断腸亭料理日記2016

團菊祭五月大歌舞伎 その4

さて。

歌舞伎座の團菊祭も4回目。

最後は「男女道成寺(めおとどうじょうじ)」。

またまた、私の苦手な踊りの幕。

なのであるが、不思議と今回は飽きずに観ることができた。

「道成寺」。

「道成寺」にも実に様々なバリエーションがあって、
もっとも一般的なのは「京鹿子娘道成寺」。
踊るのは基本的に、娘一人。

今日のものは、男女で踊る「男女(めおと)」道成寺、
ということである。

海老蔵と菊之助。
むろん、菊之助の方が、女。

そもそも「道成寺」とはなにか。

歌舞伎を代表する、所作事、いわゆる踊りなのであるが、
紀州、和歌山県中部にある道成寺という古刹に伝わる、
「安珍・清姫伝説」というのがすべての起源。

どんなものなのかというと、清姫が思いを寄せた僧の安珍に
裏切られ、激怒のあまり蛇に変化し、鐘ごと安珍を焼き殺す、
という、なかなか壮絶なもの。
(そういえば、江戸のものだが「八百屋お七」も若い娘の
激しい恋心と火。この組み合わせは偶然ではないのかもしれない。)

この「安珍・清姫伝説」は平安時代にはもう既に
文字に書かれていたものがあるということで、相当に古い。

歌舞伎になる前に、室町時代に能になっている。

歌舞伎にしても、能にしても、
話の内容は、先の「安珍・清姫伝説」の後日譚。

400年後、再び焼けた鐘が完成し、その供養としようとすると
白拍子に化けた清姫が現れ、供養を妨害して蛇に姿をかえて
鐘を引きづり下ろし、その中へ消える。

まあ、このあたりを踊りにしている、ということだが、
ほぼほぼ、お話とは関係なく、美しい娘の踊り、と考えた方が
よい。

ともあれ、歌舞伎をご覧になったことがない方も、
大きな釣鐘が舞台中央に下がっている芝居の記憶が
あるであろう。

結局、お話とは関係がなくなっているので、
娘だけでなく、踊り手に男が出てきてもよい、という。
こういう融通無碍(ゆうずうむげ)、というのか、
テキトウなところが歌舞伎らしい。
(そう、歌舞伎(=江戸人)っていい加減なのである。
これがいい。)

さて。

成田屋と音羽屋の若い二人。

むろん私には踊りの細かいよしあしは
わからないが、まったく飽きなかった。

なぜであろうか。

一つは、どうも、娘一人で踊る道成寺は
相手の男を想定している所作がある、ともいう。

その想定している相手の男がちゃんといるので
わかりやすい。
どうもそんなことのようである。

つまり、一人で踊る方が抽象度が高いというのであろうか。
あるいは、芸術性が高い?。
それで、私のようなトウシロウはとてもついていけない
のかもしれぬ

あるいはまた、また、おどけて、江戸の吉原、京の島原、
長崎の丸山など各地の遊里を詠み込んだ唄に合わせて、
二人で鞠つき、羽根つきをする、なんという場面もある。

お気軽で調子よく、江戸っぽいといってよいのか。
わからぬが、とてもたのしめた。

菊之助は踊り手としても、役者としても
私はご贔屓。よかった。

海老蔵もこういう演目であれば、
人(ニン)に合っているというのか、十二分に
愉しませていただいた。



初代豊国 文化4年(1807年)江戸 中村座
路考改 瀬川仙女



さて。

来月の歌舞伎座は「義経千本桜」昼夜三部の
通し。観なければいけないような、怖いような。



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