断腸亭料理日記2016

米原井筒屋・駅弁・湖北のおはなし

10月5日(水)昼

福井出張。

福井へいくのであれば、どう行くのか。
むろん東京から。

北陸新幹線で金沢まわり。東海道新幹線で米原まわり。
さらに飛行機で小松経由。

北陸新幹線の開通で、金沢であれば間違いなく北陸新幹線なのだが、
その先の新幹線の通っていない在来の北陸線区間の福井県は
微妙な場所になっている。
その上、北陸新幹線というのは、東海道ののぞみのように
ばんばん走っていないのである。
それで到着時刻によってこの三つから選ぶことになる。

今日のスケジュールでは米原まわりが都合がよい。
ひかりで、米原までいって米原から、しらさぎに乗り換える。
ちょうどここがお昼なので、米原で駅弁を買って、
しらさぎの中で食べる、という予定を立てた。

この米原駅の駅弁というのが、よい、のである。

以前に一度、鮎の一夜干しの弁当を書いた。

ご飯も鮎。稚鮎、氷魚(ひうお)が炊き込まれており、
上に開いた鮎の一夜干しを焼いたものがのせてある。

味もさることながら、箱のデザイン、中身の見せ方、
全体のコンセプトなどなど、よく考えられており、
関心をしたのである。

米原駅に入っている駅弁は一軒で井筒屋という。
他の駅弁とは一線を画している。

新幹線からの乗り換え時間が10分ちょっとなので、忙しい。

ばたばたと階段を駆け上がり、在来線の改札に入り、
しらさぎのホームへ降りる階段の上に小母さんが駅弁の
店を開いている。

種類は意外に豊富。
小母さんは、近江牛ですよ〜、と声をかける。

近江牛をメインにしたものが3品ほど。
それから、元祖と銘打っている、鱒寿し、が2種ほど。
値段も600円ほどから1000円ちょいまで。
良心的といってよいだろう。

だが、以前食べた、鮎のものは見当たらない。
どうしたものか。
迷う。

ん?

真ん中に置かれたこれは幕の内のようなものか。

唐草模様の風呂敷のようなもので包んである。
近江牛よりも、こちらの方が本当は一押(いちお)しなのかもしれぬ。

小母さんに、他にも売り場がありますか?
と聞くと、ここが一番品数は多いですよ、とのこと。

よし。
その、一押しの唐草の風呂敷包みのものにしよう。
1150円也。

お茶も買って、しらさぎに飛び乗る。

外の包みはこんな感じ。

包装紙でもなく、さりとて布ではないが、
正確にいうと不織布というもの。

包みを解くと。

うわあ、凝っている。

名前は「湖北のはなし」。

巻き簾のようなものでくるまれている。

品名の入ったしおりが挟まれ、今時珍しい紙の紐でとめられている。

しおり左側、

「一、金壱阡百五拾圓也
 正に領収仕り候

 まいばら いづつや 印」

これがよいではないか。
ご大層に旧字。

しおりを開くと、

びっしり書いてある。
読めるであろうか。
なかなか、よいとは思われまいか。

中はこんな感じ。

台風も近付いており、曇り空であるが、車窓を眺めながら
食べる。

賤ヶ岳というのはどれであろうか。
google mapなぞを開いて、確認。

左手、あの辺りの山並のどれかか。

琵琶湖があって、田んぼのある山里。
どこか落ち着いた感じを抱かせる。

鴨のロースト、こんにゃく、お揚げとねぎのぬた、
赤蕪漬け、山牛蒡、、そして、まだ青いが、紅葉の葉ののった
栗おこわ。

幕の内定番のおかずも、逆にないのだが、
びっくりするもの、珍しいもの、金額の張るものは
ない。しかし、名前の通り「湖北のおはなし」らしく見せている。

車窓の風景とこの駅弁。

なにか、なるほど、と腑に落ちるように感じられる。

やはりこの「湖北のおはなし」、駅弁として秀逸なのでは
なかろうか。

人目を惹く、値の張る牛肉弁当でございます、もよいのだが
はっきりいえば、これであればどこでもよいのである。
ご当地のブランド牛など、今時どこにでもある。

うまいかそうでないかは、料理人の仕事だが、
どういうものを入れて、どう見せるかは、その駅弁を
考えた企画者の仕事。
値の張る○○牛を使いましただけでは、企画者は考えることを
放棄しているわけである。
(これは駅弁に限らない。外食関係すべてにいえる。
どこどこのなにを使った、にあまりにも頼りすぎていないか、
と思うのである。)

珍しくなくともよいのである。
値が張らなくともよいのである。
その土地の産物を使ったその土地の味付けのおかずが
いくつか入っています。
これで旅行者に価値ある駅弁に見せている。
いや、十分に見せられるのである。

この「湖北のおはなし」20年以上続いている駅弁らしい。
なるほど、さもありなん。




米原・井筒屋


 




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