子胡椒を添える。

小芋の方、茹で具合は、串を刺して確認する。
茹ったら皿にのせる。
小皿に塩。

これはナイフできっかけを作りながら食べよう。

ビールを開ける。

焼鳥。


塩焼きの鶏は、柚子胡椒がうまい。

きぬかつぎ。


ちょっとナイフで切って、塩を付ける。


指で皮を押すと、気持ちよく
芋だけが、出てくる。

もう少し大きいものも、きぬかつぎにするかもしれぬが
このくらいの大きさが軽く一口で食べられる。

里芋は小さくても別段味は変わらなかろう。

塩をつけただけの里芋であるが
なぜだかこれがうまい。

普通の大きさの里芋に塩だけをかけて
食べるなんということは誰もしない。
不思議なものである。

酒の肴にもなる。

別段、どこの産地の小芋であるか、
または掘りたてなのか、どうなのか、
これもわからない。

茹でて塩をつけだたけで料理というほどのことはしていないが
これだけうまい。

うまい料理というのはなんであるか。

考えてしまう。






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